第1話 転生が紡ぐ新たな歴史
<α世界線:現代日本>
電車の轟音が、耳を劈いた。
俺の人生が、終わった。
駅のホーム。女子中学生が群衆に押し出される。黄色いラインの向こう。よろめく。鞄が転がる。
怯えた瞳が、俺を捉えた。
躊躇い——いや、なかった。
飛び降りた。
少女をホームに押し上げる。手が、小さかった。軽い。
次の瞬間。
金属が骨を砕く。耳鳴り。血の味。
視界が、闇に呑まれた。
2023年9月1日。俺はただのAI技術者だった。平和を創る夢を追っていた。
それが——
途切れた。
***
闇の中。
声が、響く。
目を開ける。白い空間。重力がない。時間もない。
胃が、浮いた。
「ここは?」
呟く。喉が、カラカラだ。
歪んだ空気から、何かが現れる。
半透明。輪郭が光に溶ける。瞳だけが、鋭い。
※1 <管理者>。
なぜか、そう分かった。
「君の決断が未来を揺らし、歴史を分岐させた」
声が、頭蓋骨に直接響く。
脳が、ビリビリと痺れた。
「いや、違う……君の選択が未来を創るのだ」
何を言ってる?
理解できない。でも——
喉が、勝手に閉まった。息ができない。
「君の前世は終わりだ」
枯れた声。疲れが滲む。
「だが、終わりは新たな始まりだ」
光の粒子が集まる。映像が浮かぶ。
AIドローン。災害現場。命を救う光景。
俺のコード? いや、違う。もっと進化してる。
「彼女は君の構想を受け継ぎ、AIを三世代進化させた」
彼女? あの中学生か。
胸が、ぎゅっと締まった。
「だが、その歴史は未完だ」
管理者の瞳が、俺を射抜く。
「1度目は未完成なAIが墜ち、平和は遠のいた」
墜ちた? 失敗?
背筋に、冷たいものが走った。
「今度は間に合わせ、特異点として未来を創れ」
もう一度?
また死ぬかもしれない。
膝が、ガクガクとざわめいた。
でも——
「もう一度、挑戦したい」
声が、震える。
「今度は間に合わせる」
管理者の瞳が、輝いた。
光が、俺を包む。
熱い。いや、冷たい。感覚が混乱する。
「君の願いを受け入れよう」
意識が、引き裂かれる。
「但し、β世界線での記憶は残らない」
β世界線? 何それ——
「やり直すのは、γ世界線だ」
心臓が、一拍止まった。
***
<γ世界線:2007年>
光が消えた。
闇に落ちる。
心臓が、また動き出す。
目を開ける。
電子音。柔らかなシーツ。掌に、布の感触。
小さい。
手が、体が、すべてが——
6歳?
窓の外。秋葉原の光が滲む。
前世の記憶が、流れ込む。
この身体の記憶も。
衝突する。混ざる。
頭が、割れそうだ。
吐き気。喉の奥に、酸っぱいものが——
枕元。懐中時計。銀の装飾。ディスプレイが点滅。
小さな手で触れる。
壁が光る。パネルが飛び出す。
『まるでSF映画じゃん!』
笑いがこみ上げる。
曽祖父の技術か。胸が、熱くなった。
ドアを叩く音。
「坊ちゃま、また夢で叫んでましたよ!」
メイド服の少女。栗色の髪。青い瞳が心配そうに——
「未来見てただけだよ、詩織」
声が、幼い。
この身体、まだ6歳。指先が、痺れている。
詩織が顔色を変える。
「大変です。顔色が真っ青です!」
駆け出す。廊下に飛び出す。
一人になる。
脳裏に、設計図が閃く。
AI。人工知能。※2 ニューラルネット。
前世の知識が、幼い脳に——
収まらない。
思考が裂ける。
詩織が老医師を連れて戻る。
白髪。眼鏡。優しい瞳。
「ご気分はいかがですか?」
額に手。ひんやりとした感触。
「頭が……混乱してる」
脈を取る。
「異常はありませんが、休息が必要ですな」
「お茶をお持ちします!」
詩織の提案。手を振る。
「いい。一人にさせてくれ」
二人が出ていく。
鏡に向かう。
黒髪の少年。大人びた瞳。孤独感。
6歳の身体に、大人の精神。
この違和感——
耐えなければ。
机の引き出し。ディスク。
パネルが動く。映像が流れる。
「義之、私は転生者だ」
曽祖父の声。低い。力強い。
上杉義弘。秋葉原を変えた男。
前世でシステムエンジニア。俺と同じ——
転生者。
息が、止まった。
「AIはお前に託す」
映像の中の曽祖父が、俺を見る。
「俺が築いた基盤で、お前が未来を切り開け」
映像が終わる。
小さな拳を、握る。
脳裏に、何かがよぎる。
公園のベンチ。温かな手。誰かの笑顔。
でも——
思い出そうとした。だが、届かない霧だった
β世界線の記憶は、ない。
それでいい。
あのホームで死んだ俺が、ここで新たな歴史を——
今度は、間に合わせる。
窓の外。
秋葉原の灯りが、瞬いてる。
17年後、俺は誰かと出会うのか。
それはまだ——
遠い話だ。
***
※1 管理者:世界線を管理する超越的存在。転生者の運命を導く。
※2 ニューラルネット:人間の脳神経回路を模倣した人工知能の基本構造。多層の人工ニューロンが複雑に結合し、学習を通じて問題を解決する。
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