第49話 噂の的?技術と恋の攻防戦
左腕のギプスが邪魔をする。
右手でフォークを持てるが、バランスが取りづらい。
「ほら、義之君」
美樹さんが箸を差し出す。
「無理しないでね」
優しい声。
でも、周りの視線が痛い。
「これくらい手伝うわよ」
沙織さんも加わる。
千鶴さん、真奈美さんも。
囲まれた。
完全包囲。逃げ場なし。
耳が熱くなる。
また噂になる。分かってる。
***
案の定だった。
「上杉、また女子に囲まれてる……」
廊下ですれ違う同期の囁き。
聞こえてる。わざとだろ。
背中がムズムズする。
昼食時。
一人で食べようとして――
「義之君、また一人で食べようとしてるの?」
美樹さんの声。
心臓が跳ねる。
「えっ……ああ、いいよ」
断る間もなく。
また囲まれる。
視線が集中する。
針のむしろ。胃が痛い。
「最近、義之君、また噂になってるわね」
沙織さんがクスッと笑う。
悪意はない。でも――
「こうやって囲まれてるのに」
真奈美さんが身を乗り出す。
「本人だけ普通にしてるのが面白いわね」
普通?
心臓バクバクなんだけど。
「えっ、どういうことだ?」
声が上ずる。
「全然気づいてなさそうだから」
「気づいてるけど――」
必死に弁解。
「俺としては普通に会話してるだけだろ」
「それが鈍感なのよ」
千鶴さんの優しい指摘。
でも、グサッと刺さる。
鈍感。
そうなのか。俺は――
***
骨折が回復。
ギプスが外れた日。
左腕を動かす。
ぎこちない。でも、動く。
嬉しい。
涙が出そうになる。
シミュレーター室。
久しぶりの匂い。機械油と汗。
「上杉、久しぶりに飛ぶのか?」
北園の声。
心配そうな目。
「ああ」
シートに座る。
手が震える。緊張? 興奮?
深呼吸。
肺いっぱいに空気を入れる。
操縦桿を握る。
冷たい金属の感触。
懐かしい。
でも、新鮮。
エンジン始動。
振動が体に伝わる。
生きてる。
機体も、俺も。
慎重にスロットルを操作。
画面の中で機体が動く。
思い通りだ。
体が覚えてる。
仮想敵機が現れる。
※1ターゲットロック。
照準が合う。
懐かしい感覚。
「おお、さすが上杉」
北園の驚きの声。
「まだ感覚が完全じゃないけどな」
肩を回す。
まだ硬い。でも、大丈夫。
訓練後。
全身汗びっしょり。
「やはり上杉」
教官が近づく。
「お前の計算された飛行は光るものがあるな」
褒められた。
胸が熱くなる。
でも同時に――
プレッシャーも感じる。
***
その夜。
思わぬニュースが飛び込んできた。
「上杉、この技術、お前の論文が参考にされているぞ」
教官の言葉。
何のことだ?
高校時代の論文。
『※2ニューラルネットの軍事応用と社会貢献』
まさか。
「実用化されたって?」
声が震える。
医療AI。
戦闘機の学習システム。
翻訳技術。
俺の考えが、形になってる。
「えっ、義之ってそんな研究してたの?」
同期たちがざわつく。
「お前、実はすごい奴だったのか?」
北園が目を丸くする。
背中がゾワゾワする。
注目されてる。また。
「これが華族パワーか?」
誰かが言う。
胸がチクリと痛む。
違う。
これは俺の努力だ。
でも、言い返せない。
華族の環境があったから、研究できた。
矛盾。
誇りと後ろめたさ。
***
スマホが震える。
玲奈からのメール。
『お兄ちゃん、ニュースで見たよ!』
興奮してる。
文面から伝わってくる。
『すごいね!』
素直な賞賛。
嬉しい。でも――
『また噂になってるみたいだけど?』
ああ、バレてる。
『高校のときに書いただけだし』
謙遜する。
でも、本心じゃない。
誇らしい。
自分の技術が世の中の役に立ってる。
『美樹さんたちも驚いてたよ!』
美樹さん。
その名前で、心臓が跳ねる。
『もっと自慢していいのに!』
自慢。
できない。恥ずかしい。
でも――
『技術部門でも注目されてるし』
玲奈の次の言葉。
『女性関係の噂もすごいって……』
うっ。
『妹としては複雑なんだけど!(笑)』
苦笑い。
妹にまで心配されてる。
『気にするな』
短く返信。
でも、気になる。
『でも、やっぱりお兄ちゃんはすごいよ!』
最後の一言。
胸が温かくなる。
『ありがとな』
返信する。
指が震える。嬉しさで。
***
翌日。
食堂がざわついてる。
「上杉、技術でもモテるのか?」
誰かが言う。
コーヒーを吹きそうになる。
技術でモテる?
意味が分からない。
でも、確かに――
女性陣に囲まれてる。
論文が評価されてる。
注目の的。
居心地が悪い。
でも、悪い気はしない。
矛盾。
逃げたい。
でも、ここにいたい。
「義之君」
千鶴さんの声。
「論文、読ませてもらったわ」
え?
「素晴らしい内容ね」
褒められた。
顔が熱い。耳まで赤い。
「社会に貢献する技術」
真剣な目。
「尊敬するわ」
尊敬。
その言葉が、胸に響く。
技術、軍事、そして――
人間関係。
全部が絡み合って。
俺を中心に回ってる。
怖い。
でも、逃げられない。
いや――
逃げたくない。
これが、俺の居場所。
俺の戦場。
覚悟を決める。
全部、受け止めてやる。
技術も。
訓練も。
そして――
彼女たちの想いも。
……できるかな。
不安もある。
でも、やるしかない。
深呼吸。
新しい一日が始まる。
***
※1 ターゲットロック:敵機を照準システムで捕捉し、追尾状態にすること
※2 ニューラルネット:人間の脳神経回路を模したAI技術。機械学習の基盤となる
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