画鋲
さいころを振ってみる。
ぶつかりあって軽い音を鳴らしながら、さいころたちはそれぞれで目を示した。
その数は、私にとって気に食わないものだった。
さいころを振ってみる。次はぞろ目が出た。
私の心は、少し明るくなった。
揃った上面は統一の美を教えてくれていた。
私の近くには画鋲があった。興が乗ってきた私は、その画鋲をぞろ目の数だけ進ませる。真っすぐばかりでは味気ないので、想像で作った道に沿うようにこの駒を進めた。
さあ次はどうだ。
三だけ進む。なんだ、罰金だ。
空想のゲームには次々と新しいルールが加わっていく。いつしか私は、五つの建築と三つの職業と、九つばかりの手下を従えるようになっていた。
よくぞここまできたものだ。
画鋲のたどった道筋は、複雑極まるものになっていた。もしそれが可視化されるならば、何重にもかさなった道はいくらかの層を形成しているはずであった。
「あとすこし、もうすこし」
私はなかなかこの遊びをやめることができなかった。
やめるべきタイミングを見失っていたと言った方がいいかもしれない。
床の上の画鋲の役割はますますその存在感を大きくしていった。それはとある一族の長をつとめるまでになっていた。
ふいに、自分の中での熱が弱まる。私はこの機を逃してはならないと感じた。
おごそかにさいころを元あった場所へと戻す。あとには画鋲ばかりが残された。
それでもその画鋲は駒たることをやめなかった。
私の眼には、この小さな金属はあるひとつの人生を包括している存在だった。
じっと見つめて、軽くうなずく。
画鋲は晴れて、私の机上の一員へと招き入れられることになった。