第48話 士官学校の祭典と玲奈の選択
夏季休暇が終わった。
士官学校の門をくぐる。
独特の匂い。
規律と汗と、少しの緊張。
懐かしい。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
でも――
左腕のギプスが重い。
肩が凝る。首も痛い。
※1開校記念祭の準備で賑わう校内。
みんな忙しそうだ。
俺は?
アクティブな活動は無理。骨折のせいで。
「まあ、仕方ないな」
呟く。
でも、口の中が苦い。
***
2日目。
玲奈が来る日。
朝から落ち着かない。
右手でネクタイを直す。上手くいかない。
「お兄様!」
正門で玲奈の声。
振り返ると、目がキラキラしてる。
士官学校への憧れ。
その熱が、俺にも伝わってくる。
「今日はよろしくお願いします!」
元気な挨拶。
でも、手が微かに震えてる。緊張してるんだ。
「玲奈ちゃん、私たちが案内するわ」
美樹さんの優しい声。
玲奈の顔がパッと明るくなる。
憧れの人。
その存在の大きさを、改めて感じる。
***
校舎案内。
玲奈の目が、あちこちに飛ぶ。
「すごい……」
息を呑む音。
「普通の学校とは雰囲気が違うね」
そうだ。
ここは特別な場所。
訓練施設。
玲奈が立ち止まる。
鉄の匂い。
汗の染み込んだマット。
「ここで鍛えられたら……」
呟く玲奈。
拳を握ってる。小さいけど、力強い。
「本当に強くなれそう」
その言葉に、胸がざわつく。
嬉しい? 心配? 両方だ。
「簡単じゃないけど」
美樹さんが優しく言う。
「その分やりがいはあるわよ」
玲奈が力強く頷く。
その姿に、俺の喉が詰まる。
妹が、大人になっていく。
***
※2棒倒しの練習見学。
学生たちの真剣な戦い。
「お兄様の分析ってすごいね」
玲奈が美樹さんに呟く。
え?
耳が熱くなる。
「義之君ならではだよ」
美樹さんの言葉。
胸が高鳴る。褒められた。
でも同時に――
左腕が疼く。
今は戦えない自分。
「私、ここで学んでみたい!」
玲奈の宣言。
力強い声。
「お兄様みたいに強くなりたい」
拳を握る玲奈。
その姿が、眩しい。
俺みたいに?
複雑な気持ち。
嬉しい。でも、不安も。
この道の厳しさを、俺は知ってる。
***
「そういえば義之君」
美樹さんが振り返る。
にやにや笑い。嫌な予感。
「玲奈ちゃんのこと、すごく気にかけてるのね」
「もしかして妹に甘いの?」
沙織さんも加わる。
「ちょっと過保護かも?」
千鶴さんまで。
顔が熱い。
耳まで赤くなってるのが分かる。
「別に過保護じゃない」
むきになる。
「ただ、ちゃんと見てやりたいだけだ」
「でも、義之君らしいわね」
真奈美さんの優しい声。
でも、目が笑ってる。
からかわれてる。
でも、悪い気はしない。
***
記念祭が終わる。
「また来るね!」
玲奈の明るい声。
手を振る姿が、少し大人びて見える。
見送りながら思う。
次は――
「骨折してない時に来いよ」
冗談めかして呟く。
でも、本心だ。
ちゃんと案内したい。
一緒に訓練も見せたい。
……過保護か。
苦笑いが漏れる。
***
夜。寮のベッド。
天井を見上げる。
左腕がズキズキする。
「もし玲奈がここに入ったら……」
想像する。
俺が先輩。玲奈が後輩。
顔が熱くなる。
照れくさい。でも――
悪くない。
スマホが震える。
玲奈からのメッセージ。
『昨日はありがとう!すごく楽しかった!』
画面を見つめる。
自然と口元が緩む。
右手だけで返信を打つ。
時間がかかる。でも、丁寧に。
『楽しめたならよかった』
送信。
そして付け加える。
『また何かあれば、いつでも』
送信ボタンを押す。
これからも支えていこう。
過保護と言われても。
それが、兄の役目だから。
窓の外。
星が見える。
玲奈も同じ星を見てるだろうか。
同じ夢を見てるだろうか。
左腕が疼く。
でも、心は温かい。
家族っていいな。
そう思いながら、目を閉じる。
***
※1 開校記念祭:士官学校の創立を記念する年次行事。学生たちが様々な出し物や展示を行う
※2 棒倒し:チーム対抗で相手チームの棒を倒す競技。士官学校では特に激しい攻防が繰り広げられる伝統行事
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