第25話 訓練開始~夏季定期訓練の始まり
7月初旬、夏季定期訓練が始まった。
1年生全員の体力を鍛え上げる。士官学校の中でも特に過酷なプログラムらしい。
グラウンドに整列。アスファルトの熱が靴底から伝わる。指導教官が説明を始めた。
「この訓練は、君たちの体力と精神力を鍛え直すものだ。自分の限界を超える努力を求める!」
限界を超える──か。
胃がきゅっと縮む。掌に汗が滲んだ。
前世じゃ、残業100時間が限界だった。今は?
……情けない姿? もう見せてる気がする。喉が乾く。
でも、見せられない。華族の跡取りだから。肩に力が入る。
周りの同期たちから緊張感が伝わってくる。
汗を拭う。塩辛い。この暑さ、前世のオフィスのエアコンが懐かしい。鼻の奥がツンとする。
最初のプログラムは10キロのランニング。
夏の暑さが容赦ない。肺が焼ける。足が鉛のように重い。体力を削られる。
でも──ペースは崩さない。崩せない。奥歯を噛みしめる。
「くそ、暑すぎる……」
北園の声。苦しそうだ。息が荒い。
俺は──涼しい顔? してるつもり。実際は死にそう。心臓が暴れてる。
「ペースを守れば、最後まで走り切れる」
偉そうに言った。舌が上顎に張り付く。なんで? マウント取りたいのか、俺。
……最低だな。胸の奥が軋む。
訓練初日の最後。グラウンドに戻る。全員汗だく。シャツが背中に張り付く。
「上杉、やっぱりお前速すぎだろ……」
同期の一人が肩で息をしながら。膝が震えてる。
「ペース配分が全てだよ」
軽く返す。嘘だ。喉の奥が苦い。前世でマラソン経験があるだけ。
視線を感じて振り返る。首筋がチリチリする。
北園の目。悔しそうだ。眉間に深い皺。
分かる。前世で、同期に抜かれた時の俺もそうだった。胃が痛くなる。
でも今は──俺が抜く側。
優越感? 違う。むしろ居心地が悪い。背中がむず痒い。
なんでだ?
訓練が進む。俺は注目されるようになっていた。
ランニング、山岳訓練──常に上位。
100メートル競争では、圧倒的なタイム。
北園が俺を見てる。視線が突き刺さる。明らかに悔しさが浮かんでる。
北園の背中を見て思う。汗でびっしょりだ。
「あいつなら這い上がるぜ」
なんで分かる? 前世の俺がそうだったから。鼻の奥がつんとする。
日に日に、北園の表情が険しくなる。
体力に自信があったはずなのに、俺に及ばない。
その現実が──辛いだろうな。俺の胸がチクリとした。
***
翌日の訓練中、北園の様子が違う。
顔を真っ赤にして全力。血管が浮き出てる。最後まで止まらない。
ゴールと同時に膝に手を突く。肩で息。汗が地面に落ちる。
「おい北園、大丈夫か?」
声を掛ける。喉が締まる。
「お前、なんでそんな化け物なんだよ!」
北園が吠えた。目が──潤んでる? 声が震えてる。
化け物。
そうか、俺は化け物か。転生特典付きの。
喉が詰まる。胸の奥で何かが軋んだ。
何も言えなかった。返す言葉がない。唇が乾く。
だって──本当のことだから。肩が重くなる。
夜、寮に戻る途中。足がまだ震えてる。
北園が1人でトレーニングメニューの記録を見返してる。
ノートにびっしり。自分の記録と目標。ペンを握る手が震えてる。
あいつ、自分のペースを見つけようとしてる。
少し安心した。胸が温かくなる。なんでだ? ライバルが強くなるのに。
「負けたくないだけだ」
北園の呟き。声が掠れてる。
俺の存在が、彼の挑戦心を生んでる。
それは──いいことなのか? 分からない。腹の底がむず痒い。
訓練の合間、自由時間。
校内のコンビニへ。冷房が効いてて生き返る。
美樹さんがいた。心臓が跳ねた。
「義之君、疲れてる顔ね」
見透かされてる。頬が熱くなる。
「美樹さんがいるから頑張れるんです」
定型文。でも本心でもある。複雑だ。舌がもつれそうになる。
「私の婚約者なんだから頑張ってね」
婚約者。その言葉が──重い。肩に圧がかかる。でも嬉しい。鼻の奥が熱い。
視線を感じる。背中がゾクッとする。振り返る──北園。
美樹さんを見てる。その目は──瞳孔が開いてる。
ああ、そうか。彼も男だ。当然か。
でも、なんだろう。この嫌な感じ。胃がムカムカする。
美樹さんの声が響いた瞬間、北園の顔が固まった。
彼女が小さく笑みを隠す。
北園が──可哀そうに思えた。胸が締め付けられる。なんでだ?
北園はすぐに目を逸らして店内へ。肩を落として歩く。
俺は美樹さんと会話を続ける。でも、北園のことが頭に引っかかる。こめかみがズキズキする。
寮に戻る。ベッドに向かう。マットレスが軋む。
あいつも、何か抱えてる。当然だ。みんなそうだ。……たぶん。
そんな中、北園が変わった。
訓練中の動き。迷いが少ない。足取りがしっかりしてる。明確な目的を感じる。
「北園、ペース上がってきたな」
同期が声を掛ける。
「まあな。少しだけな」
北園の笑顔。以前とは違う。目が生きてる。少し晴れやか。
夕方、訓練後。全身が重い。
「上杉、ちょっといいか?」
北園が声を掛けてきた。息がまだ荒い。
「ん? どうした?」
「お前がいつも先に行くのが悔しくて……お前、どうしてそんなに強いんだ?」
強い? 俺が?
前世の知識。転生ボーナス。それを言えるわけない。喉が詰まる。
「最初から強かったわけじゃない」
嘘だ。舌が震える。今世では最初から恵まれてた。
「ただ、自分の限界を決めずにやり続けた」
これも嘘。胃が捻じれる。限界なんて、とっくに見えてる。
「それだけだよ」
嘘ばかりだ。でも、これしか言えない。掌に冷や汗が滲む。
北園は頷いた。信じたのか。
……罪悪感。胸の奥が痛い。
「……そうか。俺ももっと頑張らないとな」
新たな決意が宿ってる。俺の嘘が、彼を動かした。背筋が寒くなる。
翌日の訓練。
北園が変わった。粘り強い。筋肉が震えても最後まで泳ぎ切った。
自信を感じさせる表情。汗が輝いてる。
俺は──どうだ?
相変わらず上位。でも、何か違う。心臓が重い。
茜色の陽が北園の肩に落ちる。汗が光る。
綺麗だ、と思った。努力する人間は。目頭が熱くなる。
俺は? 努力してるか?
してる。でも──ずるい努力だ。喉の奥が苦い。
前世の経験。知識。それを使った努力。
北園の方が──純粋だ。
だから、眩しい。瞼が痛い。
これで、あいつもまた一歩成長する。
俺も負けてられない──なんて言えるのか? 顎に力が入る。
……言えない。でも、言うしかない。
でも、言うしかない。
それが、今の俺の立場だから。腹筋が強張る。
静かに息を吐く。肺が震える。
この訓練、まだ続く。
俺と北園の──何かも、続いていく。
……いや、続けるしかない。拳を軽く握る。
ネットコン13挑戦中。締め切りは7/23 23:59まで。
最後まで全力で駆け抜けます。
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