暖炉
暖炉が音を立てて炎を燃やしている。火の粉はふわりとその中から出てきて、音もなく消える。外は暗い。かなり夜も更けているようで、外で活動している者は無いように見える。
その暖炉の隣には、男がいた。椅子に座って、机に向かい、何やら難しそうな顔をしてペンを握りしめている。男の顔には絶望の色がほの見えている。
彼は突然立ち上がる。両手を後ろで組みながら、熊のように部屋中を歩いて回る。考え込む息からは、獣の唸りのような音が漏れてくる。
この男は、あることで悩んでいるのだ。しかも、それを誰にも打ち明けられず、自分一人の胸にしまい込んで苦しんでいる。しかし彼には、それが当然のことのように思われた。この悩みは自分一人に与えられたものだと決めこんで、ひどく彼は苦しんだ。そうすることが、彼には自分の仕事のように思われた。
彼は悩み続けた。そして、唸り続けた。
無意識の行動が予期せぬ結果に結びつくことは、まれによくあることである。彼は飾りの多い服を着ていた。彼はますます激しく歩いた。
不意に、彼の服の一部が机の紙に触れて、そのまま机から落ちてしまった。紙は空中をひらひらと舞い、かすかな音を立てて暖炉の中へと落ち、そして燃えた。
自分の世界に入り込んでしまっている彼は、そんなことには気付かないでいる。
予期せぬ闖入にいつもとはやや違う音をたてた暖炉も、またすぐに薪を燃やすいつもの音へと戻った。
夜はますます更けてゆく。
彼の悩みは続く。