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「……お前、話せるのか?」

「―――――」


 答えているのだろうか……? それなりの知能はあるのか?


「……名前は?」

「―――――ガラル―」


 【ガラル】、そう聞こえた。


「ガラルというのか、なるほど」


 落ち着いて見せていたが内心驚きを隠せない。

 死神以外の魔物や魔獣と初めて、意思の疎通ができている気がする。

 この魔物は、人の言葉を話せないけれどもしかしたら人の言葉がわかるのかもしれない。


「火炎爪の魔獣ガラル、俺の名前はオルトスだ」


 視線がこちらをしっかり捉え反応を示している。

 魔獣が言語を確実に理解していることはその様子から分かる。


「――――――!」

「俺は近くの神聖城下国カラバにいる王の命令でここにきた。もし君がこれ以上人や、街に危害を加えないというのなら。俺はここから去ろう。どうだ!?」


「――――! ――――っ!」


 グルルと興奮し、熱気と共に強くガラルは何かを訴えかける。

 強く熱気と共に、頭を下げたこちらの視線には敵意が感じられた。


 ダメなのか……いや、元々そのつもりだ。

 お互いに居場所を守りたいんだ。なら戦うしかない。


「そうか、生きるためだからな。ならガラル。戦士として全身全霊で貴様を討ちとろう!」

「―――――!! ――――!」


 そのうめき声と共に俺はまた動き出した。

 足元にあった拳くらいのサイズの石をしきりに掴み投げつける。


「――――――っ!」


 右にステップ、それを俺は逃さなかった。

 死んでたまるか、死ぬなら家族に囲まれて死ぬ。


 まだカイルには教えてないことがいっぱいある。

 強くなると言ったんだ。剣の使い方、体の使い方、まだ教えたい。


 カイルと、ライネルと、ギリギリまで一緒に過ごしたい。


「なかなかやるじゃないか」


 死神はきっとなにかの催しを楽しむかのような感覚なのだろう。

 だがこれは家族を守るための殺し合いなのだ。

 そんな能天気な彼女の声を聞くとそう強く自分の心の奥底の意志が確固たるものとなる。


 しかしその時、一瞬だけ空気が弛緩した。


「きゅう~」


 甘い犬のようの鳴き声が聞こえたその瞬間、ガラルに隙ができたことを認識した。

 この魔獣の声ではない、意識が背後の鳴き声へ向いている……!


 その鳴き声の正体を探るよりも先に弛緩した緊張を一瞬で締め直し、このチャンスを逃さないように攻撃をつなげる。


「喰らえっ」


 俺は全力で地面蹴って飛び上がり上から剣を投げつける

 まっすぐガラルの脳を一直線で貫け……!

「貴様が意識をこちらから逸らすとはな!」

「ーーーー」


「きゅぅ~、きゅう」


 その声の正体は空中で飛んで剣を投げつけた瞬間に見える。


「あれは……子供……? 奥に匿っていたのか」


 甘い犬のような鳴き声の主はあまりにも小さく、ひ弱なものだった。

 ガラルの意識はまだ後ろに張り付いている。


「なるほど、だからその奥へ行かせないように立ち塞がったんだな!」


 その声の主、灰色の毛並みの小さな狼にガラルの意識は向けられていた。

 俺がそうやって声をかけて初めてガラルは攻撃に気づく。


「―――――っ!」


 時間にすればほんのわずかかもしれないが、遅れたことが致命傷になるだろう。

 何かがある。そう踏んだが正解だったようだ。


「避けられないだろう! 後ろの子供に気を配って戦っていたとは舐めてくれたものだ!」


 避けてみろ、背中の子供に突き刺さる。そういう風に投げつけたんだ。

 俺も親だからこそ分かる。子供の大切さや愛しさが……

 そしてそれを守るための覚悟というものが。


 自分の身を犠牲にしてでも、子供を守りたいという気持ちが分かるんだ。

 ガラル……まっすぐ剣を受けるといい!


