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太川るい作品集(全作品ver.)  作者: 太川るい
掌編小説・短編練習
45/65

暖炉

 暖炉が音を立てて炎を燃やしている。火の粉はふわりとその中から出てきて、音もなく消える。外は暗い。かなり夜も更けているようで、外で活動している者は無いように見える。


 その暖炉の隣には、男がいた。椅子に座って、机に向かい、何やら難しそうな顔をしてペンを握りしめている。男の顔には絶望の色がほの見えている。


 彼は突然立ち上がる。両手を後ろで組みながら、熊のように部屋中を歩いて回る。考え込む息からは、獣の唸りのような音が漏れてくる。


 この男は、あることで悩んでいるのだ。しかも、それを誰にも打ち明けられず、自分一人の胸にしまい込んで苦しんでいる。しかし彼には、それが当然のことのように思われた。この悩みは自分一人に与えられたものだと決めこんで、ひどく彼は苦しんだ。そうすることが、彼には自分の仕事のように思われた。


 彼は悩み続けた。そして、唸り続けた。




 無意識の行動が予期せぬ結果に結びつくことは、まれによくあることである。彼は飾りの多い服を着ていた。彼はますます激しく歩いた。


 不意に、彼の服の一部が机の紙に触れて、そのまま机から落ちてしまった。紙は空中をひらひらと舞い、かすかな音を立てて暖炉の中へと落ち、そして燃えた。


 自分の世界に入り込んでしまっている彼は、そんなことには気付かないでいる。


 予期せぬ闖入(ちんにゅう)にいつもとはやや違う音をたてた暖炉も、またすぐに薪を燃やすいつもの音へと戻った。




 夜はますます更けてゆく。


 彼の悩みは続く。

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