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閑話 玲奈視点:玲奈と洋子の小休止

玲奈はベッドに寝転がり、天井を見つめながらため息をついた。


「お兄様、大丈夫かな……美樹さんが公務で会いに来たって聞いたけど、何だったんだろう」


士官学校の寮にいるとはいえ、情報の流れは早い。義之が美樹と会ったことは知っていたが、具体的な内容は伝わってこなかった。美樹が士官学校を卒業してから、直接会う機会は少なくなったが、義之とは何かと関わりがある。それが「公務」という言葉で表されるあたり、ただの世間話ではないことは明白だった。


窓の外から微かに聞こえる実験機の飛行音が、耳に残る。不意に違和感を覚え、玲奈は眉をひそめた。いつもと何かが違う……。


「……気のせい?」


軽く首を振り、考えすぎかもしれないと自分に言い聞かせる。しかし、胸の奥に広がる不安は消えなかった。


その時、ドアが勢いよく開く音が響いた。


「おーい、玲奈! またお兄様の心配? 重症だね~」


洋子の陽気な声が部屋に響く。手にはスナック菓子が握られており、それをポイッと玲奈に投げてくる。


「洋子だって心配してるくせに!」


玲奈は無意識にキャッチし、すかさず反撃しつつ、一口かじる。カリッとした食感と、程よい塩気が口の中に広がる。ほんの少しだけ、心の緊張がほぐれた気がした。


「心配? まあね、でもあの人、どうせまた何か大げさなことやってるんでしょ?」


洋子は自分のベッドにどかっと座り、気楽そうにスナックを開ける。


「美樹さんがわざわざ公務で会いに来たってことは、何か大きな話があったんじゃないかな」


玲奈はスナックの袋を見つめながら呟いた。いつも通りの会話のはずなのに、ふと胸がざわつく。


「まあ、あのお兄様なら何とかするんじゃない? 玲奈も、たまには自分のこと考えたら?」


洋子の言葉に、玲奈は小さく笑った。


「そうだね……」


そう答えながらも、窓の外を見つめる。実験機の飛行音はまだ耳に残っていた。


何かが変わろうとしている——そんな予感が、玲奈の胸を離れなかった。


「お菓子泥棒のお兄様、逮捕されればいいのに」


洋子がポテチをつまみながら、楽しそうに言う。軽口を叩くのが彼女の癖だ。玲奈はムッとした顔をしつつ、すぐに思い出したように笑いながら反論した。


「昔さ、私の弁当食べたことあったの。許さないから!」


「あ、それ知ってる。玲奈が朝から楽しみにしてた卵焼きを一瞬で消された話でしょ?」


「そうそう! しかも『味見してやった』とか言ってたのよ!」


玲奈は憤慨した様子で言いながらも、笑みを抑えきれない。あの時は本気で怒ったが、今となっては懐かしい思い出だ。


「義之先輩って、昔からそういうとこあるよね」


洋子は笑いながらポテチをもう一枚口に運ぶ。玲奈も頷き、ふと窓の外を眺めた。夜の闇の中に微かに光る点が見える。実験機の航行灯だろうか。


「でもさ、最近、海の近くで変な船見なかった? 海保がうるさいんだよね」


唐突に洋子が話題を変えた。玲奈は一瞬考え込み、ゆっくりと答える。


「……不審船?」


「うん。訓練の合間にちらっと見ただけだけど、妙に海保が警戒してたからさ」


「それ、お兄様に関係あるのかな……実験機と関係あるのかな?美樹さんが何か言ってたのかも」


玲奈の声がわずかに沈む。美樹が義之と公務で会ったという話を思い出し、胸の奥に小さな不安が広がる。


「さあね? でも、お兄様ならまた何か面倒なことに巻き込まれてる気がするけど」


洋子はそう言いながら、無邪気にポテチをかじる。玲奈は苦笑しながらも、違和感を拭えなかった。


「それに……」


「ん?」


「最近、あの実験機の音、変じゃない?」

「チカチカ光るって電子機器が干渉するような、微かに耳鳴りを引き起こす音する気がするの」


玲奈は窓の外をじっと見つめる。かすかに聞こえるエンジン音に、違和感を覚えていた。どこか不安定な響きが混じっている。


「うん、ピリッて電気が走るみたいで気持ち悪い」


洋子も同じものを感じていたらしい。まるで静電気が肌に触れるような、嫌な違和感が伴う音。


玲奈はそっと窓枠に手をついた。何かが起きている。それが何なのかはまだ分からない。でも――


「お兄様は、大丈夫だよね……?」


玲奈の呟きは、夜の静寂に溶け込んでいった。


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