第41話 亡霊からの挑戦状 ~復活した無名權波とのサイバー戦
明日、士官学校に戻る予定だった夕刻。
秋葉原の空に警報が鳴り響いた。
全身の毛が逆立つ。
この音は――緊急警戒レベル。データセンターへの侵入。
手のひらに汗が滲む。
まさか、また――
「義兄様!」
玲奈が部屋に飛び込んでくる。顔が青い。
「データセンターで何か起きてるの?」
「ついて来い。実戦を見せてやる」
強がってみせる。でも、心臓が早鐘を打ってる。
嫌な予感しかない。
***
司令室。
モニターの青い光が目に痛い。
「敵は囮の脆弱性に食いついた!」
オペレーターの声が響く。
予想通り……いや、違う。
画面を見て、息が止まる。
侵入者は囮と察知しながら、慎重に対応している。
この手口――
背中に冷たい汗が流れる。
無名權波と同じ。いや、進化している。
「※1マルウェアの投入準備完了!」
その瞬間だった。
敵は「囮」を足場に、本格的な侵入を開始した。
「くそっ!」
思わず声が出る。
完全に読まれてる。まるで――
死んだはずの男が、画面の向こうで笑ってるみたいだ。
「侵入経路、特定!」
「※2ポートとプロトコルを即時閉鎖!」
「ネットワーク、物理的に切断!」
指示を飛ばす。声が震えないよう必死だ。
でも、手が震えてる。キーボードを叩く音が不規則。
無名權波は死んだはず。
なのに、この手口は――
胃がキリキリする。まさか、替え玉?
***
「AI駆動型防御システム、全展開!」
最後の切り札。
※3量子暗号通信を使った監視システムが、全ネットワークに展開される。
「AI駆動型防御システムって?」
玲奈が聞いてくる。不安そうな声。
「プロのボクサーみたいなものだ」
説明しながら、自分を落ち着かせる。
「相手の動きを予測して、攻撃が来る前に回避しながら迎撃する」
でも、本当に防げるのか?
画面が赤く点滅する。
敵の侵入が続いてる。執拗だ。諦めない。
まるで、恨みでも――
「反撃開始!」
こちらも黙ってない。
隙を見て、敵のサーバー3台を破壊。
画面に「SUCCESS」の文字。
でも、喜べない。胸の奥がざわつく。
これで終わりじゃない。分かってる。
***
突然、画面に文字が浮かぶ。
『貴様たちはすでに監視されている。降伏しなければデータを抹消する』
脅し? ハッタリ?
でも、次の文字で全身が凍りつく。
『俺は死んでいない。黒社会のおかげで生き延びた。死体は替え玉だった』
無名權波。
やっぱり生きてた。
膝から力が抜ける。椅子にもたれかかる。
「やはり……」
声が掠れる。
死んだと思ってた敵が、亡霊のように蘇った。
手を見る。震えてる。
恐怖? いや、違う。これは――
怒りだ。
「奴のハッキングの腕は確かだ」
認めたくないけど、事実だ。
「でも、こちらは金を惜しまず最新のシステムを使える」
強がり? いや、事実だ。
高度なAI、最新鋭のセキュリティ。リソースが違う。
「奴のリソースには限界がある」
そう言いながら、不安が消えない。
限界がある奴が、なぜここまで執拗に?
***
『この程度で俺を倒したつもりか?』
新たなメッセージ。
同時に、別の警告音。
「新たなアクセス試行を検知!」
画面を見て、血の気が引く。
今度は――士官学校の端末ネットワーク。
「奴、軍の内部システムに手を出そうとしているのか!?」
声が裏返る。
これはマズい。本当にマズい。
「即座に物理セキュリティも強化しろ!」
叫ぶ。
サイバー戦だけじゃない。物理的な侵入の可能性も。
背筋がゾクゾクする。
奴は本気だ。本気で俺たちを潰しに来てる。
「今度は、こちらから攻める番だ」
拳を握る。爪が掌に食い込む。
防御だけじゃダメだ。分かってる。
でも――
攻撃すれば、エスカレートする。
戦争になる。本当の戦争に。
それでも、やるしかない。
***
ハッキングによる情報解析。
無名權波の通信記録を追う。
そして、見つけた。
複数の匿名ネットワークを経由した痕跡。
「……まさか」
喉が詰まる。
国外の情報機関? まさか、国家が――
手が震える。
これは、俺たちが扱える規模じゃない。
「お前たちは自分が何をしたのか、理解していないようだな」
新たなメッセージ。
脅し? いや、警告だ。
「新たな侵入試行を検知!」
また? いや、違う。
今回は――
「待て、これは内部からのアクセスログだ」
全身から血の気が引く。
内部? 誰かが――裏切った?
「全施設の端末を即時チェックしろ!」
叫ぶ。声が枯れる。
まさか、すでに侵入されてる?
AI防御システムが、かろうじて阻止。
でも、次は? その次は?
額に汗が滲む。拭う。また滲む。
終わりが見えない。
***
軍事会議。オンライン参加。
画面の向こうで、偉い人たちが議論してる。
「この事件は国家レベルの脅威とみなすべきだ」
そうだ。もう個人の戦いじゃない。
「無名權波は、我々の防御システムを突破する新たな手法を開発しつつある」
説明する。声を震わせないよう必死だ。
「奴が本格的な戦争を仕掛ける前に、こちらから仕掛けるべきでは?」
誰かが言う。
会議室が静まり返る。
戦争。
その言葉の重さに、息が詰まる。
でも――
「同意する」
自分の声とは思えない。
でも、言った。
「防御だけでは限界がある。攻勢に出る必要がある」
無名權波討伐作戦。
決定した。
画面を切る。
一人になる。
手を見る。
まだ震えてる。
これで良かったのか?
戦争を始めてしまった。
でも、他に選択肢はない。
……本当に?
窓の外を見る。
秋葉原の夜景。平和そうに見える。
でも、その裏で戦争が始まった。
俺が始めた。
無名權波。
お前は何を求めてる?
なぜそこまで執着する?
答えは、戦場で聞くしかない。
胸の奥が、ズキズキと痛む。
これは始まりに過ぎない。
本当の地獄は、これからだ。
***
※1 マルウェア:コンピュータに害を与える悪意のあるソフトウェアの総称
※2 ポートとプロトコル:ネットワークの通信経路と通信ルール。これを閉鎖すると外部からの侵入を防げる
※3 量子暗号通信:量子力学の原理を使った、理論上解読不可能な暗号通信技術
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