第53話 観覧車と揺れる恋心
横浜。港の風が頬を撫でる。俺は美樹さん、沙織さん、千鶴さん、真奈美さんと休日を過ごしていた。
観覧車のライトが少しずつ夜空に映え始める。
「まずはどこ行く?」
千鶴さんが両手を腰に当てた。
「中華街で食べ歩きとかどう?」
真奈美さんがスマホを覗き込む。
「いいね!私、小籠包食べたい!」
沙織さんが飛び跳ねた。全員が賛成し、俺たちは中華街へ向かうことにした。
通りに入ると、油の匂いが鼻をつく。色とりどりの提灯が頭上に並ぶ。週末の人混みで肩がぶつかる。
「これ、美味しそう!」
美樹さんが指差したのは、湯気を上げる肉まんだった。
「熱っ!」
俺は舌を焼いた。肉汁が口の中で弾ける。
「ふふ、大丈夫?」
「……美味いけど、めっちゃ熱い!」
涙目になる俺を見て、美樹さんが吹き出した。
「はいはい、次は私が買う番!」
千鶴さんがゴマ団子を持ってくる。砂糖が指にベタつく。もちもちの生地を噛むと、中から餡が溢れた。
「ねぇ、次はどこ行く?」
「赤レンガ倉庫とか?」
沙織さんの提案に頷く。
***
赤レンガ倉庫のカフェテラス。波の音が耳に届く。ホットチョコレートのカップが手のひらを温める。
「こういうのもいいわね」
美樹さんがカップを両手で包む。湯気が顔にかかる。
みんなの肩が触れ合う距離。いつもより体温を感じる。
「じゃあ、最後に観覧車乗りましょう?」
千鶴さんが立ち上がった。
***
コスモワールドの観覧車。ゴンドラがゆっくりと上昇する。胃が浮く感覚。
「こういう観覧車、久しぶりだな……」
俺は窓に額を付けた。ガラスが冷たい。士官学校の厳しい日々を思えば、こうしてのんびり景色を眺める時間も悪くない。
「なんだか、ロマンチックですね……」
隣の沙織さんの声が震えている。手が膝の上で握られていた。
「義之君、せっかくの機会だし」
千鶴さんが俺の肩を突く。
「こういうのも楽しんでみないとね?」
真奈美さんは窓の外を見つめたまま、耳が赤くなっている。
「まぁ、そうだな」
俺の言葉が、ゴンドラの中に溶けていく。
その時——
ゴンドラが大きく揺れた。
「うわっ……!」
足元がふらつく。体が傾く。隣の沙織さんへと倒れ込んだ。
次の瞬間、唇に柔らかい感触。
「んっ……!?」
時間が止まる。
沙織さんの瞳が目の前にある。息が顔にかかる。
「~~~~~っ!!!」
沙織さんが俺を突き飛ばした。顔が真っ赤に染まっている。
「違う!今のは事故だ!」
俺は手を振る。
「じ、事故って……!」
沙織さんは両手で顔を覆う。指の隙間から見える肌まで赤い。
「義之君?」
背筋が凍る。美樹さんの声が低い。
「ち、違う!これは事故で!」
「事故ねぇ……?」
美樹さんがゆっくりと立ち上がる。ゴンドラが軋む。
「で、でも……!」
千鶴さんも真奈美さんも視線を逸らした。助けは来ない。
「じゃあ、私も?」
千鶴さんが俺の襟を掴む。
「せっかくだし、もらっておこうかな?」
「ちょっ、ちょっと待っ」
言いかけた瞬間、唇が塞がれる。甘い香りが鼻をくすぐる。
「!?!?!?」
頭が真っ白になる。
真奈美さんが突然立ち上がった。ゴンドラが揺れる。
「わ、わたしは……」
彼女の手が俺の頭を掴む。指が髪に絡まる。
「……負けません」
額がぶつかる。痛い。
「ま、待て真奈美さん!それキスじゃなくて頭突き」
「……っ!!」
真奈美さんの顔が爆発しそうなほど赤くなる。今度は俺の肩に顔をうずめた。髪が頬に触れる。くすぐったい。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
声が勝手に出た。士官学校の厳しい訓練を経てなお、こんな恐怖を感じたことはない。心臓が口から飛び出しそうだ。
「……最後は、私ね」
美樹さんの手が俺の頬に触れる。冷たい。
「み、美樹さん……?」
「大丈夫よ。じっとしてて」
顔が近づく。息が止まる。
「上書きしてあげる」
唇が重なる。今度はゆっくりと、確実に。
頭の中で何かが弾けた。
……俺の運命は、ここで決まったのかもしれない。
いや、もしかしたら、とっくに決まっていたのかも。
ゴンドラが地上に近づく頃、俺の膝はまだ震えていた。
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