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第6話 届いた招待状

 舞踏会から一週間後。水曜日の朝。

 朝食の席。執事が銀の盆を差し出す。

 封書。

 一条院※1 侯爵家の紋章。封蝋が光る。

 手が、ブルブルと震えた。止まらない。

 週末に屋敷へ——招待。

 美樹さんの声が脳裏を——

「父にAIのことを教えてあげてね」

 胸が、焦げるように熱い。

 前世の設計図が、ざわめく。

 父が新聞から顔を上げる。

「義之、一条院侯爵家からか?」

 母と玲奈の視線。一斉に俺に。

 朝の光が食卓を照らす。眩しい。逃げたい。

「はい……舞踏会で美樹さんと話したのが……」

 違う。もっと深い意味が——

 父が眼鏡を直す。真剣な表情。

「一条院家は名門中の名門だ。粗相のないようにな」

 胃が、ギュッと縮んだ。

 母が微笑む。でも心配そう。

「緊張しすぎないで。あなたらしくいればいいのよ」

 らしく? 俺らしさって何だ。

 玲奈がパンを頬張る。

「お兄様、美樹さんのお家に行くの? いいなぁ」

 父と母が視線を交わす。

 意味深。大人は分かってる。これが単なる友人関係じゃないって。

***

 土曜日の午後。

 朝から落ち着かない。

 鏡の前。髪を整える。また整える。ダメだ。

 ネクタイを締める。締め直す。また締め直す。

 手のひらが、ビショビショ。

 心臓が、朝から暴れてる。ドクドクドクドク。

 呼び鈴。

 飛び上がりそうになった。マジで。

 玄関。父が肩に手を置く。

「義之、しっかりな」

 重い。余計に緊張する。

 母がネクタイを直す。

「楽しんでおいで。でも、お行儀よくね」

 お行儀。そんな余裕ない。

 玲奈が手を振る。

「お兄様、頑張ってくださいね!」

 足が、前に進まない。

 固まってる。完全に。

 運転手に促される。やっと車に。

 車が走る。静かに。

 窓の外の景色。流れてく。

 深呼吸。また深呼吸。効果ない。

 ノートPCの入ったバッグ。重い。やけに重い。

 一条院家の敷地。広大。

 庭園。歴史ある建物。

 胃が、もう限界。吐きそう。

 車が停まる。

 扉が開く。

 純白のワンピース。美樹さんが——

 息が、止まった。

 舞踏会とは違う。柔らかな雰囲気。

 でも美しい。美しすぎる。また——

「義之君、よくいらっしゃいました」

 声に緊張が頂点。

 手を差し出される。握手。

 柔らかい。温かい。

 顔が、熱い。手汗。絶対バレてる。

「お、お招きいただきありがとうございます」

 声が上ずった。最悪。

 彼女がくすりと笑う。

「そんなに固くならないで」

 無理。絶対無理。

「父も母も、あなたにお会いするのを楽しみにしているのよ」

 両親。会う。人生最大の緊張。間違いない。

***

 応接室への廊下。

 重厚な扉の前。立ち止まりそうになる。

 扉が開く。

 当主が立ち上がる。威厳。

「ようこそ、上杉君」

 背筋が、ピンと伸びる。

「娘が目を輝かせて話す君に会えて嬉しいよ」

 目を輝かせて? 美樹さんが? 俺のこと?

 夫人が微笑む。優雅。

「緊張なさらないでくださいね」

 してます。めちゃくちゃしてます。

 深く頭を下げる。

「上杉義之です。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 声、震えてないか? 大丈夫か?

 着席。ノートPCを取り出す。

 起動——

 エラー。

 大量のエラーメッセージ。

 血の気が、サーッと引いた。

 冷や汗。背中がビショビショ。

「す、すみません! 少々お待ちください」

 手が震える。キーボードを叩く。

 なぜ今。なぜこんな時に。

 美樹さんが隣に。小声で——

「大丈夫、落ち着いて」

 深呼吸。エラーの原因を探る。

 数分。長い。永遠みたいに長い。

 やっと正常起動。

 当主が身を乗り出す。

「さて、何ができるんだ?」

 まだ震える声で——

「こ、これは、ニューラルネットワークを基にしたAIです」

 説明を始める。

「人間の脳のように学習し、予測を行います」

 画面にグラフ。

「例えば、この金融データを入力すると……」

 AIが分析開始。予測結果を表示。

 当主の目が輝く。

「ほう、市場の動向を予測できるのか」

「はい、まだ試作段階ですが……」

 夫人が頷く。

「素晴らしいわね。15歳でこれだけのものを」

 美樹さんが誇らしげ。視界の端で見える。

 緊張が、少しずつほぐれる。

 AIの話なら。これなら話せる。

***

 庭園。

 6月の夕陽。芝生が黄金色。

 大きく息を吐く。やっと終わった。

「お疲れ様、義之君」

 美樹さんの優しい声。

 張り詰めていたものが、プツンと切れる。

「正直、人生で一番緊張しました」

 彼女が笑う。

「でも、父も母も、あなたのことをとても気に入ったみたい」

 立ち止まる。俺の方を向く。

 夕陽が髪を輝かせる。綺麗。

「ねえ、義之君」

 何か言いたそう。

「今日のこと、父と母がどれだけ楽しみにしていたか、分かる?」

 首を傾げる。分からない。

 彼女の頬が、赤くなる。

「実はね、これは私にとっても大事な時間だったの」

 声が小さくなる。

「君とこうやって家族が会うことが……」

 言葉が途切れる。俯く。

「……たとえば、将来を考える一歩かもしれないって」

 え?

 脳が、処理を始める。

 将来? 一歩? 家族が会う?

 つまり——

「お付き合いする前の、両親からの面接みたいなもの?」

 彼女が顔を上げる。いたずらっぽい笑み。

「ふふ、やっと気づいた?」

「えっ……」

 理解が追いつく。

「えぇぇっ!?」

 顔が、一気に熱くなる。

 耳まで真っ赤。自分でも分かる。

 今日の本当の意味。今更——

 美樹さんが慌てて手を振る。

「あ、でも、焦らなくていいよ」

 でも頬は赤い。夕陽のせいじゃない。

「一緒に進む未来を、ちょっとだけ想像しただけだから」

「美樹さん……」

「ねえ、義之君」

 真っ直ぐ見つめられる。

「君のAIの夢、私、本気で応援してる」

 胸が、ぎゅっとなる。

「父が目を輝かせてたの見て、私も嬉しかった」

「美樹さん」

 勇気を振り絞る。

「君がそばにいてくれるから、俺、頑張れる」

 続ける。止まらない。

「あのプログラムだって、君がいなかったら、ただのバグだらけのコードだった」

 彼女が目を細める。

「私もだよ」

 風が吹く。

「君と出会って……世界が変わった」

 手を差し出される。

「一緒に、未来を創ろうね」

 今度は迷わない。

 手を握る。しっかりと。

 夕陽が彼女の横顔を照らす。

 温もりが、俺の夢を支える。

 一条院家への訪問。

 俺たちの絆を未来へ繋ぐ一歩。

 いや——

 将来を考える、最初の一歩だった。

 間違いなく。


***


※1 侯爵家:華族の中でも最上位に近い家格。結婚相手も慎重に選ばれる。

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