第43話 帰校と新たな役割
夏季休暇が終わった。
3日遅れの帰校。USTIの緊急任務。無名權波絡みだ。
正門をくぐると、視線が集まる。
「お前、どこ行ってたんだ?」
北園の声。目が好奇心でキラキラしてる。
「機密情報か?」
別の同期──田中がニヤニヤしながら肩を叩く。
「その通り。話せないんだよ」
苦笑いで返す。
北園が大げさにため息。
「まぁ、上杉だし、仕方ないな」
周囲から笑い。このフレーズ、最近の定番だ。最初は俺がやらかした時の冗談。今では──
「まぁ、上杉家だから仕方ないな」
華族社会全体で俺たちをからかうニュアンスまで含む。
笑いものか。でも悪くない。距離が縮まってる証拠だ。
***
教官室。扉をノック。
「入れ」
渋い声。厳つい顔の教官。でも目は柔らかい。
「遅かったな。まぁ、報告は上がってる。驚くなよ」
ニヤリと笑う。嫌な予感。
「お前の操縦シミュレーター訓練、全て免除だ」
は?
聞き間違いか。いや、教官は確かにそう言った。
「戦技シミュレーターは削らない。実機訓練も週一回に制限される」
頭が真っ白。言葉が出ない。
「国防研究所との共同開発に時間が割かれる。第6世代機の試作機と新型UCAVの開発に関わるんだ」
「マジ、ですか?」
声が裏返る。国防研究所。第6世代機。UCAV。どれも現実感がない。
「旅客操縦士免許の規定時間はクリアしてるだろ。上からの指示だ」
確かに自家用免許は持ってる。PMCでの訓練時間も十分。でも──
「操縦士としての経験を積みたかったんですが……」
本音が漏れる。実機訓練は貴重だ。戦闘機を操る感覚。それが制限される。悔しい。
「分かる。だが、この任務はそれ以上に重要だ」
教官の目が真剣になる。
「お前の進路は操縦士で決まってる。技術は十分。今は別の形で力を発揮しろ」
言い返せない。胸の奥がざわつく。でも、頷くしかない。
***
昼食時、食堂。
ハンバーグの匂い。鉄板のジュウジュウ音。いつもの光景。でも心はまだ教官室にある。
「お前、訓練減るんだろ?」
隣の山田が聞く。
「うん。置いていかれる気がしてさ」
正直に答える。
「置いていかれる?バカ言え」
北園がハンバーグを指差す。
「お前がいなくても、俺たちは強くなる。心配すんな」
そして例のフレーズ。
「まぁ、上杉だし、仕方ないな」
みんなが笑う。俺も笑う。でも──
「俺はこの何気ない時間が好きだったんだ」
思わず呟く。北園が目を丸くする。
「お前、急にしんみりすんなよ。気持ち悪いな」
「いや、ほんとだよ。訓練でバカやって、こうやって飯食って笑う時間がさ」
静かに頷く仲間たち。この瞬間が、俺の士官学校だ。
開発任務でこれが減る。胸が締め付けられる。
「でも、週一の実機訓練では会えるんだろ?」
山田が聞く。
「ああ。その時は思いっきりやろうぜ」
みんなが頷く。少し、気持ちが軽くなった。
***
3日後、国防研究所。
コンクリートの建物。無機質。警備員の鋭い視線。
技術開発責任者が出迎える。白髪交じり。でも目は若い。情熱が見える。
「上杉君、久しぶりだね。協力してもらうよ」
名前は桜井博士。前に一度会ったことがある。
研究室。壁一面のモニター。第6世代機の設計図。
流線型。複雑な配線。無数のセンサー。
第6世代機の全体像がモニターに映る。
息を呑む。これは──芸術品だ。
美しい。そして恐ろしい。
「性能評価だ。見てくれ」
分厚いファイル。開く。
驚愕のスペック。これまでの戦闘機とは次元が違う。
マッハ3巡航。ステルス性能。AI制御。レーザー兵器搭載。
UCAVの仕様も。完全無人。長距離作戦可能。群制御。
「これは次の戦争の形を変えるな」
呟く。桜井博士が頷く。
「その通りだ。お前の視点が必要なんだ」
操縦士の経験。AI技術の知識。両方持ってるのは俺だけ。
責任の重さ。でも、わくわくする。
「これから長い付き合いになる。よろしく頼むよ」
桜井博士が手を差し出す。握手。温かい手だ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
***
設計図を見ながら、ふと思う。
無名權波なら、この技術をどう見るだろう。
いや、会うつもりはない。リスクが大きすぎる。
対面すれば、俺が転生者だと察されるかもしれない。
過去のサイバー戦。奴の端末は破壊した。でも執念は消えてない。
今は技術解析に集中。それが俺の役割。
無名權波の終幕は、新たな情報戦の幕開け。
奴との戦いは一段落。でも、これから始まる開発が新たな使命。
モニターに映る設計図。未来の戦闘機。俺が関わる。
静かに息を吐く。
この役割が未来をどう変えるのか──答えはまだ見えない。
でも確信がある。
俺の手で歴史を動かす一歩が、ここから始まる。
振り返れば、士官学校の日常も大切。でも前を向かなければ。
新しい挑戦。新しい責任。
怖さもある。けれど──楽しみの方が勝っている。
「まぁ、上杉だし、仕方ないな」
自分で呟いて、小さく笑った。
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