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閑話 美樹視点:華族動乱 ―変革の旗手・上杉義之

 私は小学校の頃、ただの好奇心旺盛な子供だった。

 家のしきたりや格式に従っていたけれど、それが特別なものだとは思っていなかった。朝の挨拶も、食事の作法も、体が勝手に動く程度のもの。

 でも——

 義之君と出会ってから、胸の奥で何かが変わり始めた。

 義之君は私によく懐いていた。公園で面白い虫を見つけると、小さな手で私の袖を引っ張る。

「美樹さん、見て!」

 目がきらきらと輝いていた。

 でも、ただの弟分じゃなかった。ある日、公園で遊んでいたときのこと。年上の子供たちが騒いでいる中、義之君はじっと目を細めて周囲を見ていた。

「どうしたの?」

 私が尋ねると、彼の眉が少し寄った。

「もうすぐ喧嘩が始まりそう」

 その直後、本当に些細なことで子供たちの口論が始まった。

 背筋がぞくりとした。まるで未来を見通しているような彼の洞察力に、心臓が早鐘を打つ。

 それ以来、私の視線は無意識に義之君を追うようになっていた。

 彼は私に懐いている——そう思っていたけれど、実は私の方が彼に惹かれていた。胸の奥がじんわりと温かくなる感覚。

 小学校を卒業する頃には、その温かさは確信に変わっていた。

「義之君は、私が自分で見つけた宝物だ」

 声に出すと、頬が熱くなった。

***

 中等部に入ると、義之君の成長に目を見張った。

 背が伸び、声が低くなり、横顔が凛々しくなっていく。心臓がどきどきした。

 でも変化は外見だけじゃなかった。

「美樹さん、このAIの動作原理、面白いと思いませんか?」

 義之君が見せてくれた画面に、複雑な数式が並んでいた。私には理解できない。でも彼の瞳は生き生きと輝いている。

「どうして、義之君はこんなに何でもできるの?」

 つい口から漏れた。義之君が振り返る。

「美樹さんがいるからですよ」

 さらりと言われて、顔が燃えるように熱くなった。

 私の中で、彼への想いが変わっていく。ただの幼馴染としてではなく——

 胸が締め付けられる。彼がこれからどんな未来を切り開いていくのか見届けたい。そして何より、私自身が彼を助けたい、導きたい。その願いが喉の奥で膨らんでいく。

***

 高等部に進学する頃、義之君の周りに変化が起きた。

 近衛沙織さん、松平千鶴さん、黒田真奈美さん——

 彼女たちが義之君の周りに集まり始めた。胸がちくりと痛む。

 ある日、三人が私の前に現れた。

「一条院さん」

 沙織さんが真っ直ぐ私を見つめる。

「私たちもお付き合いを認めてほしい」

 息が止まった。手のひらに汗が滲む。

 義之君を独占したい——その気持ちで胸が苦しくなる。でも、それ以上に強い想いがあった。

 彼の影響力がどこまで広がるのか見届けたい。彼の元に華族の力が集結すれば、間違いなく大きな変革が起こる。

 深く息を吸った。

「……分かりました」

 声が震えないよう、必死に抑えた。

「でも、義之君を悲しませたら許しません」

 三人の肩が少し強張る。でもすぐに、それぞれが頷いた。

***

 華族社会に、ざわめきが広がり始めた。

「上杉義之は華族社会を再編しようとしている」

 そんな噂が耳に入るたび、背筋が冷たくなる。

 保守派の華族たちの声が、廊下で聞こえてくる。

「たかが一士官学校生が、なぜ華族社会を動かそうとするのか?」

「AI技術など華族の本質には関係ない」

「伝統を守ることこそが我々の使命だ」

 その度に、拳を握りしめた。爪が掌に食い込む。

 でも、すべての華族が反発したわけじゃない。

「華族も時代に合わせて変わらなければならない」

「義之君の存在は、その象徴になり得る」

「彼の知識と才能は、これからの華族にとって必要不可欠だ」

 そう言って、義之君の元へ集まる人たちもいた。胸が熱くなる。

 一条院家が政治支援を、近衛家が外交支援を、松平家が文化・世論操作を、黒田家が情報網を——

 それぞれの家が持つ力が、義之君を中心に結集し始めた。

 旧勢力と新勢力の対立が、日に日に激しくなっていく。

「義之君は、華族社会の変革を望んでいるわけじゃない」

 私は何度もそう説明した。喉が枯れるほど。

「ただ、合理的な判断をしようとしているだけです」

 でも保守派には通じなかった。彼らの目は、恐れと敵意で濁っている。

 この対立は、やがて華族社会全体を揺るがす大きなうねりへと発展していく——

 そんな予感に、夜も眠れなくなった。

 でも、義之君がいる限り、私は前を向いて歩いていける。

 手を握ると、その温もりが勇気をくれる。

 変革の時が、すぐそこまで来ている。

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