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第47話 戦場のような訓練~折れた腕と絆の強さ

第44話 戦場のような訓練~折れた腕と絆の強さ

 開校記念祭の※1棒倒しの訓練が始まった。

 士官学校の陸海空、それぞれの大隊単位での参加。

 

 過激な戦いになる。

 誰もが分かってた。でも――

 

 想像以上だった。

***

 訓練初日。

 グラウンドに立つ。

 

 土の匂い。汗の臭い。

 そして、殺気。

 

 これは遊びじゃない。

 背筋がゾクッとする。

 

 「防衛班、前列を固めろ!」

 

 怒号が飛ぶ。

 

 「突撃班、中央突破は囮だ!」

 

 戦場さながらの光景。

 心臓が早鐘を打つ。

 

 俺たち1、2年生は突撃要員。

 ひたすら前へ。単純? いや――

 

 「第二陣、三角突破で前進!」

 

 複雑な戦術。

 頭がついていかない。

 

 体当たり。

 肩がぶつかる。骨が軋む。

 

 押し返される。

 地面に膝をつく。土の味。

 

 「立て! 前へ!」

 

 先輩の声。

 震える足で立ち上がる。

 

 また突撃。

 また弾かれる。

 

 肺が焼ける。

 息ができない。でも止まれない。

 

 これが棒倒し。

 戦争の縮図。

***

 訓練も中盤。

 体力は限界に近い。

 

 「上杉、後衛に回れ!」

 

 先輩の指示。

 後ろへ下がろうとした、その瞬間――

 

 「甘い!」

 

 背後から腕を掴まれる。

 

 振り返る間もない。

 上級生。防衛班の伏兵。

 

 まずい――

 

 「これで終わりだな!」

 

 腕が捻られる。

 関節が悲鳴を上げる。

 

 抵抗しようとして――

 

 バキッ

 

 鈍い音。

 一瞬、何が起きたか分からない。

 

 そして――

 

 激痛。

 

 左腕から全身へ。

 電流みたいに痛みが走る。

 

 「ぐぁっ……!」

 

 声にならない声。

 膝から崩れ落ちる。

 

 視界が歪む。

 涙? いや、冷や汗だ。

 

 左腕が、おかしな方向に曲がってる。

 

 吐き気がこみ上げる。

 

 「すまん! やりすぎた!」

 

 先輩の声が遠い。

 耳鳴りがする。

 

 意識が遠のきそうになる。

 でも、堪える。

 

 ここで倒れたら――

 情けなさすぎる。

***

 医務室。

 消毒液の匂いが鼻をつく。

 

 「骨折です。全治6週間」

 

 医官の宣告。

 胸に重くのしかかる。

 

 6週間。

 棒倒し本番には間に合わない。

 

 ギプスで固定された左腕。

 重い。心も重い。

 

 悔しい。

 拳を握る。右手だけ。

 

 情けない。

 涙が出そうになる。堪える。

 

 でも――

***

 「お前、ここから戦況を見てアドバイスしてくれ」

 

 戦術教官の一言。

 意外だった。

 

 「俺が、ですか?」

 

 「怪我してても頭は使える」

 

 そうか。

 新しい役割。

 

 グラウンドを見下ろす位置。

 全体が見える。

 

 「防衛班が密集しすぎです」

 

 気づいたことを伝える。

 

 「もう少し広がって」

 

 アドバイスが活きる。

 動きが変わる。

 

 胸が熱くなる。

 戦えなくても、貢献できる。

 

 「お前の目は鋭いな」

 

 先輩が笑う。

 

 「参謀になれるんじゃねえか?」

 

 嬉しい。

 でも同時に――

 

 やっぱり悔しい。

 フィールドで戦いたい。

 

 「来年こそは」

 

 呟く。

 絶対に、この場所で戦う。

***

 食堂。

 いつもと違う光景。

 

 「はい、あーん」

 

 美樹さんがスプーンを差し出す。

 

 「いや、右手は使えるから」

 

 慌てて断る。

 顔が熱い。恥ずかしい。

 

 「ダメよ、無理したら」

 

 沙織さんが俺の箸を取り上げる。

 

 「でも――」

 

 「これも訓練だと思いなさい」

 

 千鶴さんが優しく笑う。

 でも、有無を言わせない雰囲気。

 

 「諦めが肝心よ」

 

 真奈美さんがクスクス笑う。

 

 囲まれた。

 4人に完全包囲。

 

 「普段あまり接触がないから」

 

 美樹さんが頬を赤らめる。

 

 「こういう時ぐらいは……」

 

 そうか。

 彼女たちも、距離を感じてたんだ。

 

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

***

 それから毎日。

 4人に囲まれての食事。

 

 最初は恥ずかしかった。

 周りの視線も痛かった。

 

 でも――

 

 慣れてくる。

 いや、それ以上に。

 

 心地いい。

 

 「今日の訓練、どうだった?」

 

 自然な会話。

 

 「上杉君の分析、的確だったわ」

 

 褒められる。

 素直に嬉しい。

 

 気づけば――

 

 特別な存在じゃなくなってた。

 

 いや、違う。

 もっと特別になってた。

 

 遠い存在だった彼女たちが。

 今は、すぐそばにいる。

 

 左腕はまだ痛む。

 でも、心は温かい。

 

 怪我をして良かった。

 そんなことを思ってしまう。

 

 ……いや、やっぱり悔しいけど。

 

 でも、この温もりは。

 きっと、かけがえのないもの。

 

 窓の外、グラウンドでは訓練が続く。

 激しい戦い。

 

 来年は、あそこにいる。

 絶対に。

 

 でも今は――

 

 この時間を、大切にしよう。

 

 左腕のギプスを見る。

 6週間。

 

 長いようで、短い。

 きっと、あっという間。

 

 だから、今を。

 この瞬間を。

***

※1 棒倒し:チーム対抗で相手チームの棒を倒す競技。防衛側と攻撃側に分かれ、激しい攻防が繰り広げられる

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