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燐寸
マッチに灯がともる。
火はまわりの空気もぼんやりと明るくし、やがて消えた。
煙が絹のようにたなびいていくのだろう。木の燃える特有のにおいが自分の鼻をついた。
火が消えたあと、あたりは再び暗闇にとざされた。
もう一度、新しいマッチを手に取り、もう一方の手にマッチ箱を取った。中に残っている数本がカラカラと音を立てる。私はまた火をつけた。
「うるさい!」
すぐ近くで、鋭い声が飛んだ。
「何を考えている。そんなものをここで燃やすんじゃない」
その声には、ひどく冷たい響きがあった。壮年の、男の声らしかった。
私は無言でマッチを消した。足元に落としたマッチを、念入りに靴で踏みつける。
私は無言のままでいる。
その声を荒げた壮年の男も、それきり押し黙って時間を過ごしている。
遠くでは、風の音が鳴っている。木々が揺れているようだった。