閑話 玲奈視点:不穏な音と仲間との絆
洋子と一緒に寮に戻った私は、スマホで録音データを確認しながらベッドに腰かけた。
「南中国空母への着艦準備を急げ」
「奴の技術を確保できれば」――男たちの声が頭の中で反響し、胸が締め付けられる。お兄様がそんな陰謀に巻き込まれてるなんて、信じたくない。でも、不審船と無線機の声は偶然じゃない。お兄様のAI技術が狙われてるんだ。
「玲奈、大丈夫? 顔、青いよ」
洋子が隣に座って、心配そうに覗き込む。私は無理やり笑って、
「うん、平気……でも、お兄様が心配で」
と答えた。彼女は頷いて、
「あの男たち、ヤバそうだったね。録音だけじゃ弱いよね」
と呟く。私も
「うん、もっと証拠が欲しい。真田先輩に相談する前に、確実なものを」
と返す。 その時、窓の外から不穏な音がした。ガリッ……という、金属が擦れるような低くて鋭い音。さっきの「ピリッ」とは違う、重い響き。私は飛び起きてカーテンを開けた。「まただ!」と呟くと、洋子も「何!? またアイツら!?」と驚く。夜の海は暗く、不審船の灯りが遠くに瞬いてる。でも、この音は近く――校舎の裏手だ。
「お兄様なら、どうするかな……」
私は深呼吸して心を落ち着けた。お兄様なら冷静に状況を見て、次の一手を打つ。私だって、お兄様の背中を追いかけてるんだから、怖気づいてられない。「洋子、もう一度見に行こう」と言うと、彼女は一瞬驚いたけど、「玲奈がそう言うなら付き合うよ!」と気合を入れた。
私たちは静かに寮を抜け、校舎の裏手へ向かった。冷たい海風が頬を叩き、潮の匂いが鼻をつく。録音した男たちの声が頭を離れない。「実験機の信号は安定してるが、ノイズの影響が――」。不審船がまだ近くにいるなら、何か動きがあるはず。私はスマホを握り、録音アプリをスタンバイした。
校舎の裏に近づくと、またあの音が――ガリッ……ガリッ……。金属が地面に擦れる重い響きが聞こえる。「あそこ!」と洋子が小声で指さす。私たちは壁に身を寄せて覗いた。そこには黒い箱のような機械が地面を動いてた。赤いランプが点滅し、校舎の壁をなぞってる。「何!?」私は息を呑んだ。男たちの無線機とは違うけど、明らかに怪しい。
「玲奈、どうする?」洋子が囁く。私は迷った。お兄様なら証拠を確保する。でも、私たちには装備がない。「録音だけじゃ弱い。写真が欲しい」と言うと、洋子が「私が撮るよ!」とスマホを構えた。シャッターを切ろうとした瞬間、機械がこっちを向いて赤い光が強くなった。「まずい!」私は洋子を引っ張って影に隠れた。心臓がバクバクする。機械がガリガリと近づいてきたけど、私たちを見失ったのか、方向を変えて去った。
「何だったの!?」洋子が目を丸くする。私は息を整え、
「さっきの男たちと繋がってる。お兄様の実験機を監視してるんだ」
と答えた。お兄様の言葉が頭に響く。「不穏な兆しを見逃すな」。不審船が海にいて、こいつが陸で動いてる。お兄様の技術を奪う計画が迫ってる。
「真田先輩に相談しようって言ったけど、下山先輩にも頼みたい」
と私が言うと、洋子が
「うん、下山先輩なら情報分析が得意だよ!」
と目を輝かせた。私は頷いて、
「対番の先輩なら、私たちをちゃんと見てくれる」
と決めた。私たちは寮に戻り、真田先輩の部屋をノックした。
「玲奈? 洋子? こんな時間に何だ?」
真田先輩がドアを開けて驚く。私は事情を説明した。
「不審船と男たちを録音したんです。今、また変な機械が動いてて……」
と話すと、先輩は眉を寄せて、「妙だな。録音を聞かせてくれ」と冷静に言った。さすが対番の先輩だ。
録音を再生すると、「南中国空母への着艦準備を急げ」の声に真田先輩の目が鋭くなった。
「これはただごとじゃない。教官に報告するにも証拠が欲しいな」
と呟く。私は「写真を撮ろうとしたけど危なくて……」と言うと、「無理はするな。下山にも相談しよう。彼女なら何か分かる」と提案した。
私たちは下山先輩の部屋へ。「玲奈と洋子? 真田先輩まで?」と驚く下山先輩に、私は事情を話した。「機械の動きから何か分からないかと思って」と頼むと、彼女は「録音と状況を教えてくれれば、分析できるよ」と笑った。対番の先輩の頼もしさにホッとした。
談話室で真田先輩が「監視カメラをチェックしよう」と提案し、下山先輩が「機械の動きから目的を絞れる」と頷く。洋子が「玲奈ならできるよ!」と笑う。私は「お兄様なら冷静に解決するよね。私もそうなりたい」と呟いた。仲間がいる。この絆があれば、どんな謎だって解ける気がした。
「明日から本気で調べよう。不審船と機械、見逃さないよ」
私は二人を見て、決意を固めた。お兄様を守るため、私たちの冒険が動き出していた。




