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閑話 とある世界線のUCAV開発頓挫

<β世界線>

2024年9月10日 国防研究所 試作機テストエリア

 試作※1UCAVが火を噴いた。

 

 夜空に赤い尾を引いて墜ちる。

 爆音が耳を劈く。

 

 モニターに映る残骸が炎に呑まれる。

 

 機体が地面に激突。

 金属が軋む音。管制室が震える。

 

 「まただ、また墜ちた!」

 

 天野技術大尉が叫ぶ。

 疲れ切った顔。額から汗が滴る。

 

 折れ曲がった設計図が床に散らばる。

 

 開戦から10日。

 敵のAIが空を支配する。

 俺たちは何もできない。

 

 「このままじゃ仲間が全滅する!」

 

 天野の声が震える。

 恐怖? いや、怒りだ。

 

 モニターのループ映像。

 試作機が制御を失う。

 AIが誤作動を繰り返す。

 

 ふらつきながら墜落。

 何度も。何度も。

 

 管制室の空気が重い。

 息が詰まる。

 

 「昨日の報告見たか」

 

 天野が目を血走らせる。

 

 「敵の※2Su-57+がまた増えてる」

 

 机を叩く。バンッ。

 

 「迎撃ラインが崩壊寸前だ!」

***

 若手技術者の佐伯が震える声で応じる。

 

 「AIの挙動解析が……」

 

 言葉が詰まる。

 

 「制御コードが暴走して……」

 

 「言い訳はいい!」

 

 天野が遮る。

 

 「予測精度が敵に追いつかない」

 

 拳が震える。

 

 「この機体に魂がねえからだ!」

 

 魂。

 その言葉が胸に刺さる。

 

 佐伯が設計図を握り潰す。

 紙が悲鳴を上げる。

 

 クリミアの空。

 僚機が炎に呑まれる映像が脳裏を焼き付ける。

 

 あの戦場で――

 

 上杉義之中尉が「大鷲」を操る。

 敵を切り裂く。

 

 昨日だけで4機撃墜。

 

 「お前なら楽勝だろ、エース様」

 

 北園の笑う声が耳に残る。

 

 だが、彼は今、前線だ。

 

 俺たちの試作UCAVは。

 彼の手を離れ、鉄くずと化してる。

 

 「上杉がいれば」

 

 天野が崩れ落ちるように椅子に座る。

 

 「このゴミに魂が宿ってたはずだ」

 

 設計図の破れた端が風に揺れる。

 薄暗い灯りが、疲弊した顔を照らす。

***

 「試作3号機の挙動データが」

 

 佐伯がモニターを睨む。

 

 「グチャグチャだ」

 

 指が震える。

 

 「敵の※3ジャミングに反応できず」

 

 「編隊がバラバラに……」

 

 「だから何だ!」

 

 天野が立ち上がる。

 

 「上杉なら一瞬で修正したはずだ!」

 

 叫び声が管制室に響く。

 

 俺は設計図を拾い上げる。

 目を凝らす。

 

 確かに。

 AIの予測アルゴリズムが追いつかない。

 制御コードが暴走。

 僚機との連携が崩壊。

 

 試作機が墜ちる映像が再び流れる。

 爆炎がスクリーンを染める。

 

 「俺たちじゃ手に負えない……」

 

 佐伯が頭を抱える。

 

 「上杉を呼ぼう」

 

 天野が拳を握り潰す。

 

 「あいつの『大鷲』なら壁をぶち破れる」

 

 俺は凍りつく。

 

 一条院美樹。

 上杉の婚約者。

 

 士官学校で設計図に触れ――

 

 「これで戦争が終わるね」

 

 そう呟いた女性。

 

 あの薄暗い部屋。

 彼女の指が紙をなぞる。

 希望を灯した記憶。

 

 それが天野の絶望に重なる。

 

 「一条院がいりゃあ」

 

 天野が呟く。

 

 「魂が宿ってたはずだ」

 

 彼女の電子戦の才能。

 上杉の設計に命を吹き込んだ。

 

 だが、今、彼女はどこだ?

