第20話 転生の謎と考察
深夜、俺は自室の机に向かってペンを握ったまま宙を睨んでた。
窓の外では冷たい風が木々を揺らし、葉擦れの音が静寂に溶け込む。部屋の薄暗さにランプの灯りが揺れ、俺の影が壁に長く伸びる。
曽祖父と俺――転生者。この謎が頭から離れない。どうして俺たちはこの時代に生まれたのか? 偶然じゃないよな。歴史を変える力が宿ってる気がして、心臓がドクンと跳ねた。
「お兄様、まだ起きていらっしゃったんですか」
ドアの隙間から玲奈が顔を覗かせる。
「ああ、ちょっと考え事をな」
「また難しいプログラムですか?」
俺は苦笑いを浮かべた。息が浅くなる。
「いや、今日は違う。曽祖父の記録を読んでた」
玲奈が部屋に入ってきて、俺の隣に腰を下ろす。彼女の髪からシャンプーの香りが漂った。
机の上の古い記録から埃の匂いが混じる。指先にざらつく紙の感触。ページをめくると、昭和の荒々しい時代が蘇る。
「曽祖父様も、お兄様みたいに夜遅くまで研究されてたんでしょうね」
「大慶油田を発見し、トランジスタを開発し、日本を経済大国に押し上げた。その軌跡が墨の文字に刻まれてる」
戦後の混乱の中、石油を手に握り、国の未来を切り開いた。薄暗い書斎で地図を広げ、油田の位置を指差す曽祖父の姿が浮かぶ。
「石油が世界を動かす時代にぴったりの力だったんだな」
「お兄様は?」
玲奈の問いに、俺は画面を指差した。
「俺は1996年に生まれ、AIが世界を変える直前に転生した。ネットの黎明期、※1量子コンピューターの夢が現実になる前だ」
「運命みたいですね」
口角が勝手に上がった。肩甲骨の間がじんわりと温かくなる。
「俺たちの願いが時代を選んだんだ。曽祖父が石油で歴史を切り開いたなら、俺はAIで未来を創る」
玲奈が小さく頷く。彼女の瞳に映る俺の顔が、妙に真剣だった。
「技術で歴史が変わるなら、俺のAIで何ができる?」
目を閉じて考える。瞼の裏に無名權波の顔が浮かぶ。胃が、きゅっと締まった。
「奴を叩き潰して、家族と未来を守る。融合炉で世界を変えたカヴェンディッシュのように、俺はAIで新しい歴史を刻むんだ」
「でも、お兄様」
玲奈が俺の手に触れた。温かい。
「無理はしないでくださいね」
彼女の心配そうな顔を見て、喉の奥が熱くなる。
「ありがとう、玲奈。でも大丈夫だ」
玲奈が部屋を出て行った後、俺は再び記録に目を落とした。
転生の謎が離れない。俺たちはなぜ選ばれた? 何のためにここにいる? 曽祖父の記録には答えがない。ただ行動の痕跡だけが残ってる。
ペンを握り直し、机に肘をついた。こめかみに指を当てる。脳裏に浮かぶのは、前世の駅のホーム。あの少女を救った瞬間だ。
***
管理者の言葉が頭をよぎる。
『君の選択が歴史を分岐させた。君の選択が未来を創る』
あの白い空間で聞いた声。俺は少女を救うために命を投げ出し、この世界に転生した。
「もしあの選択をしなかったら?」
呟きが部屋に響く。首筋が冷たくなった。AI技術がここまで進まず、前世のようなIT革命が遅れてた可能性だってある。
「俺の転生は、誰かの犠牲の上に成り立ってるのか?」
胸の奥で何かが軋んだ。息を深く吸い込む。曽祖父や融合炉の転生者、カヴェンディッシュも、誰かの運命を変えてここにいるのかもしれない。
転生は単なる奇跡じゃない。腹筋に力が入る。歴史を正すための仕組みなのかもしれない。
「でも、それなら誰が選んでるんだ?」
ペンが小さくカチリと鳴る。窓の外で風が唸り、俺の問いに答えるかのように夜を揺らす。ガラスが微かに震え、不気味な音が耳を刺す。
ノートPCのファンが回り始めた。低い唸りが思考を掻き乱す。
