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第65話 開校記念祭の熱き闘い

今年も開校記念祭の季節がやって来た。去年、俺は練習中に骨折したため、2年ぶりの参加となる。


棒倒しとは、海軍兵学校以来の伝統競技であり、士官学校でも開校以来、開校記念祭の目玉行事として取り入れられている。各大隊から150名が選抜され、攻撃と防御に分かれ、2分以内に棒を30度以上傾けた方が勝ちとなるルールで、まさに肉弾戦そのものだ。


俺は150名の選抜メンバーの中で攻撃側に配属された。普段は技官ばりに授業をそっちのけで研究に没頭しているが、中等部時代からPMCに鍛えられているので体力には自信がある。今年は両親と玲奈が見学に来ているので、いつも以上に張り切っていた。


開校記念祭の棒倒しは単なる競技ではなく、士官候補生たちの士気と戦意を高める場としての意義も持っている。そのため、試合前から各大隊の隊員たちは士気を高めるための掛け声を上げ、気合いを入れていた。俺もその輪に加わり、仲間たちと闘志を燃やす。


競技開始の合図とともに、戦いが始まった。


最初の試合は順調に勝ち進み、俺は攻撃側として敵陣へ突撃した。体格の大きい相手に阻まれつつも、俺は素早い動きで隙を突き、敵の防御を崩しながら棒に接近する。敵のガードは固く、容易には棒にたどり着けない。だが、戦場では一瞬の判断が勝敗を決める。


俺は仲間と連携し、敵の一角を崩すと、そこから突破口を開いた。身体をぶつけながら敵を押しのけ、ついに棒へと手が届く。


「あと少し…!」


味方も次々と棒に取り付き、俺たちは棒を30度以上傾けることに成功。勝利の笛が鳴り響く。


「やったな!」


仲間と互いに肩を叩き合いながら、次の試合へと備える。


試合ごとに敵は強くなっていくが、俺たちは順調に勝ち進んでいった。


攻撃側として、如何に敵の防御を突破し、棒へと到達するかが鍵となる。試合の度に激しい肉弾戦が繰り広げられ、俺たちは傷だらけになりながらも粘り強く戦い抜いた。


そして、ついに決勝戦の時が訪れる。


決勝戦の相手は、士官学校内でも屈指の実力を誇る大隊だった。相手の守りは鉄壁で、これまでの試合とは比べ物にならないほどの抵抗を受ける。


試合開始の合図とともに、俺たちは全力で突撃した。しかし、相手の防御は予想以上に堅く、なかなか突破できない。


「行くぞ!」


俺は仲間と連携し、敵の壁を崩そうとするが、敵もまた巧みな防御でそれを防ぐ。互いにぶつかり合い、倒れながらも、俺たちは決して諦めない。


棒へと近づくには、敵の守りをいかに突破するかが鍵だ。俺は隙を見つけ、素早く突破を試みる。


「今だ、続け!」


仲間も次々と突撃し、ついに棒へと手が届いた。しかし、勝利を確信したその瞬間、味方の防御陣形が崩れ、相手に棒を傾けられてしまった。


敗北は悔しいが、ここまで戦い抜いた達成感があった。俺たちは互いの健闘を讃え合い、士官学校の仲間としての絆を深めた。


競技が終わった後、俺は両親と玲奈を学内に案内した。今年12月に士官学校を受験する玲奈を紹介しながら歩いたので、想定よりも時間がかかった。


「兄さん、棒倒しすごかった!あんな風に突撃してみたい!」


玲奈は目を輝かせながら、試合の感想を興奮気味に話していた。


しかし、学内の案内が始まると、その無邪気さは消えた。紹介されるたびに緊張し、ぎこちなく挨拶をする玲奈の様子は、普段の彼女とはまるで別人のようだった。


「しっかりしろよ、玲奈。お前もすぐにここで学ぶことになるんだからな。」


俺は少しからかうように声をかけた。


「わ、わかってるよ!」


そう言いながらも、玲奈は背筋を伸ばし、改めて真剣な表情で挨拶をしていた。


そんな玲奈の姿を見届けた後、ふと視線を巡らせると、美樹さんがこちらを見ていた。


美樹さんは穏やかな笑みを浮かべていたが、その目にはどこか寂しさが滲んでいた。俺が近づき少し微笑んでから口を開いた。


「最後の開校記念祭、楽しめた?」


美樹さんは頷きながら、「そうね」と答えた。


「来年からは、義之君の開校記念祭の話を聞く側になるんだね」


静かにそう呟く美樹さんの言葉に、俺は改めて時間の流れを感じた。


しばらくの沈黙の後、美樹さんは名残惜しそうに校舎を見つめた。


「私はここで過ごすのは、これで最後だけど……義之君は、まだここで過ごすんだね」


「ああ。来年も。」


俺は校舎を見上げながら、当たり前のように答えた。


「そっか……義之君がここで頑張るなら、私は安心して次へ進めるよ。でも私たちの関係はこれで最後じゃないしね」


美樹さんは微笑みながらそう言った。


「義之君と過ごしたこの時間、きっと忘れないよ。これからも義之君が迷った時は私が道を照らしてあげるね」


俺はその言葉に、どう返せばいいのか迷ったが、結局短く「こちらこそ」と答えた。


そのまま、俺たちはしばらく何も言わずに立ち尽くしていた。


すると——


玲奈が近くで待っていたのか、不満そうに腕を組みながらじっとこちらを見つめていた。


「兄さん、まだ話してるの?」


俺が美樹さんと話している間、ずっと待たされていたらしい。


「ぐっ……!」


次の瞬間、玲奈の肘打ちが脇腹に入る。


「痛いだろ!」


「だって、待ってたのに全然気づいてくれないんだもん!」


「……悪かったって」


俺は苦笑しながら謝り、玲奈を軽く小突いた。


「兄さんが悪いんだからね!」


玲奈は頬を膨らませながらも、どこか楽しそうに笑った。


美樹さんがくすりと微笑み、「賑やかでいいね」と呟いた。


こうして、美樹さんにとって最後の開校記念祭は幕を閉じた。


そして俺は、まだ続くこの場所で、新たな時間を迎える。

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