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猫
猫があたりをうろついている。
いつの間に部屋に入ってきたのだろうか。気付けば背後でかさりと音がしていた。
猫はそのまま、無言で部屋を散策している。
なにがそんなに面白いのだろうか。本棚の低いところにある本のにおいをくんくんとかいでいる。
そんな猫の様子を見たら、こちらもなんだか肩の力が抜けてきた。仕事を一段落させ、軽く伸びをしてみる。
ひとつ大きな息が出た。手近にあるコップの飲み物を口に含む。頭はぼんやり、今やっていた仕事のことを考えている。あれはあれで、かたがつくものだろうか。
猫が机の近くにやってくる。彼にしか分からぬ通り道で斜めに机を横切っていく。
これも猫の仕事のうちなのだろう。それを淡々と遂行しているのに過ぎないのではないか。
私は仕事を中断した気安さで、そんなことを考えていた。
口の中に残っていた飲み物を、同じもので更に奥へと流し込んだ。