閑話 無名權波視点:盗まれた祖国
俺は気が付いたら北京に住む教師の息子に生まれ変わっていた。
前世で──死んだ? 記憶が曖昧だ。頭の奥がズキズキする。
最後に覚えてるのは、61398部隊のオフィス。モニターの光。そして──
胸が締め付けられる。思い出せない。
目を覚ましたら6歳。
鏡を見て叫びそうになった。喉が詰まる。心臓が止まりそうだった。
小さな手を見つめる。これが──俺の手? 震えが止まらない。
誰だ、このガキは?
……俺か。胃がひっくり返りそうになった。
それが今から30年前のことだ。
当時、両親は天安門事件の余波を受け、若者を扇動したとの疑いをかけられ、南中国に亡命を余儀なくされていたらしい。
南中国? 北中国?
何だそれは。悪い冗談か? 舌が乾く。
中国は──統一国家のはずだ。
共産党が支配して、アメリカを追い抜いて──
それが、分断?
拳を握る。爪が掌に食い込む。痛い。血が滲む。
でも、現実の痛みだ。これが。歯を食いしばる。顎が痛い。
現在、俺が住んでいるのは南京だ。
南中国政府の支配地域。そこそこの規模の都市。
でも──前世と比べれば、経済も技術も中途半端。
胸の奥で何かが燃える。熱い。焼けるように熱い。
両親の故郷、北京にはもう戻れない。
分断された中国。北中国に足を踏み入れれば──スパイ扱い。
笑える。喉の奥から乾いた笑いが漏れる。自分の国で、スパイ。
腹の底が冷たくなる。
前世、俺は中国人民解放軍61398部隊の一員だった。
誇りだった。胸を張って歩いた。
アメリカが名指しで非難するほどの、最強のサイバー戦部隊。
国家のため。人民のため。そう信じて──背筋がピンと伸びた。
でも、この世界では?
61398部隊なんて存在しない。
俺の技術も、経験も、誇りも──無意味?
喉が締まる。息ができない。
……いや、違う。深く息を吸う。肺が痛い。
だからこそ、俺が作る。新しい61398部隊を。
拠点は香港。
南中国政府の支配下だが、イギリスの影響が残る。
高性能な機材。自由なネットワーク。
ハッカーには──最適だ。指先がうずく。
「ここからなら、世界中に手を伸ばすことができる」
そう呟きながら、準備を始めた。声が震える。興奮か、不安か。
南京と香港を行き来。資材を集める。ネットワーク構築。
夜行バスで揺られる。腰が痛い。目が充血する。
でも──資金不足。慢性的に。
必要な機材も、ソフトも、揃わない。
61398部隊なら、国家予算で──
いや、愚痴っても仕方ない。舌を噛む。
半年前、日本に渡った。
資材調達。情報収集。
ネットカフェを転々としながら、この世界の歴史を調べた。
狭い個室。煙草の匂い。息が詰まる。
衝撃だった。
日本と中国、戦争してない。満州が独立国家。
日本は敗戦せず、貴族制度が残ってる。
異様だ。狂ってる。
画面を見つめる目が痛い。瞬きを忘れてた。
***
その中で見つけた。上杉グループ。
前世には──なかった。心臓が跳ねた。
大慶油田の発見。AI技術の先進性。
おかしい。おかしすぎる。背中に冷や汗が流れる。
まさか──転生者?
俺と同じ? いや、もっと──
背筋が凍る。全身の毛が逆立つ。
もし俺より前に転生して、この世界を作り変えたなら──
危険だ。排除しなければ。喉がカラカラになる。
家族写真をネットで確認。
胸の奥で何かが捻じれる。憎しみ? それとも──恐怖?
手が震える。マウスが滑る。
「こいつらは危険だ。最初に潰すべき相手だ」
声に出す。でも掠れてる。
日本滞在中、偶然──いや、必然か。
上杉グループの次代当主、上杉義之と遭遇。
写真で見た顔。すぐ分かった。心臓が早鐘のように打つ。
護衛付き。手は出せない。
代わりに──
「いつか、お前を破滅させてやる」
言った。脅した。声が震えてたか?
でも──動揺しなかった。あの小僧。
瞳孔すら動かない。なぜだ?
なぜだ? 胃がキリキリと痛む。
俺の言葉が軽かったか? それとも──
知ってる? 俺が転生者だと?
まさか。でも、あの目は──冷たい汗が背中を伝う。
上杉義之の写真。ダーツの的にしてる。
笑顔を見るたび、祖国が奪われた怒りが──
拳を握る。また爪が食い込む。
でも、現実は厳しい。
2度の攻撃。戦果ゼロ。
BTCは凍結。端末は破壊。
逆ハッキング──やられた。完全に。
61398部隊の俺が? 最強のハッカーが?
小僧に負けた? 喉の奥から苦いものが込み上げる。
……違う。息が詰まる。
俺は最強じゃない。この世界では。
前世の知識も技術も──時代遅れ?
認めたくない。でも──歯ぎしりする。顎が外れそうだ。
モニターに表示される失敗の文字。
目に焼き付く。網膜が痛い。額を手で覆う。冷や汗でべっとりだ。
胃が捻じれる。また失敗。喉の奥から苦いものが込み上げる。
「次はもっと精密なターゲットを──」
呟く。でも、声に力がない。舌が痺れてる。
奴らの防御システム。甘くない。分かってる。肩が重い。
作戦図を睨む。端末を手に取る。指が震える。
AI制御プログラムの侵入経路。再解析。
目がショボショボする。もう何時間画面を見てる?
「今度は一撃で──」
本当にできるか? 自信が──揺らぐ。背中が丸まる。
他のハッカーに協力を求める。
プライドを捨てて。61398部隊の俺が。
胸が痛い。プライドが軋む音がする。
最後の手段かもしれない。
次のターゲット──秋葉原。
日本の電子技術の中心。情報資源の宝庫。
上杉の関連企業も──
「サーバーファームを狙う」
決意を込める。でも手は震えたままだ。
香港のアパート。薄暗い部屋。
モニターの光だけが俺を照らす。
目が痛い。肌が青白く見える。いつ陽に当たった?
孤独だ。
前世は、部隊の仲間がいた。国家の後ろ盾があった。
今は──一人。胸に穴が開いたみたいだ。
「ファイアウォールの突破口を──」
手が震える。疲れ? それとも──恐怖?
キーボードを打つ音が不規則。ミスタイプが増える。
また失敗したら。資金が尽きたら。
息が浅くなる。過呼吸になりそうだ。
でも、やるしかない。奥歯を噛みしめる。
秋葉原。上杉義之。日本の中枢。
揺るがす。破壊する。奪う。
そして、中国を統一する。
分断された祖国を──俺が。
胸が熱くなる。でも同時に寒気がする。
コードを打つ。震える手で。
でも、確実に。今夜、仕上げる。
指先が痺れる。血行が悪い。でも止まらない。
これが──俺の戦いだ。
転生者としての。61398部隊員としての。
そして──敗者としての。
喉が締まる。敗者。その言葉が胸に刺さる。
上杉義之。
お前を破滅させる。
それが、俺の未来を取り戻す第一歩だ。
拳を握る。今度は血が出た。
……本当に、取り戻せるのか?
分からない。でも──
やるしかない。
震えを止めて、最後の一行を打ち込んだ。
ネットコン13挑戦中。締め切りは7/23 23:59まで。
最後まで全力で駆け抜けます。
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