「――――――っ!!!!」


 勝ったとまでは思ってない。ただ少しでもダメージが入ればいいと思っていた。

 ただそんな戦略も一笑に伏すほど魔獣というのは規格外で恐ろしい。


 一度殺したくらいで次もやれるなどと考えるべきじゃなかった。

 カラバ城塞都市の王城に鎮座する国王はもちろん、俺もそんな甘い考えは捨てるべきだったかもしれない。


「――――――――――!」

「くっ!」


 咆哮一つで一気にものすごい熱風がこちらへ吹き荒ぶ。

 顔を腕で隠しながら見えた様子は信じられないものだ。


 ガラルの周りが真っ赤に染まったと思えば投げつけた剣が一瞬で消失した。

 なんと剣がその熱波で溶けてしまったのだ。


「ぐぅっ! 冗談だろ……っがぁ!」


 熱風に飛ばされて体が焼けそうになりながら壁に叩きつけられる。

 ガラルは想像を何倍も超える恐ろしい魔獣らしい。


 災害に匹敵する【魔獣】区分なんだそれが当たり前なのかもしれない。

 俺が倒した魔獣が弱すぎたのだ。


「炎……熱の膜か……」


 すぐさま立ち上がる。まだ温度が上がるというのか……っ!

 体が熱い、体温がどんどん上がっていくのを感じる。


 しかし毛が逆立ち、ガラルの燃え盛る熱を感じていると……。


「熱っ……くない?」


 圧倒的な力、圧倒的な熱量、それを感じてたと思ったら一瞬熱が止まった。

 するとすぐだ、視線を切ったつもりはない。

 しかし目の前にガラルはいなくなっていた。


「―――――!」


(っ!? 一瞬熱が消えて、集中が……!)


 体に感じる熱が一瞬止まり、一瞬の温度変化に適応するため体が無意識に気をそらした。

 その瞬間、体の左側が軽くなった。


「左腕……っ!」


 急に熱が戻ると同時に気づいた。


 腕がない。


 感覚もない。


 軽いパニックになったのか、何も考えられない。


 ガラルは想像の何倍も狡猾だった。


 熱を止めることによって、熱に対して張り詰めていた緊張を削ぎ一瞬で仕留めにかかったのだ。

 ただ、まだ生きている。なら気力まで奪われてはいけない……っ!


「ぐっ! 後ろか……っ!」


 視界にまたガラルを入れる……

 十歩ほどの距離にいる狼を睨みつける。ここで俺は魔獣を倒さなきゃいけない。


 死神に取り憑かれているとか、そんなものはもう頭にない。

 どうする? まずは腕だ。確認する。


 熱のこもった爪で腕を裂かれたからか肉が焼けたおかげで出血が抑えられている。


「ヒー……っぐ!」


 呪文を唱えようとした瞬間、腕を切り裂いたガラルはすでに目の前にいた。

 圧倒的なサイズの狼なのに異様な俊敏さを持っていて熱を感じたときの感覚と距離感が合わない。


 また一瞬で距離を……


「ぐあぁっ! ヒ、ヒー……っ!」


 また熱い! 早く呪文……口を開ける。その瞬間……!


「がぁ!」


 熱風が体に入り込んだ。

 喉が焼ける……肺が爛れる。体内の粘膜が干上がる。死ぬ……!


 今までは本気じゃなかったのか……子供を狙ったからか、本気でこちらの命を狙ってる


「ぎざ……ま……っ!」


 体に力が入らずその場にうずくまるように倒れこむ。



「おっ、終わったかな?」



 ちらりと金色の髪が視界に入る

 何よりも鮮明だった。


 死神はぼやけた視界の中でくっきりと映っている。

 辺りを見回す金色の髪の少女の姿が、はっきりと死ぬだと暗示している。


 力が抜け、後ろに倒れていく……体の焼ける痛さで倒れた衝撃すらも感じない


「何を笑っているかと思ったがそういうことか……ん? あぁ、まだ生きてるな? オルトス、これが結末だよ」


 彼女は別の方向見て何かを呟いたと思えばこちらを覗き込むと、顎に手を置いてどこかへ消えていこうとする。


「残念ながら君の負けだ」


 負け……死ぬ……?


 死んだらどうなる……


 家族は……? ライネルは、カイルは?


 この魔獣が、街を襲ったら……こんな痛い思いを彼女たちにさせるのか……?


 また……失う……?


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