第14話 美樹さんとの横浜デート
週末、横浜デートの日がやってきた。
前回の秋葉原デートのお返しに、今度は美樹さんがプランを立ててくれたのだ。
ランドマークタワー、日本丸、赤レンガ倉庫、そして観覧車――
「今日は思いっきり楽しみましょうね、義之君」
美樹さんの明るい笑顔に、俺は自然と彼女の手を握り返す。
彼女の隣を歩くだけで、周囲からの視線が集まるのを感じるが、慣れない俺に比べ、美樹さんは平然としている。
肩に力が入る。もっとしっかりしないと。
最初の目的地はランドマークタワー。
横浜のシンボルとも言えるこの建物の展望台からは、関東一帯を一望できる。
エレベーターで一気に展望台まで駆け上がり、窓の外に広がる景色を見下ろした。
「すごい……ここから見る景色って、まるで絵画みたいだな」
俺が感嘆の声を漏らすと、美樹さんは微笑みながら頷いた。
「本当に綺麗ね。あ、義之君、あそこが赤レンガ倉庫よ」
彼女が指差す先には、次の目的地が小さく見えている。地上とは違う高さから眺める景色に、二人でしばらく見惚れていた。
「義之君、こうして景色を見ると、なんだか時間が止まったみたいに感じない?」
「そうだな……でも、美樹さんと一緒なら、どこでも特別に感じるよ」
少し気恥ずかしいセリフを口にすると、美樹さんは小さく笑い、頬を赤らめていた。
俺の耳まで熱くなった。言ってしまった。でも、本心だし。
次に訪れたのは、日本丸。美しく保存された帆船は、近くで見るとその迫力に圧倒される。
「これが帆船……すごい迫力だな」
「義之君、こういう歴史的なもの、好きでしょ?」
彼女の言葉に、俺は素直に頷いた。
船内を見学する間、美樹さんは真剣に解説を聞きながらも、俺と意見を交わすのを楽しんでいるようだった。
「この船がかつて航海に使われていたなんて、信じられないよな」
「そうね。でも、当時の人たちの努力と思いが詰まっているのよね」
歴史に触れる時間は、二人の会話をさらに深めてくれる。
お互いの知識や感じ方を共有する中で、胸の奥がじんわりと温かくなった。
赤レンガ倉庫は、横浜らしいレトロな雰囲気を楽しめる場所だった。
レンガ造りの建物が並ぶ中、俺たちは雑貨店を巡ったり、スイーツショップに立ち寄ったりした。
「義之君、これ可愛いわね」
美樹さんが手に取ったのは、赤レンガ倉庫限定の小さな雑貨だった。俺はそれを見て、小さく笑みを浮かべた。
「美樹さんらしいな。それ、買って行こうか?」
「そうね、記念になるわ」
さらに、カフェに立ち寄り、横浜名物のスイーツを楽しむことにした。
俺が頼んだプリンパフェを美樹さんが一口食べて、驚いたような顔をする。
「これ、美味しいわね!」
「だろ?美樹さんも好きそうだと思ったんだ」
「さすが義之君、私の好みをわかってるわね」
そんな軽い会話が、自然と二人の笑顔を引き出す。穏やかな時間だった。
赤レンガ倉庫での穏やかな時間を楽しんだ後、美樹さんがふと振り返りながら言った。
「義之君、観覧車に乗りましょう。夜景がきっと綺麗だと思うの」
その提案に頷き、俺たちはコスモワールドの大観覧車へと向かった。
夕暮れが夜へと移り変わる空の下、ライトアップされた観覧車はまるで夜空に浮かぶ宝石のようだった。
***
観覧車のゴンドラに乗り込み、ゆっくりと高度を上げていく。
外の景色は徐々に広がり、横浜の街並みが宝石箱のように輝いて見えた。
「すごい……こんな景色、初めてだよ」
俺が感嘆の声を漏らすと、美樹さんは微笑みながら俺の横顔を見つめていた。
「義之君、こうして夜景を見るの、すごく幸せだわ」
彼女の声には、どこか照れくささと真剣さが混じっていた。観覧車の中という二人きりの空間は、妙に親密さを感じさせる。
心臓が肋骨を叩く。美樹さんに聞こえてないだろうか。
ゴンドラが頂上に近づくころ、ゴンドラが揺れる音と一緒に美樹さんがふいに俺の方へと体を寄せてきた。その動きに、俺の全身が固まった。
「義之君、ずっと伝えたかったことがあるの」
「……え?」
彼女の真剣な瞳が俺を見つめている。
その距離はいつもよりも近く、喉がカラカラに乾いた。
「あなたと一緒にいると、いつも安心するの。だけどね……こうして二人きりになると、それだけじゃなくて……もっと特別な気持ちになるの」
「特別な……気持ち?」
俺の声は上ずり、視線は彼女から逸らせない。
美樹さんは恥ずかしそうに頷きながら、さらに顔を近づけてきた。
「だから、義之君……これ、受け取ってくれる?」
心臓が跳ねた。美樹さんの顔がこんなに近い。
どうすればいい? 俺は――
その言葉とともに、美樹さんの顔がさらに近づく。彼女が目を伏せる。
俺は何も言えずに、ただ息を呑んでその瞬間を迎えた。
彼女の唇がそっと俺の唇に触れる。その感触は柔らかく、温かかった。
観覧車の頂上で、静かな横浜の夜景が二人を包む中、時間が止まったような感覚に陥った。
頭の中が真っ白になる。指先に電流が走った。
やがて美樹さんが顔を離し、恥ずかしそうに微笑む。
「……これで、私の気持ち、ちゃんと伝わったかしら?」
俺は胸の鼓動を抑えられず、言葉を探しながら小さく頷いた。
「……ああ、伝わったよ。本当に……ありがとう、美樹さん」
観覧車が再びゆっくりと降り始める中、俺たちは無言のまま手を繋いだ。
その手の温もりが、掌全体に広がっていく。
観覧車を降りた後も、美樹さんとの距離感が少しだけ変わったのを感じた。
胸の奥で、何かが軋んだ。嬉しさと、責任感と。
これからは、もっと美樹さんを大切にしないと。
「今日は本当に素敵な一日だったわ。義之君、ありがとう」
「俺の方こそ……ありがとう、美樹さん」
美樹さんの手を握りながら、俺は思った。これからも彼女と一緒に、特別な瞬間を積み重ねていきたいと。
横浜の夜風が、頬を撫でていく。
デートを終えて夕方になり、桜木町駅まで戻る道すがら、美樹さんがふと呟いた。
「今日は本当に楽しかったわ。義之君、ありがとう」
「俺も楽しかったよ。美樹さんと一緒だったからこそだな」
美樹さんの微笑みに、胸の奥がまた温かくなる。
この日が、二人の関係にとってまた一つ大切な思い出になったのは間違いない。
横浜の夜景を見上げながら、俺はまた美樹さんと一緒に新しい場所を訪れたいと心から思った。
……次は、もっと自然に想いを伝えられたらいい
肺に深く息を吸い込む。美樹さんの香りが、まだ鼻腔に残っていた。
ネットコン13挑戦中。締め切りは7/23 23:59まで。
最後まで全力で駆け抜けます。
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