第45話 飛燕改ロールアウト
格納庫の巨大な扉が開く。
朝日が差し込む。
そして――
息が止まる。
最新の第5.5世代機、飛燕改が佇む。
銀色の機体が、朝の光を反射してる。
美しい。
恐ろしいほどに。
「ついに※1ロールアウトか」
声が震える。感動? それとも――
「ええ、ようやくここまで来たわね」
隣の柴田香織さんが微笑む。
国防研究所の技官。影武者開発で助言をくれた人だ。
「あなたのレポートと私たちの技術」
彼女の目が輝く。
「やっと形になったの」
機体を見上げる。
鋭い流線型。まるで獲物を狙う鷹みたいだ。
手を伸ばす。
機体の冷たい金属に触れる。
ひんやりとした感触。
でも、その下に秘められた力を感じる。
心臓がドクドクと脈打つ。
ステルス性能の強化。
※2データリンクシステムの一新。
有人機と無人機のハイブリッド戦術。
全てが、この機体に詰まってる。
***
「AIナビゲーションシステムが肝ね」
柴田さんが目を輝かせる。
子供みたいな表情。技術者の顔だ。
「従来と何が違うんですか?」
身を乗り出す。
「AIが敵の動きを予測し、最適ルートを提示する」
すごい。でも――
胃の奥がざわつく。
「最終判断は?」
声が硬くなる。
「もちろんパイロット」
柴田さんが優しく微笑む。
「AIは補助役よ」
ほっと息を吐く。
肩の力が抜ける。
機械に全てを委ねるのは怖い。
人間の判断。それが最後の砦だ。
***
「360度視界システム」
柴田さんが機体の周りを歩きながら説明する。
「F-35と同じ技術です」
「死角ゼロか」
背筋がゾクゾクする。
「そう。背後の敵も即座に確認できる」
振り向かずに後方確認。
生存率が大幅に向上する。
でも同時に――
常に全てを見てる重圧。
逃げ場のない感覚。
手のひらに汗が滲む。
「F-35の※3DASヘルメットを参考にしたの」
技術の進化。
前世の記憶にもない技術。
この世界は、確実に前に進んでる。
「コストは?」
現実的な質問。でも重要だ。
「抑えてある。輸出も承認済み」
柴田さんが誇らしげに胸を張る。
「各国から問い合わせが殺到してるのよ」
日本製戦闘機がこれほど注目される。
胸が熱くなる。誇らしい。
でも同時に――
責任の重さも感じる。
***
隣にはAegis-β4。
輸出仕様の無人戦闘機。
影武者の簡略版。
でも、侮れない。
「飛燕改とのリンクが重要なの」
柴田さんがタブレットを操作する。
指先が踊る。
「単なる指示送信じゃない」
画面に複雑な図が表示される。
「リアルタイムで情報共有」
「具体的には?」
前のめりになる。
「例えば――」
戦術図が動き出す。
「飛燕改が敵を捉える。同時にAegis-β4も別角度から観測」
なるほど。
「死角の敵も把握できる」
「つまり複数の目で見てる」
「そう!」
柴田さんが嬉しそうに頷く。
「しかも最適な攻撃ルートも計算」
索敵、戦術決定、最終判断。
見事な分業。
でも――
どこまで機械に頼るべきか。
その線引きが難しい。
***
開発の話が一段落した時。
柴田さんの表情が変わる。
「私も苦労したわ」
声が小さくなる。
目が遠くを見てる。
「昔の無人機プロジェクトで失敗した時……」
言葉が詰まる。
「男ばかりのチームで」
拳を握る。
「『女だから無理だ』って」
目が潤む。
唇を噛む。今でも悔しいんだ。
胸が締め付けられる。
技術の世界でも偏見はある。
能力じゃなく、性別で判断される不条理。
「だから技術を磨いた」
顔を上げる。
涙は拭って、強い眼差し。
「証明するために」
「この飛燕改が、私の答えよ」
機体を見上げる。
誇らしげに。愛おしそうに。
喉の奥が熱くなる。
この機体には、技術だけじゃない。
彼女の執念も詰まってる。
***
「第6世代機の開発にも関わってもらうわ」
話題を変える。
タブレットを差し出す。
「俺が?」
声が裏返る。
「あなたの知識と発想が必要」
真剣な目。
「AIの意思決定はまだ試行錯誤」
責任の重さ。
肩にズシリとのしかかる。
でも――
胸の奥で何かが燃える。
やりがい。挑戦への興奮。
「※4量子レーダーの搭載も検討中よ」
「ステルス無効化か」
背筋がゾクッとする。
「理論上はね。でも課題は山積み」
リアルタイム処理。
妨害耐性。
技術的ハードルは高い。
でも、不可能じゃない。
この世界なら――
***
飛燕改を見上げる。
夕日が差し込む。
機体がオレンジ色に染まる。
この機体が、日本の航空戦力の未来を変える。
輸出で世界にも影響を与える。
手を機体に当てる。
冷たい金属。でも、命が宿ってるみたいだ。
「ここからが本番ね」
柴田さんの言葉に頷く。
技術がどこまで戦場で通用するか。
それはこれから証明される。
でも――
怖さもある。
この技術が、誰かの命を奪うかもしれない。
矛盾。
守るための力が、破壊の力にもなる。
「どうしたの?」
柴田さんが心配そうに見る。
「いえ、なんでも」
笑顔を作る。
でも、心の奥の不安は消えない。
格納庫の照明が機体を照らす。
銀色の装甲が鈍く光る。
新たな時代の幕開け。
期待と不安が入り混じる。
それでも――
前に進むしかない。
飛燕改と共に。
***
※1 ロールアウト:新型機が工場から初めて出てくること。完成披露
※2 データリンクシステム:複数の機体間で情報を共有するシステム
※3 DASヘルメット:Distributed Aperture System。機体周囲360度の映像をヘルメットに投影する技術
※4 量子レーダー:量子もつれを利用した新型レーダー。理論上、従来のステルス技術を無効化できる
------------------------------------------------------------
この作品を応援してくださる皆様へお願いがあります。
なろうでは「ブックマーク」と「評価ポイント」が多いほど、多くの読者に届きやすくなります。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ ブックマーク&★評価 を押していただけると、今後の更新の励みになります!
感想も大歓迎です! 一言でもいただけると、モチベーションが爆上がりします!
次回もお楽しみに! ブックマークもしていただけると嬉しいです!




