表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/46

 暇だ。退屈だ。死んでしまいそう。壁と話しているようだ。


「だから運命は僕をコマ使いのように……おっ?」


 しかしながら無視するオルトスを尻目に喋り続けると気付かぬうちに森と隣接しているカラバという国に入っていた。


 大きな城を囲むように家や建物が連なっている。


 国というより都市だが……神聖城下国カラバと関所にあったから国らしい

 人間がたくさん湧いている。


 あ、あの人間はそのうち死ぬな。僕が取り憑いている。


「なにをキョロキョロしている」

「え? あぁいや? 別に気にしなくていいよ。僕は勝手に憑いていくから好き勝手に歩いてくれて構わないから」


「ふん」


 そういうとオルトスは鼻息荒く街を闊歩する。

 そんな彼に憑いてると一つ驚いたことがあった。


 ドワーフにも負けない筋肉質でヒゲ面で無愛想なオルトスは街で人気者のようだ。


 少なくとも人間基準で見てもオルトスは別に好かれるタイプではないはずだが、彼にはそれなりの魅力があるのだろう。

 それとも利用価値か? 相当な手練れで用心棒としてるとか


「はっはっは! ラルフ! ミリア! 大きくなったなぁ」


 いや、素直な人望か。

 子供には優しい顔をするものだね。


 ……ん? とはいえ僕の首にはすぐ手斧を押し付けてきたような。


「僕には斧を振るってよくそんな風にできるね」

「お前は不気味だったからな、それにしても子供の見た目で死神とは……」


「おじさん?」


 ボソリと呟いたオルトスに子供二人は訝しんだ目線を向けたが笑顔で誤魔化していた。


「オルトスさん」

「あぁ、ジャクソンさん」


 二人の子供を腕から降ろすと今度は老爺に話しかけられる。

 子供の次は老爺だ。老けている割に僕は取り憑いていないみたいだな。


 彼は杖をついて枯れ木のような見た目なのにまだまだ生きるのか。


 もしかしたら人間じゃない別種族なんじゃないかとか妄想してみたが、今ひとつ唆られなかったからやめにして話を聞く


「森は大丈夫でしたか?」

「えぇ、問題ありませんよ。魔物の群れはあらかた討伐しておきました」


 彼は僕を前に見せなかった笑顔をしている。


「いつも助かるよ。オルトスさんが来てくれてから魔物の被害がゼロだ。ここらへんの子供も安心して遊べる。城の衛兵だけじゃ本当に魔物がいないか多少心配だったが、誠実なオルトスさんなら安心できる」


 ふむ、人間に興味はないが、やっぱりこう言った構図は何度見ても面白い。

 あのジャクソンと呼ばれた老人は目の前のオルトスが近々死ぬとは考えてもいないだろう。しかしながらそれを意識することなく彼と接している。


 彼が死んだ時どんな反応をするのだろうか。

 「なぜ自分じゃなくてオルトスなのか」とでも言うのだろう。


 大抵の人間はそう言っていた


 そしてオルトスは頭の片隅に「自分が死ぬ」という事実を意識しながら目の前の老人と楽しく談笑している。

 死ぬのはオルトスなのに老人の身体を労る様子までみせている。


 きっとオルトスも「なんでこいつじゃなくて俺なんだ」とでも心では思っていそうだな。


 人間は長生きじゃない。長く生きても一〇〇年だ。

 人間自身もそれを自覚しているくせに、よっぽどのことがない限り、まさか身近な人間が死ぬなんて思ってない。


(気づいて! 目の前のオルトスは死んじゃうよ!)


