第2話 秋葉原の奇跡を築いた曽祖父 ver1.2
曽祖父は、昭和元年の日本に降り立った転生者だった。
上杉義弘——「秋葉原の奇跡を築いた男」
***
学習院初等科から帰宅。
鞄を放り投げる。ベッドに倒れ込む。
疲れて——いや、違う。
足が勝手に速歩きになってた。心臓がドクドクうるさい。なぜだ。
壁の肖像画。
曽祖父の瞳が、俺を射抜く。
油彩の目。未来を見てる。胸の奥で、何かが跳ねた。
ベッドサイドのガラスケース。
埃をかぶった「Blu-ray」。転生直後に手にした遺物。
小さな手で持ち上げる。
重い。ずっしりと。
指先が触れた瞬間——
振動。
かすかに。でも確かに。
部屋の壁が、淡く光った。
隠されたパネル。現れる。
ディスクをセット。
電子の唸り。
そして——
「義之、私は転生者だ」
曽祖父の声。
低い。力強い。鼓膜が震える。
「秋葉原を電子と文化の聖地に変えた男、上杉義弘だ」
前のめりになる。
小さな手で、膝を掴む。ギュッと。
画像が流れ出す。
昭和の街並み。煤けてる。馬車の軋む音。汽笛。
心臓が、早鐘を打つ。
前世の設計図が、脳裏を——
いや、今は曽祖父だ。
昭和元年。上杉伯爵家の末子として転生。
前世でシステムエンジニア。電子技術の知識を持ち込んだ。
画像が切り替わる。
1942年。満州。荒涼とした大地。
油田が——
噴き出す!
「うわっ!」
声が出た。6歳の声。高い。
まるで映画だ。いや、これは現実。曽祖父の現実。
※1 大慶油田の権益。莫大な富。
その資金で、電子革命を——
***
次のシーン。
煤けた暖炉。書斎。
アラン・チューリングと向き合う義弘。
「真空管の壁を破る」
曽祖父が設計図を描く。
「それが※2 トランジスタだ」
細い線。絡み合う。半導体の結晶。
魔法みたいだ。
今、俺は歴史的瞬間を見ている。間違いなく。
恥ずかしい。口を押さえる。でも——
興奮が、収まらない。
チューリングが応じる。
「電子部品の革命だ」
胸が、熱い。
歴史が動く瞬間。これか。これなのか。
画像が秋葉原へ。
昭和の終わり。電気街。狭い路地。ラジオ店。
電線が絡み合う。雑然としてる。
でも——
曽祖父が現れると、変わる。
ネオンが灯る。新しい店。次々に。
ラジオ館。電気センター。
そして——
「まさか……メイド喫茶まで!?」
顔を近づける。
鼻が、ディスプレイにぶつかりそう。
「曽祖父様、オタクだったのか!」
アニメショップ。ゲームセンター。
俺のオタク魂が、疼く。ウズウズする。
秋葉原が光の海に——
食い入るように見つめる。目が乾く。瞬きを忘れてた。
***
映像の終盤。
曽祖父が再び現れる。
白髪が混じってる。でも瞳は鋭い。俺を見てる。
「義之」
呼ばれた。
背筋が、ピンと伸びる。
「お前がAI技術者として生きることは知っている」
息が、止まる。
「私はハードウェアと基盤を整えた」
喉が、カラカラになる。
「だが、AIは手つかずだ」
心臓が、跳ねる。
「お前が切り拓くブルーオーシャンだ」
小さな拳を、握る。
ギュッと。爪が掌に食い込む。痛い。でも——
「上杉家の歴史は、お前が書き加える」
ディスクが止まる。
静寂。
耳鳴りがする。キーンと。
震える手で、ペンを取る。
6歳の手には大きすぎる。
落とす。カランと音。
慌てて拾う。また握る。
「秋葉原をここまでの街にして」
呟く。声が震える。
「さらに未来の道まで用意するなんて」
すごい。すごすぎる。
でも——
「遺産を背負うなら、そこに甘えるわけにはいかない」
ニューラルネットの図を描く。
線が、ぐにゃぐにゃ。
6歳の手じゃ、思うように——
歯がゆい。
でも、諦めない。
窓の外。
秋葉原の夜景。輝いてる。
あの光、一つ一つが曽祖父の遺産。
「俺も動かなきゃ」
声に出す。決意を固めるように。
「今夜からAIの勉強を始める」
※1 管理者の声が、頭をよぎる。
「特異点として未来を創れ」
震える手で、もう一度ペンを握る。
今度は、しっかりと。
曽祖父が見据えた未来。
現実にするのは、俺だ。
今度こそ——
間に合わせる。
※1 大慶油田:中国東北部の大型油田。この世界線では上杉義弘が開発に関与。
※2 トランジスタ:真空管に代わる半導体素子。電子機器の小型化・高性能化を実現。
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