表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/122

第53話 観覧車と揺れる恋心

 横浜。港の風が頬を撫でる。俺は美樹さん、沙織さん、千鶴さん、真奈美さんと休日を過ごしていた。

 観覧車のライトが少しずつ夜空に映え始める。

「まずはどこ行く?」

 千鶴さんが両手を腰に当てた。

「中華街で食べ歩きとかどう?」

 真奈美さんがスマホを覗き込む。

「いいね!私、小籠包食べたい!」

 沙織さんが飛び跳ねた。全員が賛成し、俺たちは中華街へ向かうことにした。

 通りに入ると、油の匂いが鼻をつく。色とりどりの提灯が頭上に並ぶ。週末の人混みで肩がぶつかる。

「これ、美味しそう!」

 美樹さんが指差したのは、湯気を上げる肉まんだった。

「熱っ!」

 俺は舌を焼いた。肉汁が口の中で弾ける。

「ふふ、大丈夫?」

「……美味いけど、めっちゃ熱い!」

 涙目になる俺を見て、美樹さんが吹き出した。

「はいはい、次は私が買う番!」

 千鶴さんがゴマ団子を持ってくる。砂糖が指にベタつく。もちもちの生地を噛むと、中から餡が溢れた。

「ねぇ、次はどこ行く?」

「赤レンガ倉庫とか?」

 沙織さんの提案に頷く。

***

 赤レンガ倉庫のカフェテラス。波の音が耳に届く。ホットチョコレートのカップが手のひらを温める。

「こういうのもいいわね」

 美樹さんがカップを両手で包む。湯気が顔にかかる。

 みんなの肩が触れ合う距離。いつもより体温を感じる。

「じゃあ、最後に観覧車乗りましょう?」

 千鶴さんが立ち上がった。

***

 コスモワールドの観覧車。ゴンドラがゆっくりと上昇する。胃が浮く感覚。

「こういう観覧車、久しぶりだな……」

 俺は窓に額を付けた。ガラスが冷たい。士官学校の厳しい日々を思えば、こうしてのんびり景色を眺める時間も悪くない。

「なんだか、ロマンチックですね……」

 隣の沙織さんの声が震えている。手が膝の上で握られていた。

「義之君、せっかくの機会だし」

 千鶴さんが俺の肩を突く。

「こういうのも楽しんでみないとね?」

 真奈美さんは窓の外を見つめたまま、耳が赤くなっている。

「まぁ、そうだな」

 俺の言葉が、ゴンドラの中に溶けていく。

 その時——

 ゴンドラが大きく揺れた。

「うわっ……!」

 足元がふらつく。体が傾く。隣の沙織さんへと倒れ込んだ。

 次の瞬間、唇に柔らかい感触。

「んっ……!?」

 時間が止まる。

 沙織さんの瞳が目の前にある。息が顔にかかる。

「~~~~~っ!!!」

 沙織さんが俺を突き飛ばした。顔が真っ赤に染まっている。

「違う!今のは事故だ!」

 俺は手を振る。

「じ、事故って……!」

 沙織さんは両手で顔を覆う。指の隙間から見える肌まで赤い。

「義之君?」

 背筋が凍る。美樹さんの声が低い。

「ち、違う!これは事故で!」

「事故ねぇ……?」

 美樹さんがゆっくりと立ち上がる。ゴンドラが軋む。

「で、でも……!」

 千鶴さんも真奈美さんも視線を逸らした。助けは来ない。

「じゃあ、私も?」

 千鶴さんが俺の襟を掴む。

「せっかくだし、もらっておこうかな?」

「ちょっ、ちょっと待っ」

 言いかけた瞬間、唇が塞がれる。甘い香りが鼻をくすぐる。

「!?!?!?」

 頭が真っ白になる。

 真奈美さんが突然立ち上がった。ゴンドラが揺れる。

「わ、わたしは……」

 彼女の手が俺の頭を掴む。指が髪に絡まる。

「……負けません」

 額がぶつかる。痛い。

「ま、待て真奈美さん!それキスじゃなくて頭突き」

「……っ!!」

 真奈美さんの顔が爆発しそうなほど赤くなる。今度は俺の肩に顔をうずめた。髪が頬に触れる。くすぐったい。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 声が勝手に出た。士官学校の厳しい訓練を経てなお、こんな恐怖を感じたことはない。心臓が口から飛び出しそうだ。

「……最後は、私ね」

 美樹さんの手が俺の頬に触れる。冷たい。

「み、美樹さん……?」

「大丈夫よ。じっとしてて」

 顔が近づく。息が止まる。

「上書きしてあげる」

 唇が重なる。今度はゆっくりと、確実に。

 頭の中で何かが弾けた。

 ……俺の運命は、ここで決まったのかもしれない。

 いや、もしかしたら、とっくに決まっていたのかも。

 ゴンドラが地上に近づく頃、俺の膝はまだ震えていた。

------------------------------------------------------------

この作品を応援してくださる皆様へお願いがあります。

なろうでは「ブックマーク」と「評価ポイント」が多いほど、多くの読者に届きやすくなります。

「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ ブックマーク&★評価 を押していただけると、今後の更新の励みになります!


感想も大歓迎です! 一言でもいただけると、モチベーションが爆上がりします!


次回もお楽しみに! ブックマークもしていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