表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/122

閑話 玲奈視点:砂浜の危機と救出

 点呼前の早朝。横須賀基地近郊の海岸。夜の海風が砂浜を吹き抜け、潮の香りが漂う。鼻腔に、塩気が張り付く。

 玲奈、洋子さん、真田さん、下山さんは岩陰に身を隠し、不審船の動きを監視していた。

 岩が、背中に冷たい。震えが、止まらない。

 なぜ先輩たちがここまで協力してくれるのか。その疑問を口にすると、真田先輩が静かに答えた。

「実は過去に不審船を見逃して後悔したことがある。今度は絶対に見逃さない」

 声が、震えていた。後悔が、滲んでいる。

 下山先輩も淡々と告げる。

「情報分析が得意なのは、家族がスパイ事件で失踪したから」

 沈黙が流れた。

 空気が、重くなる。肺が、縮む。

「だから、こちらにも個人的事情があるから人事と思えなくてね」

 真田先輩の声に、かすかな震えがあった。

「だから玲奈も洋子も余計な心配しなくていいよ」

 下山先輩がフォローしてくれた。でも、その声も震えている。

 心の中で感謝する。皆、それぞれの理由でここにいる。

 そして皆、怖がっている。

 双眼鏡に映る黒い船影が、基地の方角へ近づく。

 手が、震える。レンズが、ぶれる。

「お兄様の実験機を狙ってる……!」

 声が震える。喉が、詰まる。

 洋子さんがポテチの袋を握り潰し、

「軍港のすぐ近くでこんな動き、おかしいよ」

 と呟く。パリパリという音が、異様に大きく響く。

 真田さんが冷静に、

「船が監視カメラを避けてる。玲奈の勘、当たってる」

 と頷く。でも、その顔が青ざめている。

 突然、岩陰の向こうから物音。

 カサッ、という擦れ音。

 心臓が、止まりそうになった。

 四人は息を潜める。肺が、空気を求めて叫んでいる。

 黒服の男たちが懐中電灯を抑えて近づく。無線機から声が漏れる。

「実験機の制御を乗っ取れ。あと5分で信号を――」

 心臓が跳ねる。

 血管が、破裂しそうだ。

 お兄様が危ない!――叫びそうになるのを、洋子さんが腕を掴んで止める。

 爪が、肉に食い込む。痛い。でも、ありがたい。

 その時、男たちが気配に気づく。

「誰かいるぞ!」

 銃を構える音。

 金属が、擦れる音。死の音だ。

 パン! パン!

 銃声が砂浜に跳ねる。

 鼓膜が、破れそうだ。

 弾丸が岩を削り、破片が飛び散る。破片が、頬を掠める。熱い。血が、流れた。

 悲鳴が喉を突いて出た。声帯が、震える。

 真田さんが素早く庇い、

「下がって!」

 と叫ぶ。彼女の体が、盾になる。

 閃光弾が目を焼く。

 網膜が、真っ白になる。涙が、溢れる。

 ズガンッ!

 炸裂音。砂塵が舞い、視界が奪われる。

 肺に、砂が入る。咳が、止まらない。


***


 洋子さんが「何!? 派手すぎ!」と叫び、下山さんが「逃げなきゃ!」と手を握る。

 手が、冷たい。震えている。みんな、怖いんだ。

 だが、男たちが一斉に動き、銃撃が続く。

 死が、すぐそこにある。

 そこへ、北園先輩が駆けつける。訓練で鍛えた足取りで岩陰に飛び込み、私たちを背に立つ。

「俺が時間を稼ぐ! 左へ逃げろ!」

 北園先輩が叫び、徒手空拳で敵へ向かう。

「上杉に玲奈さんたちを返すまで死ねねえ!」

 汗を飛ばして吠えた。

 額に、血管が浮かんでいる。

「北園君! なんでここに!?」

 洋子さんが叫ぶ。

「バカ! 妹が夜中にコソコソ出て行くのを見過ごすわけねーだろ!」

 兄の、愛だ。

 パン!

 男の一人が膝を押さえ倒れる。だが、敵は訓練された動きで反撃。銃声が響き、北園先輩が岩に身を隠す。

 肩から、血が滲んでいる。かすったのか。

「くそっ、手強い!」

 空から轟音が響く。

 腹の底まで、振動が伝わる。

 実験機が不自然な軌道で旋回し、不審船の上空に急接近。敵の無線が混乱する。

「実験機がこっちに――制御が効かないぞ!」

 お兄様の偽装データが効果を発揮し、敵がパニックに陥る。その隙に、SDF特殊部隊が展開。麻痺弾が飛び交い、敵が次々と倒れる。北園先輩が「今だ!」と叫び、私たちを左へ導く。

 通信機から声が響く。

「玲奈、真田さん、下山さん、洋子さん、今だ! 岩の裏から左に逃げろ!」

 その声に、涙が溢れた。

「お兄様!?」

 叫び、四人は走り出す。足が、もつれる。砂が、重い。

 敵の銃撃が背後で鳴るが、北園先輩とSDFが盾となり、私たちを逃がす。SDFが不審船の通信を遮断し、お兄様の逆探知が成功。田中の声が響く。

「空母の位置を特定した! SDFが制圧に向かう!」

 夜明け前、海岸は静寂に包まれた。

 敵は拘束され、不審船は撤退。

 足が、震えて立てない。

 SDFに保護され、お兄様の元へ駆け寄る。

「お兄様、無事でよかった!」

 涙目で抱きつく。体温が、伝わる。生きてる。お兄様も、私も。

 洋子さんが「派手すぎだよ!」と笑い、真田さんが「無茶しないでね」と息をつく。

 でも、みんな震えている。

 下山さんが録音を渡し、

「役に立つよ」

 と微笑む。手が、震えていた。

 北園先輩が汗を拭い、

「お前ら、無事でよかった」

 と呟く。肩の傷を、隠している。


***


 朝陽が水平線を染める。

 光が、網膜を刺す。でも、温かい。

 お兄様は私たちを見回し、静かに笑う。

「巻き込んで悪い。でも、お前たちがいてくれたおかげだ。ありがとう」

 顔が熱くなる。頬が、燃えるようだ。

「別に……!」

 そっぽを向く。でも、涙が止まらない。

 洋子さんが「わかりやすっ」と小声で呟き、北園先輩が笑う。

 でも、その笑顔が引きつっている。

 朝の光が五人の影を長く伸ばす。

 でも――これで終わりじゃない。

 胸の奥で、不安が蠢く。

 海面に残る不審船の航跡が、まだ何かを語りかけているような気がした。

 握りしめた拳に、砂がざらりと零れる。

 手のひらに、爪の跡が残っている。血が、滲んでいる。

 戦いの記憶と、守れた安堵と、これから来る何かへの不安が混じり合う。

「お兄様」

 小さく呟く。声が、震える。

 振り返ったお兄様の瞳に、同じ決意が宿っているのを見た。

 でも、お兄様の手も震えていた。

 新たな戦いへの覚悟が、朝焼けの中で静かに灯った。

 波が砂浜に寄せては返す。

 その音が、まるで時を刻む鼓動のように聞こえた。

 いや、私の心臓の音かもしれない。

 まだ、震えが止まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