「転生者が歴史を動かすなら、その影響はどこまで及ぶんだ?」
目を細めて考えを広げる。背筋に冷たいものが走った。無名權波のような敵対者が現れるのも、転生者の存在が引き起こす波紋なのかもしれない。
「作用と反作用か」
呟いた瞬間、肩が小さく震えた。歴史の修正装置が動けば、それを阻止しようとする力も生まれる。まるで物理法則だ。
奴は俺のAIを狙い、上杉家の力を潰そうとしてる。その背後には前世の知識とこの世界への憎しみがあるはずだ。
「秋葉原での挑発、暗号通貨攻撃……」
指を折りながら数える。関節がコキッと鳴った。全てが繋がってる気がする。
「転生者が複数いたら、どうなるんだ?」
頬に汗が滲む。ワイシャツが背中に張り付く。もし奴も転生者なら、前世の知識で俺を上回ろうとしてるはずだ。
「でも、俺には――」
言いかけて、口を閉じた。舌が上顎に張り付く。上杉家の技術と家族がある。奴にはない強さだ。
記録を閉じ、PCを開く。画面の青い光が顔を照らし、瞳孔が縮む。コードが目に飛び込む。
「AI技術で人類を導く。それが俺の役割だ」
呟きながら、手をキーボードに置く。指先の温度が金属に伝わる。曽祖父や核融合炉の開発者が遺した足跡を継ぐ。
Enterキーを押す。カチッという音が静寂を破る。画面にコードが流れ始めた瞬間、息がゆっくりと抜けた。
「この世界がどれほど俺に都合が良くても」
独り言が漏れる。顎に力を込めた。
「だったら、使い切ってやる。未来のために」
夜空に星が瞬く。窓ガラスに映る自分の顔が、妙に大人びて見えた。
転生者としての考察は尽きない。でも、今は前に進むしかない。
「歴史を変える力があるなら」
声に出してみる。喉仏が上下した。
「俺もその一人として、責任を果たす」
PCに目を戻す。無名權波が俺のAIを狙ってる。鼻から息を吸い込む。冷たい空気が肺を満たした。
「あいつの動きを止めなきゃ、未来なんて守れない」
マウスを握る。掌に汗が滲んだ。クリック音が部屋に響く。
コードが流れ、思考が形になり始める。部屋の静寂が決意を包み、風が窓を叩く音が背中を押す。
不意に、玲奈の声が頭に響いた。
『お兄様なら、きっとできます』
鼻の奥が、じんわりと熱くなる。まぶたが潤む。
「そうだな、玲奈。お前や美樹さんを守るためにも、負けられない」
キーボードを叩く音がリズムを刻む。小指が震えた。転生者だろうが何だろうが、技術で未来を切り開く。
「それが俺の戦いだ」
画面に映るコードが、決意を静かに受け止める。プログラムが形になっていく。
夜の風が窓を叩き、ガラスが軋んだ。背中を押すように唸る風の中に、無名權波の影が潜んでる気がしてならない。
「奴の次の手は何だ?」
呟きながら、額の汗を拭う。袖が湿った。転生の謎が解けなくても、俺は立ち向かうしかない。
時計を見る。朝が近い。針の音が耳に響いた。
「執事が予定表を持って来る前に、このプログラムを仕上げなければ」
廊下から足音が聞こえ始めた。メイドたちが朝の準備を始めたらしい。食器の触れ合う音が微かに届く。
星空の下、瞳に力を込める。まぶたがピクリと動いた。転生者としての宿命を背負い、俺は未来を創る道を選んだ。
……これが、俺の出した答えだ
指先に、改めて力を込めた。爪が白くなるまで、キーを押し込む。
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※1 量子コンピューター:量子力学の原理を利用して計算を行うコンピュータ。従来のコンピュータでは不可能な超高速計算が可能になると期待される
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