第44話 先行試作機始動!技術革新と士官学校の波紋
夏季休暇が終わった。
3日遅れの帰校。※1USTIの緊急任務。無名權波絡みだ。
正門をくぐる。
一瞬、空気が変わる。視線が突き刺さる。
「お前、どこ行ってたんだ?」
北園の声。目がキラキラしてる。好奇心の塊だ。
「機密情報か?」
田中がニヤニヤしながら肩を叩く。
力が強い。痛い。でも、この痛みが懐かしい。
「その通り。話せないんだよ」
苦笑いで返す。口の端が引きつる。
北園が大げさにため息。
「まぁ、上杉だし、仕方ないな」
周囲から笑い。
このフレーズ、最近の定番だ。
最初は俺がやらかした時の冗談。
今では――
「まぁ、上杉家だから仕方ないな」
華族社会全体をからかうニュアンスまで含む。
笑いものか。
でも、胸が温かくなる。距離が縮まってる証拠だ。
***
教官室。
ドアの前で深呼吸。なぜか緊張する。
ノック。
「入れ」
渋い声。
ドアを開ける。教官の厳つい顔。でも、目が笑ってる。
嫌な予感。
胃がキュッと締まる。
「遅かったな。まぁ、報告は上がってる」
ニヤリと笑う。
背筋に冷たいものが走る。
「驚くなよ」
驚くなと言われて、驚かない奴はいない。
「お前の操縦シミュレーター訓練、全て免除だ」
は?
耳を疑う。聞き間違い?
いや、教官は確かにそう言った。
頭の中が真っ白になる。
膝から力が抜ける。
「戦技シミュレーターは削らない。実機訓練も週一回に制限される」
制限。
その言葉が胸に突き刺さる。
「国防研究所との共同開発に時間が割かれる」
教官が続ける。
「※2第6世代機の試作機と新型※3UCAVの開発に関わるんだ」
第6世代機。UCAV。
単語は理解できる。でも、現実感がない。
「マジ、ですか?」
声が裏返る。喉がカラカラだ。
「旅客操縦士免許の規定時間はクリアしてるだろ」
確かに自家用免許は持ってる。
※4PMCでの訓練時間も十分。でも――
「操縦士としての経験を積みたかったんですが……」
本音が漏れる。
実機訓練は貴重だ。戦闘機を操る感覚。
それが制限される。
拳を握る。爪が掌に食い込む。悔しい。
「分かる」
教官の声が優しくなる。
「だが、この任務はそれ以上に重要だ」
目が真剣になる。
「お前の進路は操縦士で決まってる。技術は十分」
そして――
「今は別の形で力を発揮しろ」
言い返せない。
喉の奥に何かが詰まる。
でも、頷くしかない。
***
昼食時、食堂。
ハンバーグの匂い。
鉄板のジュウジュウ音。
いつもの光景。
でも、心はまだ教官室にある。
箸が進まない。
「お前、訓練減るんだろ?」
隣の山田が聞く。
心配そうな顔。
「うん。置いていかれる気がしてさ」
正直に答える。
胸の奥がチクチク痛む。
「置いていかれる? バカ言え」
北園がハンバーグを指差す。
「お前がいなくても、俺たちは強くなる」
一瞬、胸が痛む。
でも――
「心配すんな」
そして例のフレーズ。
「まぁ、上杉だし、仕方ないな」
みんなが笑う。
俺も笑う。でも、目頭が熱くなる。
「俺はこの何気ない時間が好きだったんだ」
思わず呟く。
声が震える。情けない。
北園が目を丸くする。
「お前、急にしんみりすんなよ。気持ち悪いな」
でも、その目は優しい。
「いや、ほんとだよ」
箸を置く。手が震えてる。
「訓練でバカやって、こうやって飯食って笑う時間がさ」
静かに頷く仲間たち。
この瞬間が、俺の士官学校だ。
開発任務でこれが減る。
喉が詰まる。
「でも、週一の実機訓練では会えるんだろ?」
山田が聞く。
希望を込めた声。
「ああ。その時は思いっきりやろうぜ」
みんなが頷く。
胸の重さが、少し軽くなった。
***
3日後、国防研究所。
コンクリートの建物。
無機質。冷たい。
警備員の鋭い視線。
背筋がピンと伸びる。
「上杉君、久しぶりだね」
技術開発責任者。桜井博士。
白髪交じり。でも目は若い。
情熱が見える。
その熱に、少し圧倒される。
研究室。
壁一面のモニター。
そして――
第6世代機の設計図。
息が止まる。
流線型。複雑な配線。無数のセンサー。
これは――芸術品だ。
美しい。
そして恐ろしい。
手が震える。
興奮? 恐怖? 両方だ。
「性能評価だ。見てくれ」
分厚いファイル。
開く。手が震えてページをめくるのに苦労する。
驚愕のスペック。
マッハ3巡航。
ステルス性能。
AI制御。
レーザー兵器搭載。
これまでの戦闘機とは次元が違う。
UCAVの仕様も。
完全無人。長距離作戦可能。群制御。
「これは次の戦争の形を変えるな」
呟く。
声が掠れてる。
桜井博士が頷く。
「その通りだ。お前の視点が必要なんだ」
操縦士の経験。
AI技術の知識。
両方持ってるのは俺だけ。
責任の重さ。
肩にズシリとのしかかる。
でも――
胸の奥で何かが熱くなる。
わくわくする。
「これから長い付き合いになる」
桜井博士が手を差し出す。
「よろしく頼むよ」
握手。
温かい手だ。でも、力強い。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
***
設計図を見ながら、ふと思う。
無名權波なら、この技術をどう見るだろう。
……いや。
首を振る。
会うつもりはない。リスクが大きすぎる。
もし対面すれば――
背筋が凍る。
俺が転生者だと察されるかもしれない。
過去のサイバー戦。
奴の端末は破壊した。
でも、執念は消えてない。
きっと、今も――
胸がざわつく。
今は技術解析に集中。
それが俺の役割。
モニターに映る設計図。
未来の戦闘機。
俺が関わる。
俺の手で、歴史が動く。
手を見る。
震えてる。でも、悪い震えじゃない。
静かに息を吐く。
この役割が未来をどう変えるのか。
答えはまだ見えない。
でも確信がある。
一歩が、ここから始まる。
振り返れば、士官学校の日常も大切。
仲間との時間。かけがえのない。
でも、前を向かなければ。
新しい挑戦。
新しい責任。
怖さもある。
胃の奥がキリキリする。
けれど――
楽しみの方が勝っている。
「まぁ、上杉だし、仕方ないな」
自分で呟いて、小さく笑った。
涙が一粒、頬を伝った。
嬉し涙か、寂し涙か。
分からない。
でも、それでいい。
***
※1 USTI:上杉特別情報局。上杉グループの諜報・防諜組織
※2 第6世代機:現在開発中の次世代戦闘機。AI制御、極超音速飛行、指向性エネルギー兵器などを搭載予定
※3 UCAV:無人戦闘航空機(Unmanned Combat Aerial Vehicle)。パイロットなしで戦闘任務を遂行
※4 PMC:民間軍事会社(Private Military Company)。軍事訓練や警備などを提供する民間企業
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