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第54話 UCAV進化の最前線 ~Aegis-β4の試験飛行

 休日なのに研究所の廊下は人で溢れていた。

 白衣の袖をまくり、コーヒーを片手に議論する研究員たち。誰も帰ろうとしない。

「休日出勤、みんな好きでやってる感じなんだよな」

 俺が呟くと、佐藤さんの口角が上がった。

「面白い研究に関われるなら、それだけでモチベーションになりますから」

 彼は眼鏡を中指で押し上げる。

「好きなことを仕事にできる環境って、こういうものなんですよ」

 俺は頷いた。胸の奥が温かくなる。技術が形になる瞬間を目の当たりにできる喜びは、他では味わえない。

「お昼まだなら、一緒に行きませんか?」

 佐藤さんが腕時計を確認する。正午を回っていた。腹が鳴る。データに没頭していたせいで、空腹に気づかなかった。

「いいですね。近くに食堂ありましたっけ?」

「研究所内のカフェテリアですが」

 彼の歩調が速くなる。

「意外とメニューが豊富なんですよ」

 カフェテリアのドアを開けると、揚げ物の香りが鼻を突いた。研究員たちがタブレットを片手にデータを眺めながら食事をしている。

 俺は日替わりランチの鶏の唐揚げ定食を選んだ。トレイが重い。

 席に着き、唐揚げを口に運ぶ。サクサクの衣が歯に当たる。肉汁が舌に広がった。

「人気メニューなだけあって、美味いな」

「揚げたてが自慢なんですよ」

 佐藤さんが箸を止めた。

「ここで働く楽しみのひとつですね」

 彼の視線が遠くなる。

「実は学生時代、この唐揚げ定食を食べながら」

 声が少し震えた。

「いつか自分のAIで空を飛ばすんだって夢見てたんです」

 俺の喉が詰まる。同じ夢を見ている。

***

 研究室に戻ると、新たなシミュレーション結果がスクリーンに映っていた。※1UCAVが敵機を一瞬で囲む。編隊が生き物のように動く。

「すげえ、これなら戦場で無敵じゃないですか!」

 技術者の一人が拳を握る。

「実戦投入が現実味を帯びてきましたね」

 俺はモニターに近づいた。

「次は電子戦環境での耐性ですね」

 研究員たちが椅子から立ち上がる。新たな挑戦に向けて手が動き始めた。

 ……ただ、胸の奥で何かが引っかかる。完璧すぎるものには、必ず落とし穴がある。背筋が冷たくなった。

「このバージョンでは、※2群制御により自律的な戦術判断を可能にする」

 佐藤さんがキーボードを叩く。

「しかし、それを実戦で証明できなければ、ただの机上の空論だ」

「では、まず仮想戦場でのシミュレーションを開始しましょう」

 モニターに仮想空間の戦場が映し出される。テスト機のUCAVが投入された。

 仮想敵機がジャミングを発動する。通信が途切れる音。多方向からの攻撃。

「ここで問題なのは」

 技術者の指が震える。

「AIが敵のフェイク信号を見極められるかどうかですね」

 UCAVが索敵データを解析し始めた。欺瞞信号のパターンを学習していく。通信が途絶した瞬間、独自の行動パターンで反撃を開始した。

「……敵の陽動作戦を無視してる」

 佐藤さんの眼鏡がずり落ちた。画面に釘付けのまま直そうともしない。

「フェイク信号を切り捨てて、本命の敵機に狙いを絞っている」

「※3Aegis-β4は、既存のAIとは違う」

 俺の声が研究室に響く。

「従来のシステムなら全ての信号を解析しようとして遅延が発生する」

 手のひらに汗が滲む。

「これは学習データを用いて優先順位を自律的に判断する」

 結果は圧倒的だった。

 従来のUCAVならフェイク信号に翻弄される場面でも、Aegis-β4搭載機は正確に敵を捉えた。最小限の消耗で撃墜成功。

「やるな……!」

 誰かの声が震えた。

「だが、シミュレーションだけでは本当の戦場を想定しきれない」

 俺は深呼吸する。

「次は実機での飛行試験に移ろう」

***

 翌朝、開発施設の滑走路。Aegis-β4を搭載した試作UCAVが並ぶ。朝日が機体を照らす。

「本日の試験では、4機編隊での行動パターンを確認する」

 佐藤さんがクリップボードを握る。

「電子戦耐性の向上もチェックする」

「今回は敵役として」

 技術者が緊張で声を詰まらせた。

「最新鋭の電子戦機※4EW-06が妨害攻撃を仕掛ける」

「EW-06は最新の妨害装置を搭載してる」

 佐藤さんの額に汗が浮かぶ。

「従来の通信系統を完全にシャットアウトする能力を持つ」

 俺は無線機を握った。手が湿っている。

「UCAV、発進準備を完了次第、離陸せよ」

 ゴォォォォォン!

 エンジンの轟音が腹に響く。UCAVが次々と滑走路を駆け抜ける。機体が空へ舞い上がった。

 上空でEW-06が電子妨害を開始。通信ネットワークが途絶える。耳がキーンと鳴った。

「ここからが本番だ……」

 喉が渇く。

 AIが即座に状況を解析する。フェイルセーフモードへ移行。それぞれの機体が独自の判断でフォーメーションを組む。

「反応は……どうだ?」

 技術者の手が震えている。

 UCAVが電子妨害の影響下でもデータを共有した。最適な攻撃経路を選択する動き。

「通信途絶!」

 警告音でモニターが赤く点滅する。技術者の顔が青ざめた。

「大丈夫だ」

 俺は拳を握る。

「AIが敵の陽動を無視して動く」

「これが戦術共有システムの力だ」

 佐藤さんが身を乗り出す。

「各機が学習した情報をリアルタイムで処理してる」

 数分後、UCAVがジャミングを切り裂いた。EW-06を一瞬でロックオン。モニターに映る撃墜マーク。

「まるで空の忍者だな」

 俺の唇が勝手に動く。

「いや、忍者以上か」

「これぞ未来の戦場だ!」

 佐藤さんが拳を振り上げた。眼鏡がまた落ちそうになる。

「完璧だ……!」

 歓声が上がる。背中を叩く音。握手を求める手。

 ふと美樹の声が蘇った。『君ならできるはずだ』

 図書館での言葉が、今ここで現実になった。胸が熱くなる。あの時彼女が返した特異点が、俺をここまで導いたんだ。

「UCAVの自律性は大幅に向上した」

 佐藤さんが深く息を吐く。

「ジャミング下でも適切な戦術行動を取れる」

「問題はコストだな」

 俺は腕を組んだ。

「1機あたりの価格が跳ね上がる」

「だが、これだけの性能なら現場での採用は十分にあり得る」

「それだけじゃない」

 喉が詰まる。

「操縦士の命が助かる」

 佐藤さんが頷いた。目が潤んでいる。

「次の段階では、実戦配備を想定したストレステストを行いましょう」

「有人機との連携も試したい」

 俺の手が震えた。

「戦術の幅を広げることが可能になる」

 空を見上げる。UCAVが編隊を組んで飛んでいく。

 未来の戦場が、もうそこまで来ている。

***

※1 UCAV:Unmanned Combat Aerial Vehicle(無人戦闘航空機)。武装を搭載し戦闘任務を遂行する無人機

※2 群制御:複数の機体が相互に情報を共有し、一つの群れとして協調行動を取る制御技術

※3 Aegis-β4:作中に登場する架空の戦術AI。自律的な判断能力と学習機能を持つ

※4 EW-06:Electronic Warfare(電子戦)機。通信妨害や電子攻撃を専門とする航空機

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