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第7話 想いを伝える瞬間

 庭園から応接室に戻る。

 両親は別室で歓談中。

 つまり——

 二人きり。

 俺と美樹さんが。この部屋で。

 夕陽が差し込む。暖炉の火と混じる。木製の壁が柔らかく——

 いや、そんなこと見てる場合じゃ。

 ソファに座る。美樹さんが向かいに。

 近い。妙に近い。

 風が木々を揺らす。葉擦れの音。静寂に溶ける。

 彼女の瞳が、俺を捉える。

 熱い。空気が震えてる気がする。

 ティーカップ。紅茶の香り。鼻がむずむず。

 彼女の手が、スカートを握る。

 ギュッと。

 何か——重大な話?

 心臓が、肋骨を蹴り上げた。

「義之君、実は……」

 声が震えてる。彼女の。

「話したいことがあるの」

 喉が、カラカラになった。

「驚かせちゃうかもしれないけど……」

 何。何を言うつもり。

「初等科の頃、初めて会った時から」

 息を呑む。

「貴方のことが気になって」

 は?

「中等部の頃からは」

 続く。止めて。いや、続けて。

「私はずっと義之君に好意を持っていたのよ」

 心臓が、止まった。

 本当に止まったかと思った。

 いや、動いてる。でも——

 時間が、止まった。

 彼女が俺を見つめてる。

 あの瞳に、想いが——

「えっ……」

 声が掠れる。上ずる。ダメだ。

「それって、本当ですか?」

 16歳の俺には刺激的すぎる。

 彼女が目を伏せる。恥ずかしそうに。

 小さく頷く。

 頬が、赤い。

 心臓が暴れる。もう限界。

「ええ、本当に好きだったわ」

 好きだった。過去形? いや、今も?

「でも、義之君ったら」

 膨れる。可愛い。ヤバい。

「いつも優しくしてくれるのに」

 そうか?

「私に対してはっきり意思表示をしてくれないんだもの」

 罪悪感。胸を刺す。

 確かに。気づいてた。中等部の頃から。

 でも——

 侯爵家の令嬢に告白なんて。恐れ多くて。

「美樹さんがそんな想いを……」

 呟く。

 彼女が身を乗り出す。

 近い。もっと近い。息が——

「気づいてほしかったんだよ」

 囁き。

 全身に鳥肌。ゾワッと。

 瞳に決意が宿る。

 次の言葉で——

 世界が変わった。

「だから、私、ずっと考えてお父様に頼んだの」

 は?

「『義之君を一度家に招いてください』って」

 それで今日——

「そして……」

 一呼吸。なぜ止める。

「来週には上杉家に※1 婚約の打診を送るつもりよ」

 こ——

 婚約?

 頭が、真っ白になった。

 婚約? 16歳で? 俺たちまだ高校生で——

 いや、華族社会では珍しくない。でも——

 彼女の手が、俺の手を握る。

 柔らかい。温かい。

 思考が、完全停止。

「ずっと、君を想ってた」

 続ける。彼女が。

 手のひらに汗。ビショビショ。

 顔が熱い。耳まで。

 夢? いや、手の温もりは現実。

「そ、それで……」

 声が震える。情けない。

「美樹さん、本当に俺で良いんですか?」

 俺なんかが? まだ16歳で。

 AIの研究も始めたばかり。何も成し遂げてない。

「貴方じゃなきゃ嫌なの」

 力が宿る。手を強く握られる。

 瞳が、潤んでる。

「君がAIで未来を描くなら」

 息を吸う。彼女が。

「私がそのそばにいたい」

 初等科の図書館。

 初めて手を握った時。

 温かかった。今も——

 覚悟を決める。

 深呼吸。震える声で——

「俺も、美樹さんのことが……」

 言え。言うんだ。

「ずっと好きでした」

 言った。

 顔が燃える。でも止まらない。

「初等科の頃から……ずっと」

 続ける。もう後戻りできない。

「あの星座図鑑を手に笑った美樹さんを」

 息を吸う。

「俺は忘れられない」

 彼女の瞳が揺れる。

 笑みが広がる。柔らかく。

「そう……嬉しいわ」

 声が震えてる。嬉し泣き?

「これで、やっとお互いの気持ちが通じたわね」


***


 庭へ出る。彼女の案内で。

 夕陽が西に傾く。空がオレンジ色。

 手を繋いだまま歩く。

 16歳には刺激が強すぎる。

 手のひらの汗。絶対バレてる。

「君のAIが未来を変えるなら」

 彼女が呟く。

「私もその一部になりたい」

「美樹さんと一緒なら」

 答える。

「どんな未来でも描ける」

 でも——

 内心では不安が渦巻く。

 婚約。

 重い言葉。16歳の肩に。

 責任を果たせる? 彼女を幸せに?

 まだ何も成し遂げてない俺が——


***


 帰宅。

 玄関で両親と玲奈。

 俺の顔を見て、母が——

「義之、何かあったの?」

 察しが良すぎる。

 深呼吸。震える声で——

「父さん、母さん、玲奈……」

 言うしかない。

「実は、一条院家から婚約の話が進んでる」

 空気が、固まった。

 そして——

「お兄様、すごい!」

 玲奈が飛びつく。

「美樹さんと結婚するの!?」

 結婚はまだ先だ。たぶん。

 父が眼鏡を直す。慎重に。

「美樹様と? 本当か?」

 頷く。今日の出来事を説明。

「彼女から直接聞いた」

 息を吸う。

「『初等科の頃から好きだった』って」

 母の目が潤む。

「まあ、義之……」

 心配そう。

「でも、まだ16歳よ?」

 分かってる。俺も不安。

「でも、華族社会では……」

 父が深く頷く。

「確かに、華族の婚約は早い」

 そして——

「私たちも16歳で婚約したからな」

 え? そうだったの?

 その夜。

 眠れない。

 婚約。美樹さんへの想い。16歳という若さ。

 全部が頭の中でぐるぐる。


***


 翌日。

 一晩考えた。

 決意を固める。

 不安はある。でも——

 美樹さんとなら。

 父が本家に連絡。俺は伯父に報告へ。

 広い応接室。重厚な机。

 伯父の厳格な視線。

「一条院家からの婚約の話が進んでいます」

 声に力を込める。

「来週、正式な打診が来る予定です」

 伯父が目を細める。

「16歳で婚約か」

 息を呑む。

「早いが、華族としては異例ではない」

 ホッとする。でも——

「しかし、責任は重い」

 視線が鋭くなる。

「お前にその覚悟はあるのか?」

 正直——

 完全な覚悟? ない。

 でも——

「あります」

 嘘ではない。まだ手探りだけど、本気だ。

「まだ若輩ですが」

 言葉を選ぶ。

「美樹さんと共に成長し、上杉家の名に恥じないよう努めます」

 伯父が深く頷く。

「一条院家が君のAI技術に目を付けたと聞くが?」

「はい。彼女の導きで、当主に説明しました」

「ならば」

 伯父の目が光る。

「その技術で上杉家の未来も切り開け」

 続ける。

「16歳という若さは、逆に可能性でもある」

 肩の力が、少し抜ける。

「正式な打診が来たら、上杉家として全面的に協力する」

 温かい言葉。

「お前たちの未来を信じているぞ」

 本家を後にする。

 空を見上げる。

 16歳での婚約。

 不安はある。

 でも——

 美樹さんと一緒なら。

 本当に、できるだろうか。

 いや——

 やってみせる。

 彼女のためにも。俺自身のためにも。

 絶対に。


***


※1 華族の婚約:この世界線では、家同士の結びつきを重視し、10代での婚約も珍しくない。

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