表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/122

第44話 先行試作機始動!技術革新と士官学校の波紋

 夏季休暇が終わった。

 3日遅れの帰校。※1USTIの緊急任務。無名權波絡みだ。

 

 正門をくぐる。

 一瞬、空気が変わる。視線が突き刺さる。

 

 「お前、どこ行ってたんだ?」

 

 北園の声。目がキラキラしてる。好奇心の塊だ。

 

 「機密情報か?」

 

 田中がニヤニヤしながら肩を叩く。

 力が強い。痛い。でも、この痛みが懐かしい。

 

 「その通り。話せないんだよ」

 

 苦笑いで返す。口の端が引きつる。

 

 北園が大げさにため息。

 「まぁ、上杉だし、仕方ないな」

 

 周囲から笑い。

 このフレーズ、最近の定番だ。

 

 最初は俺がやらかした時の冗談。

 今では――

 

 「まぁ、上杉家だから仕方ないな」

 

 華族社会全体をからかうニュアンスまで含む。

 

 笑いものか。

 でも、胸が温かくなる。距離が縮まってる証拠だ。

***

 教官室。

 ドアの前で深呼吸。なぜか緊張する。

 

 ノック。

 

 「入れ」

 

 渋い声。

 ドアを開ける。教官の厳つい顔。でも、目が笑ってる。

 

 嫌な予感。

 胃がキュッと締まる。

 

 「遅かったな。まぁ、報告は上がってる」

 

 ニヤリと笑う。

 背筋に冷たいものが走る。

 

 「驚くなよ」

 

 驚くなと言われて、驚かない奴はいない。

 

 「お前の操縦シミュレーター訓練、全て免除だ」

 

 は?

 

 耳を疑う。聞き間違い?

 いや、教官は確かにそう言った。

 

 頭の中が真っ白になる。

 膝から力が抜ける。

 

 「戦技シミュレーターは削らない。実機訓練も週一回に制限される」

 

 制限。

 その言葉が胸に突き刺さる。

 

 「国防研究所との共同開発に時間が割かれる」

 

 教官が続ける。

 

 「※2第6世代機の試作機と新型※3UCAVの開発に関わるんだ」

 

 第6世代機。UCAV。

 単語は理解できる。でも、現実感がない。

 

 「マジ、ですか?」

 

 声が裏返る。喉がカラカラだ。

 

 「旅客操縦士免許の規定時間はクリアしてるだろ」

 

 確かに自家用免許は持ってる。

 ※4PMCでの訓練時間も十分。でも――

 

 「操縦士としての経験を積みたかったんですが……」

 

 本音が漏れる。

 実機訓練は貴重だ。戦闘機を操る感覚。

 

 それが制限される。

 

 拳を握る。爪が掌に食い込む。悔しい。

 

 「分かる」

 

 教官の声が優しくなる。

 

 「だが、この任務はそれ以上に重要だ」

 

 目が真剣になる。

 

 「お前の進路は操縦士で決まってる。技術は十分」

 

 そして――

 

 「今は別の形で力を発揮しろ」

 

 言い返せない。

 喉の奥に何かが詰まる。

 

 でも、頷くしかない。

***

 昼食時、食堂。

 

 ハンバーグの匂い。

 鉄板のジュウジュウ音。

 

 いつもの光景。

 でも、心はまだ教官室にある。

 

 箸が進まない。

 

 「お前、訓練減るんだろ?」

 

 隣の山田が聞く。

 心配そうな顔。

 

 「うん。置いていかれる気がしてさ」

 

 正直に答える。

 胸の奥がチクチク痛む。

 

 「置いていかれる? バカ言え」

 

 北園がハンバーグを指差す。

 

 「お前がいなくても、俺たちは強くなる」

 

 一瞬、胸が痛む。

 でも――

 

 「心配すんな」

 

 そして例のフレーズ。

 

 「まぁ、上杉だし、仕方ないな」

 

 みんなが笑う。

 俺も笑う。でも、目頭が熱くなる。

 

 「俺はこの何気ない時間が好きだったんだ」

 

 思わず呟く。

 声が震える。情けない。

 

 北園が目を丸くする。

 

 「お前、急にしんみりすんなよ。気持ち悪いな」

 

 でも、その目は優しい。

 

 「いや、ほんとだよ」

 

 箸を置く。手が震えてる。

 

 「訓練でバカやって、こうやって飯食って笑う時間がさ」

 

 静かに頷く仲間たち。

 