 

 前線で上杉と戦ってるのか。

 それとも――

 

 UCAV開発は頓挫した。

 俺たちの夢は潰えた。

 

 胸を絶望が締め付ける。

 

 でも――

 

 どこかで誰かが。

 この失敗を糧に未来を創るなら。

 

 俺たちの努力も無駄じゃない。

 そう信じたい。

 

 上杉義之。

 お前ならできるかもしれない。

2024年9月13日 国防総省 海軍人事部

 「上杉がいればな……」

 

 高尾少佐が書類を手に呻く。

 

 窓の外で雨が叩きつける。

 執務室に無線機の雑音が響く。

 

 クリミア戦線の縮尺図。

 赤いピンが増える。

 

 「また一機やられた」

 

 疲労の影が濃い。

 ペンを走らせる手が震える。

 

 無線が途切れる。

 掠れた声。

 

 「敵機50機以上、迎撃ラインが……」

 

 高尾が目を閉じる。

 

 「上杉を抜くわけにいかねえ」

 

 書類を見る。

 天野からの転属要請。

 

 「天野の要請は認める」

 

 深呼吸。決断の重さ。

 

 「上杉の技術は凄い」

 

 「だが、前線で彼を失えば」

 

 「空が終わる」

 

 「異動は認めねえ」

 

 無線機を取る。

 

 「前線はどうだ」

 

 応答が途切れる。

 

 「迎撃ラインが崩壊、敵のAIが……」

 

 拳を握り潰す。

 

 「上杉が前線で戦ってるから持ちこたえてる」

 

 呟く。

 

 「自分で何とかしろ」

 

 疲れた目が書類を睨む。

 雨音が執務室を満たす。

 

 上杉の不在。

 それがこの研究所を絶望に沈めてる。

天野技術大尉から高尾少佐へ

 天野の手が震える。

 インクが滲む。

 

 『高尾、マジで頼む』

 

 『試作機は全滅だ』

 

 『敵のAIがすぐそこまで来てる』

 

 『上杉を転属させてくれ』

 

 研究所の窓ガラスが揺れる。

 遠くの爆音。

 

 試作4号機が墜ちる映像。

 モニターに映る絶望。

 

 「次で終わりだ」

 

 掠れた声が管制室に響く。

 

 上杉が笑った夜を思い出す。

 

 「AIに魂を入れなきゃ意味ねえよ」

 

 あの設計図。

 ここで形にならなかった。

 

 「俺たちじゃ」

 

 佐伯が呟く。

 

 「彼の代わりになれねえよ」

高尾少佐から天野大尉へ

 高尾の返信。

 怒りに震える文字。

 

 『ふざけるな、天野』

 

 『昨日だけで10機失った』

 

 『上杉が前線で戦ってるから』

 

 『持ちこたえてる』

 

 『自分で何とかしろ』

 

 窓外の灰色の空。

 無線が響く。

 

 「敵機接近」

 

 高尾が疲れた目をこする。

 

 書類を見る。

 上杉の戦績。

 

 昨日4機。

 今日2機。

 

 だが、彼を抜けば――

 

 前線が崩れる。

 

 天野の絶望が。

 高尾の決断を突き刺す。

上杉義之中尉の独白

 母艦の格納庫。

 薄暗い。機械油の匂い。

 

 義之が設計図を手に呟く。

 

 「俺に何ができる」

 

 汗が紙に滴る。

 

 「前線は待ってくれねえ」

 

 「UCAVか」

 

 喉が詰まる。

 

 「美樹さんがいりゃあ……」

 

 遠くの爆音。

 母艦が揺れる。

 

 設計図を握り潰す。

 

 「今は戦うしかねえ」

 

 格納庫の壁。

 北園の笑顔が掠める。

 

 「お前なら楽勝だろ、エース様」

 

 だが、今、彼は一人だ。

 

 UCAVの夢は。

 ここで途切れた。

 

 別の世界線では――

 違う未来があるのだろうか。

***

※1 UCAV:無人戦闘航空機(Unmanned Combat Aerial Vehicle)

※2 Su-57+:ロシアの第5世代戦闘機の改良型(架空)

※3 ジャミング:電波妨害。通信や電子機器の機能を阻害する

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