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太川るい作品集(全作品ver.)  作者: 太川るい
掌編小説・短編練習
51/62

行商人

 あるところで、お日さまがさんさんと輝いておりました。


 向こうからは誰か人がやってきます。それは、大きな荷物を背負った行商人のようでした。


「まったく」


 男は汗をにじませながら、歩いてきます。


「なんで俺がこんなことをしなくちゃならないんだ」


 不平を並べる男のうしろから、身軽な格好をした子供が歩いてきました。


「まだまだ、長いねえ」


 手には道ばたで拾った棒切れを持っています。そんな子供を、男は恨めしそうな眼で眺めました。


「遊ぶんじゃない、早く行くぞ」


「はあい」


 棒切れで空を切ることに気をとられながらも、子供はついていきました。


 二人は長い時間をかけて歩いてゆくと、やがて大きな街にたどり着きました。


「着いたぞ」


 そう言いながら、男は手もとの紙きれを見ました。


「もう少し行ったところらしい」


 子供は街の様子に興味しんしんです。出店の売り物を通り過ぎるために振り返っています。


「売り物に触るんじゃないぞ」


 男はそう釘をさしながら、人ごみの中をどんどんと進んでいきます。目指しているのは、この中でもひときわ高くそびえている屋敷のようでした。


「これはこれは、ようこそお越しくださいました」


 屋敷の入り口で待たされていた男と子供を、物腰のやわらかな執事が丁寧に迎え入れます。二人が通されたのは、趣味のいい調度品が並べられた応接間でした。心なしか、男はすわりの悪そうな表情になっています。


 子供はやはり周囲のものに興味をひかれているようでしたが、屋敷の雰囲気におされて大人しくしています。


「やあ、どうも」


 気さくな挨拶とともに入ってきたのは、一目でこの屋敷の主だと分かる、立派な紳士でした。


「遠路はるばる、ご苦労様でした」


 紳士は子供のほうに目をやりながらも、男をねぎらいました。


「いえ、仕事ですから」


 子供は紳士が入ってきた時から、かしこまって小さくなっています。


「これが例の荷物ですか?」


 紳士は男の身に着けていた袋をみて、そうたずねました。


「いえ、荷物は大きいので、外に置いてあります」


「そうですか」


 おい、と紳士がそばに控えていた召使いを呼び寄せ、なにかを耳打ちします。それを聞いた召使いは、そのまま下がっていきました。


「なに、荷物の確認をさせていただければと思いました。すぐに終わります」


 紳士は運ばれた紅茶を口に含みました。

 

 カップを置く音が、部屋の中で妙に大きく響きました。

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