 この瞬間が、俺の士官学校だ。

 開発任務でこれが減る。

 

 喉が詰まる。

 

 「でも、週一の実機訓練では会えるんだろ?」

 

 山田が聞く。

 希望を込めた声。

 

 「ああ。その時は思いっきりやろうぜ」

 

 みんなが頷く。

 胸の重さが、少し軽くなった。

***

 3日後、国防研究所。

 

 コンクリートの建物。

 無機質。冷たい。

 

 警備員の鋭い視線。

 背筋がピンと伸びる。

 

 「上杉君、久しぶりだね」

 

 技術開発責任者。桜井博士。

 白髪交じり。でも目は若い。

 

 情熱が見える。

 その熱に、少し圧倒される。

 

 研究室。

 壁一面のモニター。

 

 そして――

 

 第6世代機の設計図。

 

 息が止まる。

 

 流線型。複雑な配線。無数のセンサー。

 これは――芸術品だ。

 

 美しい。

 そして恐ろしい。

 

 手が震える。

 興奮? 恐怖? 両方だ。

 

 「性能評価だ。見てくれ」

 

 分厚いファイル。

 開く。手が震えてページをめくるのに苦労する。

 

 驚愕のスペック。

 

 マッハ3巡航。

 ステルス性能。

 AI制御。

 レーザー兵器搭載。

 

 これまでの戦闘機とは次元が違う。

 

 UCAVの仕様も。

 完全無人。長距離作戦可能。群制御。

 

 「これは次の戦争の形を変えるな」

 

 呟く。

 声が掠れてる。

 

 桜井博士が頷く。

 

 「その通りだ。お前の視点が必要なんだ」

 

 操縦士の経験。

 AI技術の知識。

 両方持ってるのは俺だけ。

 

 責任の重さ。

 肩にズシリとのしかかる。

 

 でも――

 

 胸の奥で何かが熱くなる。

 わくわくする。

 

 「これから長い付き合いになる」

 

 桜井博士が手を差し出す。

 

 「よろしく頼むよ」

 

 握手。

 温かい手だ。でも、力強い。

 

 「こちらこそ、よろしくお願いします」

***

 設計図を見ながら、ふと思う。

 

 無名權波なら、この技術をどう見るだろう。

 

 ……いや。

 

 首を振る。

 会うつもりはない。リスクが大きすぎる。

 

 もし対面すれば――

 

 背筋が凍る。

 俺が転生者だと察されるかもしれない。

 

 過去のサイバー戦。

 奴の端末は破壊した。

 

 でも、執念は消えてない。

 きっと、今も――

 

 胸がざわつく。

 

 今は技術解析に集中。

 それが俺の役割。

 

 モニターに映る設計図。

 未来の戦闘機。

 

 俺が関わる。

 俺の手で、歴史が動く。

 

 手を見る。

 震えてる。でも、悪い震えじゃない。

 

 静かに息を吐く。

 

 この役割が未来をどう変えるのか。

 答えはまだ見えない。

 

 でも確信がある。

 一歩が、ここから始まる。

 

 振り返れば、士官学校の日常も大切。

 仲間との時間。かけがえのない。

 

 でも、前を向かなければ。

 

 新しい挑戦。

 新しい責任。

 

 怖さもある。

 胃の奥がキリキリする。

 

 けれど――

 

 楽しみの方が勝っている。

 

 「まぁ、上杉だし、仕方ないな」

 

 自分で呟いて、小さく笑った。

 

 涙が一粒、頬を伝った。

 嬉し涙か、寂し涙か。

 

 分からない。

 でも、それでいい。

***

※1 USTI:上杉特別情報局。上杉グループの諜報・防諜組織

※2 第6世代機:現在開発中の次世代戦闘機。AI制御、極超音速飛行、指向性エネルギー兵器などを搭載予定

※3 UCAV:無人戦闘航空機(Unmanned Combat Aerial Vehicle)。パイロットなしで戦闘任務を遂行

※4 PMC:民間軍事会社(Private Military Company)。軍事訓練や警備などを提供する民間企業

------------------------------------------------------------

この作品を応援してくださる皆様へお願いがあります。

なろうでは「ブックマーク」と「評価ポイント」が多いほど、多くの読者に届きやすくなります。

「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ ブックマーク&★評価 を押していただけると、今後の更新の励みになります!


感想も大歓迎です! 一言でもいただけると、モチベーションが爆上がりします!


次回もお楽しみに! ブックマークもしていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