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第42話 逃亡者の末路

 解析班からの報告を見る。

 手が震える。興奮? いや、不安だ。

 

 「……ここが、奴の拠点か」

 

 画面に映るワルシャワの地図。

 赤い点が点滅してる。無名權波の位置。

 

 ついに見つけた。

 でも、胸の奥がザワザワする。

 

 次の一手は、こちらから――

 

 いや、もう始まってる。

***

 諜報機関本部。

 モニター越しに作戦を見守る。

 

 現地時間02:00。

 ワルシャワは真夜中。俺は東京で画面を睨む。

 

 「制圧開始!」

 

 無線から声が響く。

 同時に、爆発音。スピーカーが震える。

 

 心臓が跳ね上がる。

 始まった。本当に始まった。

 

 画面が激しく揺れる。

 ヘルメットカメラの映像。突入部隊の視点。

 

 閃光。銃声。怒号。

 

 耳が痛い。音量を下げる。

 でも、現場の緊張感は伝わってくる。

 

 「くそっ!迎え撃て!」

 

 敵の声。組織の兵士たち。

 無名權波を囲ってる連中。

 

 ババババンッ!!

 

 短機関銃の音。

 画面が赤く染まる。血? いや、マズルフラッシュの光。

 

 手のひらに汗が滲む。

 これは映画じゃない。現実だ。

 

 「前進できません!」

 

 部隊からの報告。

 敵が防御陣を張ってる。

 

 胃がキリキリする。

 このままじゃ――

 

 「グレネード使用許可」

 

 指揮官の判断。

 画面に手榴弾が映る。

 

 3……2……1……

 

 息を詰める。

 

 爆発。

 画面が真っ白になる。土煙。叫び声。

 

 「突入!突入!」

 

 混乱。でも、前進してる。

 作戦は成功してる。でも――

 

 「奴が逃げた!」

 

 全身の血が引く。

 無名權波。逃がすな。

***

 追跡映像。

 ドローンからの俯瞰視点。

 

 走る影。無名權波だ。

 必死に逃げてる。

 

 なぜか胸が痛む。

 敵なのに。でも――

 

 同じ転生者かもしれない。

 違う世界の記憶を持つ、俺と同じ――

 

 「標的を南西で確認」

 

 無線が現実に引き戻す。

 感傷なんて、今は邪魔だ。

 

 画面の中で、無名權波が工事現場に飛び込む。

 隠れてる。震えてる?

 

 赤外線カメラに切り替わる。

 体温が白く光る。隠れても無駄。

 

 「発見した!」

 

 また走り出す。

 でも、もう逃げ場はない。

 

 喉が渇く。唾を飲む。

 なぜこんなに緊張してる?

***

 狙撃音。

 パァンッ!

 

 足元で弾が跳ねる。

 無名權波が飛び退く。

 

 でも、まだ走る。

 執念? それとも恐怖?

 

 閃光弾。

 ズガンッ!

 

 画面が真っ白。

 次の瞬間、地面に押し倒される無名權波。

 

 「ターゲット確保!」

 

 終わった。

 

 なのに、安堵より先に来たのは――

 虚しさ?

 

 画面の中で、手錠をかけられる無名權波。

 顔は見えない。でも、絶望してるのが分かる。

 

 俺と同じ立場だったかもしれない男が。

***

 「無名權波とは会わない」

 

 俺はそう決めた。

 即座に。迷いなく。

 

 ……いや、迷ったからこそ、即断した。

 

 理由は単純だ。

 もし彼が俺を転生者だと察したら――

 

 背筋が凍る。

 その影響は計り知れない。

 

 それに。

 

 もし本当に転生者だったら。

 同じ境遇の人間と向き合ったら。

 

 俺は冷静でいられるか?

 

 手を見る。

 まだ震えてる。画面越しでさえ、これだ。

 

 直接会ったら――

 

 「データ解析を優先する」

 

 自分に言い聞かせる。

 これが最善だ。そうだ。間違いない。

 

 ……本当に?

***

 解析レポートが届く。

 無名權波のツール。ログデータ。アクセス履歴。

 

 読み進める。

 眉間にシワが寄る。

 

 高度な技術。

 でも、この世界では――

 

 「通用しない部分が多い」

 

 呟く。

 前世の技術。この世界の技術。

 ギャップがある。

 

 彼も苦労したんだろう。

 適応できない技術。使えない知識。

 

 胸が締め付けられる。

 

 でも、一部は有用だ。

 暗号解読のロジック。データ隠蔽の手法。

 

 彼の遺産。

 いや、まだ生きてる。遺産じゃない。

 

 でも、もう会うことはない。

***

 外交交渉の報告。

 ロシアとの駆け引き。

 

 「機材は返還。でもデータはコピー済み」

 

 腹黒い。でも、それが外交。

 

 無名權波が使ってた機材。

 ロシアの現地担当者が独断で提供。

 

 複雑な構図。

 個人と組織と国家が絡み合う。

 

 頭が痛くなる。

 こめかみを押さえる。

 

 これが現実。

 転生者だろうと何だろうと、巻き込まれる。

***

 深夜。自室で考える。

 

 無名權波のデータを見返す。

 ※1多重暗号化。必死の抵抗。

 

 何から逃げてた?

 何を守ろうとしてた?

 

 分からない。

 聞くこともできない。

 

 会わないと決めたから。

 

 でも――

 

 もし立場が逆だったら。

 俺が追われる側だったら。

 

 手が震える。

 恐怖? それとも――

 

 窓の外を見る。

 東京の夜景。平和そうに見える。

 

 でも、どこかで誰かが追われてる。

 転生者が。俺と同じ存在が。

 

 無名權波は捕まった。

 でも、他にもいるかもしれない。

 

 味方か、敵か。

 分からない。

 

 ただ、一つだけ確かなこと。

 

 この戦いは、まだ終わってない。

 むしろ、これからが本番だ。

 

 データの解析は続く。

 外交戦も続く。

 そして――

 

 転生者同士の、見えない戦いも。

 

 胸の奥で、何かが疼く。

 不安? 覚悟? それとも――

 

 孤独か。

***

※1 多重暗号化:データを複数の暗号化アルゴリズムや鍵を使って重ねて暗号化する方法。解読を極めて困難にする

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