第96話 鞭を手に入れた(謎のフラグ)
「桜花一閃!」
レイネの刀による攻撃がベビークラーケンを足ごと切り裂きその姿を泥へと変えた。
水着姿のリンネたちは三十階層のボス部屋でベビークラーケンを倒した。なぜ水着姿なのかというと夏に潜った小型ダンジョンと同じ特性ということで、普段の装備だと動きが阻害されうまく動けなかったために着替えたわけである。出てくる敵も海に関するものが多かった。
気がつけば夏季休暇も終盤に入っており、この夏の原初ダンジョンの探索は終わりを迎えようとしている。ちなみにあれ以降はあのミノタウロスとは遭遇していない。
「前に倒したベビークラーケンの時と違って触手を切ってもローションが吹き出さなくてよかったね」
「あの時のことを思いだすのでローションとか言わないでほしいですわ」
アカリとミレイがじゃれ合いながらリンネたちへと合流する。ここ三十階層のボスはベビークラーケンだったが、流石に一度倒していることや、今回のベビークラーケンは以前戦ったものとは違い触手を切ってもローションが出なかった。
それから前回はセットのように出てきたホーンホエールすら出なかったので、触手一本に一人が対応することでワルキューレやブリュンヒルドになることなく倒すことだできた。
リンネたちの実力が上がったこともあり原初ダンジョンの中では今のところワルキューレ化をしていなかった。
「水着で戦うのは最初は心許なかったけど、慣れるとこれはこれで身軽でいいかも」
「そうだな、自分も戦いやすかったかも知れない」
「……」
一年生の三人も全員が水着になっている。若干一名がスクール水着なのはお約束なのかも知れない。名札にはひらがなで、なるみと書かれている辺り確実に狙ってやっているとしか思えない。
「えっとこれはなにかな?」
「鞭、です?」
ベビークラーケンが泥になり、その中からアズサとライチがバラ鞭と呼ばれるものを拾い上げている。ご丁寧にクラーケンの足と触腕を合わせた十本の房を持つ鞭だった。
「なんだか嫌な予感がするのは俺だけだろうか……」
リンネがそう言って次の階層へつ続くゲートに視線を向けている。流石にないと思いたいが、自然と思い浮かぶ姿は二足歩行の牛の姿をしていたようだ。
「これどうしよう」
ライチが拾い上げたバラ鞭を適当に振り回しているが、特に威力がありそうには思えなかったが、一部特殊な趣味を持つものには良いのかも知れない。どう良いかはコメントを控えさせていただきたい。
「ライチ、それ少し見せてもらえないかな?」
サキナがライチから鞭を受取る。
「おーい、今日は帰るよー」
いつの間にかライチとサキナ以外は脱出用のゲートの前へと移動していたようだ。
「ちゃんと調べるのは戻ってからでいいか」
「ですね」
ライチとサキナは走ってリンネたちへと合流する。
「揃ったね、それじゃあ……、あっゲートを潜る前にみんな着替えないと」
「「「あっ!」」」
全員が水着姿だった所忘れていたようで、レイネが気が付かずそのまま帰還用のゲートをくぐっていたら大変なことになっていたかも知れない。脱出ゲートをくぐった先は始原ダンジョンの入口からほど近い場所というのが常だ。
つまりは水着姿の女子が集団で外に現れるということになる。というよりもそういった例がそこそこの頻度で起きている。起きているということはそれ目当てでこっそり盗撮まがいをするものもいたりするわけだ。
リンネたちは急いで普段ダンジョンに潜っている時の装備に着替える。収納のブレスレットのお陰で登録をしている装備なら一瞬で着替えられる事ができる。
「レイネが気がついてくれてよかった」
「本当にそうですわね」
「みんな大丈夫そうだな、それじゃあ戻ろうか」
リンネの合図に合わせて順番にゲートをくぐっていく。最後にリオンが辺りを見回してからゲートをくぐった。
◆
その日の夜、サキナはその日手に入れた鞭を観察している。サキナの見立てでは十本の房それぞれに何かギミックがある気がしていた。
「んー、駄目だわからない」
なにか隠された効果がある気がしているがどうしてもそれがなにかわからない。一本一本試しに引っ張ってみたものの何もなし、持ちての部分を強く握って振るったりなど色々としてみても何もわからなかった。
「これに隠されているものが分かればもっとみんなの役に立てそうなんだけどなー」
もう一度鞭を手にとり軽く振るってみる。
「ん?」
サキナは何か違和感を感じた。今度は先程よりも強く振るってみると鞭の一本がおかしな軌跡を描いた。サキナは庭に出ると試し切り用の藁束を用意してから、鞭が届かない位置まで離れて藁束に向かって思いっきり振るう。する鞭は届かないはずの藁束に当たった。
「これはもしかするとすごい拾い物かも知れない」
何度か試しに振るうことでわかったことはほぼ倍の距離まで鞭が伸びる、そして意識を集中することで十本中二本だけはある程度自在に操れるということだった。そして威力も申し分ないようだった。
サキナは今までこれといった武器は持ち合わせていなかった。自分で打った刀を腰にさしてはいるが、使いこなせているかと言うとそうではなかった。
「これは相談して譲って貰いたいね」
使ったことわかるこのピッタリフィット感がたまらなく感じた。そして手放したくない誰にもわたしたくない……とは思っていない、呪いの武器ではないのでそういうことはない。
もしこれをもっと使いこなせるのなら、今まで戦闘に参加出来なかった事に多少の後ろ目ただがあった。だがこの鞭を使えば自分でも十分戦うことが出来るのではないかと思っていた。





