行商人
あるところで、お日さまがさんさんと輝いておりました。
向こうからは誰か人がやってきます。それは、大きな荷物を背負った行商人のようでした。
「まったく」
男は汗をにじませながら、歩いてきます。
「なんで俺がこんなことをしなくちゃならないんだ」
不平を並べる男のうしろから、身軽な格好をした子供が歩いてきました。
「まだまだ、長いねえ」
手には道ばたで拾った棒切れを持っています。そんな子供を、男は恨めしそうな眼で眺めました。
「遊ぶんじゃない、早く行くぞ」
「はあい」
棒切れで空を切ることに気をとられながらも、子供はついていきました。
二人は長い時間をかけて歩いてゆくと、やがて大きな街にたどり着きました。
「着いたぞ」
そう言いながら、男は手もとの紙きれを見ました。
「もう少し行ったところらしい」
子供は街の様子に興味しんしんです。出店の売り物を通り過ぎるために振り返っています。
「売り物に触るんじゃないぞ」
男はそう釘をさしながら、人ごみの中をどんどんと進んでいきます。目指しているのは、この中でもひときわ高くそびえている屋敷のようでした。
「これはこれは、ようこそお越しくださいました」
屋敷の入り口で待たされていた男と子供を、物腰のやわらかな執事が丁寧に迎え入れます。二人が通されたのは、趣味のいい調度品が並べられた応接間でした。心なしか、男はすわりの悪そうな表情になっています。
子供はやはり周囲のものに興味をひかれているようでしたが、屋敷の雰囲気におされて大人しくしています。
「やあ、どうも」
気さくな挨拶とともに入ってきたのは、一目でこの屋敷の主だと分かる、立派な紳士でした。
「遠路はるばる、ご苦労様でした」
紳士は子供のほうに目をやりながらも、男をねぎらいました。
「いえ、仕事ですから」
子供は紳士が入ってきた時から、かしこまって小さくなっています。
「これが例の荷物ですか?」
紳士は男の身に着けていた袋をみて、そうたずねました。
「いえ、荷物は大きいので、外に置いてあります」
「そうですか」
おい、と紳士がそばに控えていた召使いを呼び寄せ、なにかを耳打ちします。それを聞いた召使いは、そのまま下がっていきました。
「なに、荷物の確認をさせていただければと思いました。すぐに終わります」
紳士は運ばれた紅茶を口に含みました。
カップを置く音が、部屋の中で妙に大きく響きました。