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第4話 華族社会での新たな挑戦

 あれから9年。

 15歳。学習院高等部の門をくぐる。

 教室に足を踏み入れた瞬間——

 視線が、俺を貫いた。

 全員の。一斉に。

 背筋に、冷たいものが走る。

 重厚な木製の机。壁には華族の紋章。

 俺の身長、175センチ。制服の袖から覗く手首。もう子供じゃない。

 内部進学組。俺が上杉家の跡取りだと知ってる。

 親しみと敬意が入り混じった目。

 外部の新入生。好奇心と距離感を隠さない。

 息が、詰まる。

 窓の外。銀杏が風に揺れる。校舎の鐘が響く。

 でも——

 胸が、ドクドクと暴れた。肋骨が軋む。

 鼓動が早い。襟元が、急に締め付ける。

 転生者の孤独。財閥跡取りの重責。

 押し潰されそう。

 初等科で美樹の手を握った。あの日から変わったはずなのに。

 この視線に、また息が——

「義之君、大丈夫?」

 美樹さんの声。

 背後から。現実に引き戻される。

 振り返る。

 彼女が立ってる。穏やかな笑み。

 9年前の幼い少女。今は気品ある令嬢。

 俺より少し低い。肩まで伸びた黒髪が風に——

 あの日の光が、瞳に宿ってる。

「美樹さん……」

 肩の力が、抜けた。

「ねえ、義之君、少し時間ある?」

「うん、あるよ」

 彼女が振り返る。誰かを呼ぶ。

「沙織、千鶴、真奈美、こっちだよ」

 三人の令嬢が現れる。

 近衛沙織様。侯爵家。凛とした立ち振る舞い。黒髪を結い上げてる。

 松平千鶴様。伯爵家。穏やかな微笑み。茶色の瞳が優しい。

 黒田真奈美さん。男爵家。元気に手を振る。ショートカットが跳ねる。

「義之君、お久しぶりね」

 沙織様が小さく頷く。声は落ち着いてる。でも視線が鋭い。

「中等部の頃から忙しそうだったけど、元気そうで安心したわ」

 千鶴様が優しく笑う。

「義之君なら忙しくてもちゃんと周りをまとめられるよね」

 真奈美さんが弾む声で続ける。

「私はまだ授業に慣れるのに必死だよ! 高等部って難しいー」

 美樹さんが三人を見回す。俺に言う。

「みんな、義之君のことが気になってたんだ。せっかくだから一緒にサロンに行かない?」

 胸が、微かに高鳴る。

 同時に、不安も。

 AIへの情熱。華族の責務。その間で揺れる俺を——

 彼女たちは、どう見る?

***

 中等部の3年間。

 転生者の違和感が、少しずつ和らいだ。

 美樹のおかげ。友人たちのおかげ。

 でも——

 成長と共に、何かが疼き始めてる。

 あの図書館。美樹が返してくれた「特異点」。

 その力が、日に日に強くなる。

 脳裏のAI設計図。もう子供の夢想じゃない。

 実現可能な技術として、形を成してる。

 文学サロンへの廊下。

 拳を握る。手のひらに、汗が滲む。

「どうしたの? 緊張してる?」

 美樹さんが俺の顔を覗き込む。

 15歳の彼女。6歳の時と変わらない。心を見透かす瞳。

「少し、ね」

 正直に答える。

 彼女が微笑む。

「大丈夫。義之君の考えは、きっとみんなに伝わるから」

 重厚な扉を開ける。

 暖炉の火。薄暗い部屋を照らす。

 古い本棚が壁を埋め尽くす。革張りの椅子が円形に。

 窓から夕陽。斜めに差し込む。埃の粒子が金色に——

 10名ほどの生徒。既に集まってる。

 美樹さんが中央に立つ。

「今日は新時代の華族の役割を議論したいの」

 穏やかな声。

「特に、伝統と革新の融合について。義之君、君の意見を聞かせて」

 視線が、俺に集まる。

 喉が、カラカラに乾く。

 でも——美樹さんの瞳が支える。

 一呼吸。立ち上がる。

「伝統を守ることは重要だけど」

 声が、微かに震える。

「新しい時代に適応する柔軟さも必要だと思う」

 鞄からノートPCを取り出す。

 手が、震えてる。

「AIを活用して、華族の文化を新しい形で継承する案を考えてる」

 PCを起動。自作のAIと音楽ソフト。

「これは、過去の曲を学習したAIが、リアルタイムで伴奏を創るシステムだ」

 キーボードに指を置く。

 深呼吸。

 古いワルツのメロディーを弾く。

 AIが反応する。即座に。

 華麗な伴奏が生まれる。伝統的な旋律に、現代的なハーモニー。

 新しい音楽が——

 部屋が、静まり返った。

 沙織様が目を細める。

「興味深いわね。でも、これは伝統を壊すことにならない?」

 鋭い。

 背筋が、ピンと伸びる。

「むしろ、伝統を活かすための技術だと考えています」

 声に力を込める。

「華族の舞踏会で使われた古いワルツを基に、その場の雰囲気に合わせてAIが伴奏を創る」

 手が、空中でリズムを刻む。

「演奏者が弾くたびに、新しい表現が生まれるんです」

 千鶴様が微笑む。

「伝統と革新が融合するなんて素敵ね」

 真奈美さんの目が輝く。

「これ、ダンスパーティーで使ったら絶対盛り上がるよ!」

 議論が活発になる。

 賛成も、懸念も。

 一つ一つに答える。

 自分の中で、何かが変わっていく。

 転生者として。AIエンジニアとして。華族として。

 全てが、今ここで一つに——

 美樹さんが立ち上がる。

「義之君の提案は、私たちが直面している課題への一つの答えだと思う」

 声が、部屋に響く。

「伝統を守るだけじゃなく、どう進化させるかを考えること」

 参加者たちが、頷く。

「それが、新時代の華族の使命かもしれない」

 俺は——

 初めて自分の居場所を見つけた。そんな気がした。

***

 帰り道。夕暮れの廊下。

「すごかったよ、義之君」

 美樹さんが言う。

「そうかな」

 照れくさい。頬を掻く。

「あの時、図書館で君の手を握った時から」

 彼女が立ち止まる。俺を見上げる。

「何かが変わった気がしてたの」

 夕陽が、彼女の髪を染める。

「今日、それが何かわかった気がする」

 息を吸う。

「君は、この世界を変える人なんだね」

 胸が、熱くなった。

 9年前。6歳の俺に「特異点」を返してくれた7歳の少女。

 今、15歳の俺たち。

 新しい一歩を——

 管理者の声が、遠い記憶で響く。

「特異点として未来を創れ」

 俺は、ようやくその意味を理解し始めてた。

***

※1 華族の呼称:この世界線では戦後改革により、「○○侯爵」ではなく「○○様」という呼称が一般的となった。

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