閑話 美樹と義之:現代の治安とちょっとしたお茶会
夕暮れの上杉家屋敷、俺は美樹さんと一室でテーブルを挟んで座っていた。
窓の外では秋葉原のネオンが点き始め、遠くでメイド部隊の訓練の掛け声が響く。
部屋の中ではティーポットの湯気が揺れ、クッキーの甘い香りが漂う。
美樹さんがティーカップを手に持つ姿が、夕陽に照らされて穏やかに映えた。
彼女の瞳が俺を捉え、静かな時間が流れる――はずが、彼女が突然切り出した話題で空気が変わった。
「義之君、日本の治安ってどう思う?」
美樹さんがクッキーを手にいたずらっぽく笑う。俺はお茶を一口飲んで、湯気の熱が喉を温めるのを感じながら答えた。
「昔より複雑ですね。PMCが合法化されて、華族や財閥の警護が増えている。融合炉やデータセンターが大きすぎて、警察じゃ追いつかないですよ」
彼女がクッキーをかじり、くすりと笑う。「確かにね」と頷き、俺を見つめた。お茶の渋みが舌に残り、肩の力が抜けていく。
「PMCって民間軍事会社でしょ? 戦争はダメでも守るのはOKってやつ。義之君、どう思う?」
彼女が首を傾げて聞いてくる。俺はお茶を置いて、ティーカップの縁に指を滑らせた。木のテーブルの冷たさが掌に伝わり、考えを整理する。
「必要だとは思いますよ。警察や軍の人手じゃ足りないし、即応力が高いのは魅力です。ただ――」
「ただ?」
彼女が目を輝かせて身を乗り出す。俺は苦笑し、窓の外を見た。ネオンの光がガラスに反射していた。
「コストが気になりますね。高額すぎて、華族や大企業しか使えない。庶民には縁遠いですよ」
「ふふ、そうよね。まるで華族の特権みたい。上杉家も使ってるんでしょ? 武装メイド部隊とか」
美樹さんが笑いながら言う。俺は頷き、クッキーを手に取った。サクッと音が響き、甘さが口に広がる。
「ええ、曽祖父のアイデアなんです。婦女子の護衛に最適だって。武道や体力に自信のある女性には人気で、就職希望1位らしいですよ」
「就職希望1位!? すごいじゃない。上杉家のメイド部隊って、他の華族より強いんじゃない?」
彼女がクッキーを手に持って聞く。俺は少し微笑み、ティーポットを手に持つ。湯気が立ち上り、暖かい感触が掌に伝わる。
「そうですね。訓練が厳しいし、装備も最新ですから。PMCと連携できるレベルですよ」
「へえ、頼もしいわね。でも、コストが問題なら、上杉家はどうしてるの?」
美樹さんが核心をついてくる。俺はティーカップに茶を注ぎながら答えた。琥珀色の液体が注がれ、彼女の視線が俺を追う。
「うちは秋葉原の開発資金と調整してるんです。グループの利益を警備に回して、なんとかバランスを取ってますね」
「で、PMCって法的にどこまでOKなの? 勝手に動いたらどうなるの?」
彼女が目を細めて聞いてくる。俺はお茶を一口飲んで、湯気の熱が喉を温めるのを感じた。
「日本じゃ国内での武力行使は禁止です。海外でも契約先政府の指示がないとダメですよ。戦争行為は国際法違反になるんで、あくまで『守る』が基本ですね」
「ふーん、傭兵とは違うのね。でも、グレーな部分もあるんじゃない?」
美樹さんが意地悪そうな笑みを浮かべる。俺は苦笑し、クッキーを手に持つ。サクッと音が響き、甘さが口に広がった。
「そうですね。法的な監視や透明性が足りないんです。PMCが暴走したら誰が責任を取るのかって話になりますし」
「確かにね。コストも透明性も大事だけど、即応力と信頼性はすごいよね。義之君、PMCの護衛員ってどんな人たち?」
美樹さんが興味津々に聞いてくる。俺はティーカップを手に持つ。カップの熱が掌に伝わり、考えを整理した。
「警察や軍のOBが多いですね。護身術、銃器の扱い、心理テストも厳しいです。セカンドキャリアに最適なんだそうですよ」
「へえ、プロね。でも、質がバラバラにならない? PMCが増えすぎるとさ」
美樹さんが目を細める。俺は頷き、お茶を一口飲んだ。湯気の熱が喉を温め、背筋が自然と伸びる。
「そうですね。全部が上杉家レベルじゃないんで、質を保つ仕組みが必要だと思いますよ」
「ふーん、義之君って真面目よね。未来の治安、どうなると思う?」
美樹さんがクッキーを置いて、真剣に聞いてくる。俺はお茶を飲み干し、カップをテーブルに置いた。木の感触が掌に残る。
「PMCが柱になるんじゃないですかね。……いや、規制と監視が強化されないと、逆に不安定になるかも。法整備が追いつくかが大事だと思います」
「華族の安全と国民の安心、両立させなきゃいけないんだ。でも、上杉家のメイド部隊がいるなら、私、安心かも」
美樹さんが笑う。俺は照れて、ティーポットを手に持つ。湯気が立ち上り、暖かい感触が掌に伝わる。
「そう言ってくれると嬉しいですけど、メイド部隊に頼りすぎると、俺が怠けちゃうんで気をつけないと」
「そう思いたいけど、ちゃんと見張ってるからね。ねえ、お茶のおかわりないの?」
美樹さんが空のティーカップを手に持って笑う。俺は慌てて立ち上がり、ティーポットに手を伸ばした。お茶の香りが部屋に広がり、彼女の笑顔が俺を包む。
「あ、すみませんでした! 今淹れますね」
「ありがとう。でも、義之君のお茶より、メイド部隊のお茶の方がおいしいかもね?」
美樹さんが愉快そうに笑う。俺は笑って、ティーポットからお茶を注いだ。カップに注がれる音が響き、湯気が揺れる。
「それは負けられませんね。頑張って淹れますよ」
「ふふ、冗談よ。義之君のお茶で十分だわ。でも、PMCのお話、もっと聞きたいな。未来の治安、私たちで良くしていけるよね?」
美樹さんが真剣な目で見てくる。俺は頷き、ティーカップを彼女に渡した。お茶の熱が掌に残り、彼女の笑顔が俺を支えた。
「ええ、美樹さんと一緒ならできると思いますよ。PMCもメイド部隊も、ちゃんと使えばいい方向に持っていけるでしょうし」
「そうよね。じゃ、次はお茶じゃなくて、私がクッキー焼いてくる番かしら」
美樹さんが立ち上がり、笑顔を向ける。俺は「え、本当ですか? 楽しみにしてますよ」と笑った。彼女の笑い声が部屋に響き、夕陽が窓を赤く染める。
「義之君が『AIで未来を守る』って話すのを聞いて、私も士官学校で頑張ろうって思う。お茶の時間だって、私たちの絆を強くする一歩だよね」
「美樹さんがいてくれるなら、俺も頑張れるんですよね」
彼女が振り返り、「何!? 聞こえたわよ!」と笑う。俺は「何でもないですよ!」と誤魔化し、ティーカップを手に持つ。
秋葉原の夜が、少しだけ明るく感じた。彼女の笑顔が、俺の未来を照らす。
ネットコン13挑戦中。締め切りは7/23 23:59まで。
最後まで全力で駆け抜けます。
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