 声を殺してケタケタと心で笑う。

 自分が死ぬと多少なり自覚のある男と、目の前の相手がそのうち死ぬなんて全く思ってない老人の会話。


 笑ってはみたもののこんな構図は今まで何度も見てきた光景な気がする。

 それをわざわざ覚えてるってことは人間が成長していない証拠でもあるな。


 いつまでもこんな構図を作っていつも通り死んでいるのだろう


 そして僕はそれを幾度となく心で笑ってきたんだろう。

 滑稽にもほどがあるな。そろそろ人間たちは死を身近に感じた方がいい。


 目の前の人間はいつ死ぬかわからないんだ。

 だからこそもっと……いや余計なお世話だな。別にどうなろうか知ったことじゃない


「あぁ、悪いね。お時間をとらせたかな?」

「いえ、元気そうでよかったです」


「それじゃあ、ライネルさんにもよろしくね」


 気づくことなく彼は去っていった。

 もしかしたらこれが最後の会話になるかもしれないというのに。


 不思議なことにああやって杖をつかなきゃ歩けないほど弱っている老爺よりもこの屈強な男の方が早く死ぬ。


 しかしわざわざ自分が死ぬことを匂わすなんてことはしない。

 彼の美学か心の奥では僕と言う死を信じていないのか。


 それとも「元気そうでよかった」が最後の会話としてふさわしいと判断したのか。

 それは分からない。しかしながら特に会話することなく歩き出す


「……聞かないの? あの人が死ぬかどうか」

「聞かなくても分かる。視線が動いてない、ということは近くに死神がいないんだろ?」


「むっ……とはいえあのお爺さんより屈強そうな君が早く死ぬなんて不条理で滑稽だね」

「ふっ、お前がどんなに嫌味を言おうとも俺はこの街の人が守れればそれでいいんだ。街の人が安心して暮らせれば、どこで死のうと構わん」


 僕の悔しそうな声を聞いて少し勝気にオルトスは言う。


「強気だね。君が死んだ後で街を襲う魔物に無惨に殺されるかもしれないのに」


「エスカ、貴様に死因は分からないのだろう? なら自分のできる限りのことをするだけでいい。街を襲う魔物がいるならその数や体力を削るとかな。死ぬと分かってるなら自分の命を天秤にかけなくていい分むしろ考えることが減って楽なくらいだ」


 嘘、吐き捨てるように言っているがそう思いたいだけ。

 オルトスはまた歩き出す。僕はその後ろ姿をのんびりと眺めながらついていく。


「それにしてもジャクソンさんはまだ健在なんだな。よかったさ」


 よかったのか? よくはないだろ。僕がそう思ってる反面オルトスは胸を撫で下ろした。


「最後の会話になるかもしれないのによかったのかい」

「あぁ、わざわざ言うことでもないしな。こんないつも通りの会話が少し貴重に感じる分取り憑かれるのも多少は悪くないと思っている」


 なんだこいつ。死の間際にまで善人ぶっているのは流石に気持ち悪いな。

 死ぬ前なんだから人を襲うとか犯すとかしてみろよ。正直もう見飽きてるけど。

 ただまぁ、この男が人望を得る理由はなんとなくわかった気がする


 僕はほんの少し興味が湧いてきた。


「別に、僕に関係ないし君が死ぬのは変わらないからね」


 しかしながらまぁそんなことは関係なく精一杯の負け惜しみを彼にぶつけてやる。


 それにそうだ。運命が決めた結末は変わらない


 この男、オルトスはどんなに人に好かれようと近いうちに死ぬんだ

 どんなに善人ぶろうが悪人ぶろうが変わらない。僕が取り憑いた相手はそうなるという運命のやつが決めた確定事項なんだ。


「……っっ」


 っとそんなことを思っていたらオルトスは顔をしかめてこちらを覗き込んだ


「どうかした?」

「こんな達観して見せてるようで子供と同じくらいの背丈なのだな」


「改めて立ち止まって言うこと?」


 僕のつむじの先からつま先までを眺める。そんな気になるか?


「僕の見た目は自由自在なんだよ。服装から体型、この刺青まで僕の趣味さ、かっこいいだろう?」

 

 ツヤツヤ金髪に金色の瞳と黒いローブから伸びる細い四肢に白くてキメの細かい肌。

 そんな肌をキャンパスのように右腕全体にイバラ、右目の下にキラキラと星屑の刺青を入れている。

 わざわざこういう見た目にしてるんだと僕は自慢の体を回転して見せつける。


「いや、死神らしく悪趣味だ」


 これが理解できないなんて悲しいセンスだ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