第52話 サイバー戦演習と義之の防衛戦略
士官学校・情報処理教室 14:30
6月のある日、掲示板にサイバー戦演習の告知が貼り出された。
ハッカー役と防衛側に分かれる。専門家が攻撃、学生が防御。
「これ、お前の出番だろう」
北園が俺の肩を叩く。
「まぁ、そうなるな」
俺は首を回した。
「防御しきってみせるよ」
準備時間は1日。短い。喉の奥が乾く。でも、やるしかない。
教室に同期たちを集める。机を囲んで役割分担を決める。
「第1防壁は山田班」
俺は配置図を指差す。
「第2は鈴木班。最終防衛線は俺と北園で」
みんなの肩が強張った。
「義之、これで本当に大丈夫か?」
山田の声が震える。
「問題ない」
俺は真っ直ぐ前を見た。
「今やれることを全力でやるだけだ」
ミーティングで想定シナリオを共有。攻撃パターン、対策ツール、使い方。初心者にも分かるよう、キーボードを叩きながら実演する。
「この部分を守れれば、全体のセキュリティラインは維持できる」
徐々に緊張が解けていく。背筋を伸ばす者が増えた。
準備を進めながら、北園に声をかける。
「お前も、ちゃんと頼りにしてるからな」
北園の目が丸くなる。すぐに口角が上がった。
「任せておけ」
拳を軽く合わせる。手のひらに温かさが伝わる。
***
士官学校・自習室 20:15
モニターの光が顔を照らす。
無名權波との攻防で使ったツールをカスタマイズ。囮の脆弱性を仕込む。侵入者を引きつける罠。
キーボードを打つ指が止まらない。リアルタイム警報システムも強化。
翌日、国防研究所から専門家4名が到着。
リーダーは白髪の男。肩幅が広く、背筋がピンと伸びている。元自衛隊サイバー部隊長の噂。
若手のエース。眼鏡の奥で目が光る。
女性技官。髪を後ろで束ねている。
そしてもう一人──帽子を深く被り、顔は見えない。
士官学校・サイバー演習室 09:00
「演習開始」
号令と同時に画面が動き出す。
「ポート443への不正アクセス検知」
警告音が鳴る。
「囮だ」
俺は椅子から身を乗り出した。
「本命は別にある」
指示を飛ばす。同期たちの手が動く。
「面白い仕掛けだ」
白髪の専門家が腕を組む。
「でも、まだまだ甘い」
新たな攻撃。今度は複数同時。モニターが次々と赤く染まる。
「第3防壁、突破されました!」
山田の声が裏返る。
「落ち着け」
俺は深く息を吸った。
「予定通りだ」
囮に時間を使わせる。その間に本命を探す。
※1SQLインジェクション、※2バッファオーバーフロー、※3ゼロデイ攻撃。
次々と来る。でも──
「全部読めてる」
北園が歯を見せて笑う。俺も頷いた。リアルタイム警報が効いてる。攻撃が来る前に察知。
「これ、楽しくなってきたな!」
鈴木の頬が紅潮している。
「気を抜くな」
俺は画面から目を離さない。
「最後まで何があるか分からない」
30分経過。攻撃が変化する。
今度は内部からの攻撃を偽装。手のひらに汗が滲む。巧妙だ。
でも──
「その手は知ってる」
無名權波が使った手口。対策済みだ。
専門家たちの表情が変わる。若手エースが頭を抱える。女性技官が舌打ちしながら新しいコードを打ち込む。
でも、全て防がれる。
***
士官学校・サイバー演習室 11:00
「演習終了」
アナウンスが流れる。
すべての攻撃を防ぎきった。
「やった!」
歓声が上がる。山田が拳を突き上げる。鈴木と北園がハイタッチ。
みんなで成し遂げた勝利。胸が熱くなる。
専門家たちが近づいてくる。白髪の男が手を差し出した。
「見事だった」
握手を交わす。掌が厚い。
「このツールの仕組みは?」
「誰が作った?」
質問が飛ぶ。
「以前の経験を基に、カスタマイズしただけです」
俺は肩をすくめた。
「そのツールを譲ってくれないか」
女性技官が身を乗り出す。
口の端が勝手に上がる。
「ご用命があれば上杉グループの研究所までどうぞ」
空気が凍る。
「君が上杉義之君か」
白髪の男の眉が跳ね上がる。
「AI論文の著者だな」
知られてたか。首筋が熱くなる。
「士官学校を卒業したら、ぜひ国防研究所に」
名刺を差し出される。
「一応、海軍士官候補生なので」
丁重に受け取りながら断る。
同期たちが集まってくる。
「お前、本当にすごいな」
山田が背中を叩く。
「いや、みんなが一緒に戦ってくれたからだよ」
本心だ。喉が詰まる。一人じゃ無理だった。
「君の技術力は日本の未来に必要だ」
専門家の目が真剣だ。
胸の奥で何かが動く。でも──今は士官学校での時間を大切にしたい。
士官学校・教室 15:30
振り返りの時間。
「お前がいなかったら、絶対無理だった」
北園が椅子に深く座る。みんなが頷く。
「俺たち全員の力だよ」
窓から差す光が眩しい。
信頼が嬉しい。仲間がいるって、いいものだ。
「次はもっと強力なツールを作っておこうかな」
「期待してるぞ!」
笑い声が響く。
サイバー戦演習。
技術だけじゃない。チームワークの大切さを学んだ。
これからも、仲間と共に戦っていく。
そう思うと、また胸の奥が温かくなった。
***
※1 SQLインジェクション:データベースへの不正なSQL文を注入し、情報を盗み出す攻撃手法
※2 バッファオーバーフロー:プログラムのメモリ領域を超えてデータを書き込み、システムを乗っ取る攻撃
※3 ゼロデイ攻撃:まだ修正プログラムが存在しない脆弱性を狙った攻撃
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