第56話 飛燕改の初飛行とAegis-β4のデモ飛行
今日は飛燕改の初飛行だ。
格納庫に冷たい風が流れ込む。肌が粟立った。各国の武官たちの視線が首筋に突き刺さる。特にアメリカとイギリス——※1F-35の優位を信じる彼らの眼光が鋭い。
このデモが、世界の軍事バランスを変えるかもしれない。喉が渇く。
「準備完了、テストパイロット搭乗」
無線から声が響く。技術者たちが走り回る。格納庫から飛燕改が姿を現した。朝陽に照らされた機体が鋭く輝く。
俺は管制塔のモニター前に立った。心臓が早鐘を打つ。
「ねえ、しくじったら大変なことになっちゃうよ」
主任の柴田さんが肩を揺らす。観客席では、アメリカ武官——金髪で長身の男——が腕を組んでいる。隣のイギリス武官が双眼鏡を構えた。
「滑走始め」
オペレーターの合図。飛燕改が唸りを上げて加速する。エンジンの轟音が腹に響いた。地面が震える。
次の瞬間、無線がノイズに乱れた。モニターに赤い警告が点滅する。
「敵機役が異常接近!」
技術者の声が裏返る。会場がざわついた。
「え、ちょっと何!?」
柴田さんが席から立ち上がる。俺は画面に目を凝らした。光が目を刺す。
飛燕2機が異様な速度で迫っている。模擬ミサイルの軌跡が空を裂く。
「プログラムが暴走してる!」
柴田さんの顔が青ざめる。
「実戦モードに切り替わっちゃったよ!」
アメリカ武官が立ち上がった。
「日本の新戦闘機が制御不能か?」
唇の端が上がる。
「F-35ならこんな失態はない」
嘲笑が風に乗った。俺の拳が握られる。
「失敗なら本国に報告だ」
イギリス武官がメモを取る。
「笑いものだな」
北中国武官が無表情でペンを走らせる。ロシア武官の口元が微かに動いた。
管制室の空気が重い。息が詰まる。
「操縦士、状況は?」
柴田さんが無線機を握りしめる。
「AIの予測がズレてます、回避が――」
声が途切れた。俺は設計図を脳裏に描く。前世の知識が閃いた。
「AIのリセットしかないよ!」
柴田さんの声が震える。
「待て」
俺は別の可能性を見た。
「リセットより予測パラメータの微調整を」
「でも時間が――」
「俺を信じてくれ」
キーボードに手を置く。指が震えていた。前世の知識と、この世界での経験が融合する。
画面に数値が流れる。一つ一つを調整していく。汗が目に入った。
「上杉君、あと15秒で――」
「間に合う!」
最後のEnterキーを叩いた。モニターが一瞬暗転する。
「再調整完了!」
息を吐く。肩の力が抜けた。飛燕改が急上昇する。機体が空を切り裂いた。
敵機をかわす。会場が息を呑んだ。
「すばらしい対応だ!」
軍の高官が拳を握る。管制塔に安堵の空気が流れた。
「チームワークですよ」
俺は柴田さんを見る。
「君の設計と判断があってこそだよ、上杉君」
彼女の頬が緩んだ。
***
午後。本番が待っている。先日認可された※2Aegis-β4との編隊飛行だ。
「Aegis-β4、フォーメーション開始」
柴田さんが指示を出す。飛燕改を先頭に、2機のAegis-β4が左右に広がった。鳥の群れのように舞う。
観客席が静まり返る。
「模擬戦、再開ね」
柴田さんが無線に告げる。俺はモニターを見つめた。飛燕改のAIナビが敵機の動きを予測する。Aegis-β4がシームレスに追従した。
「ターゲット捕捉!」
パイロットの声が響く。飛燕改が敵機の背後を突いた。
「ロックオン!」
模擬ミサイルが放たれる。
「撃墜判定!」
火球の映像が空を染めた。会場が一瞬静寂に包まれる。
アメリカ武官の顔色が変わった。顎が震えている。
「Bloody hell...」
イギリス武官の手が震える。紅茶がカップからこぼれた。
「これはF-35を超えている」
北中国武官がメモを握り潰す。紙が音を立てた。ロシア武官の喉が小さく鳴る。
拍手が沸き起こった。
「AIに魂が宿ってるのか!?」
誰かが叫ぶ。
俺は息を整えた。胸が熱い。飛燕改とAegis-β4は既存の無人機を超える機動性と判断力を証明した。
アメリカ武官が席を立つ。足音が近づく。
「F-35の優位性が揺らぐ」
部下に囁く声が聞こえた。
「データが必要だ」
「共同演習で実戦データを取らねば」
イギリス武官がペンを走らせる。
「これは脅威だ」
北中国武官が静かに立ち上がった。
「対策を急がねば」
「興味深い玩具だ」
ロシア武官の唇が歪む。会場の空気が変わった。国際的な駆け引きの気配が濃厚に漂う。
***
デモ飛行後、各国関係者が俺たちを取り囲む。
「AIナビの処理速度は?」
「リンクシステムの耐性は?」
質問が矢のように飛ぶ。
「上杉君」
アメリカ武官が近づいてきた。息がかかる距離。
「これは脅威だよ」
瞳に焦りと警戒が宿っている。
「そう見えるなら光栄です」
俺は視線を逸らさない。
「輸出交渉を急がなきゃ」
イギリス武官が早口で呟く。
「本国に報告を」
北中国武官が無表情で席を立った。
「次は我々の空で試したいね」
ロシア武官の口元が吊り上がる。
会場が騒然とした。靴音が響く。ドアが何度も開閉する。
非公開の評価会議。日本側は情報を慎重に管理する。技術的優位性を示して外交的立場を固めた。
「これで日本の空は守れるね」
高官の一人が呟く。技術者たちの顔に疲労の色が浮かぶ。
管制塔でモニターを見ながら、俺は拳を握った。アメリカ武官の焦った顔、イギリス武官の慌てた動き、北中国の無表情、ロシアの冷笑。
全部、頭に焼き付いている。
戦場を変える技術なら、俺の手でさらに磨き上げる。飛燕改が空を裂く姿に、未来への決意が宿った。
だが、首筋がざわつく。プログラムの暴走は、本当に偶然だったのか?
会場を去る北中国武官の横顔。一瞬、口元が上がった気がした。
***
※1 F-35:ロッキード・マーティン社製の第5世代戦闘機。多国間共同開発による最新鋭機
※2 Aegis-β4:作中に登場する架空の戦術AI搭載無人機。自律的な判断能力と学習機能を持つ
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