第94話 五階層のボス
一階層はゴブリンシリーズ、二階層はコボルトシリーズだった。ゴブリンはボス部屋でもないのにゴブリンナイトが出てきたが、今のリンネたちの敵ではなかった。ただしはじめて遭遇することになったコボルトには若干戸惑いながら戦っていた。
「なんか微妙に戦いにくいんだけど」
「なんであんなにつぶらな瞳をしながら襲ってくるんだろう」
リンネとレイネが言うように、皆が戦いにくいと思っているようだ。鎧などをまとい手に短剣を持った二足歩行のチワワやポメラニアンが襲ってくるわけで、小さいことも相まって戦いにくいようだ。
「コボルトっていろんな犬種がいるんだね」
「そのようですわね、戦いにくいですわ」
相変わらず凶悪なメイスを持ったミレイとアカリもコボルトは戦いにくいようだ。
「なんだか弱いものいじめしているようでいやだね」
「……、です」
ライチやアズサもゴブリンのように見た目が醜悪ならためらいなく倒せるのにと言った感じだろう。
「動きが武人っぽいから僕は戦いやすいかな」
「自分も上位種はいい訓練相手になりそうです」
「……」
一年生組のナルミとヒビキは特にためらいなどがないあたり、リンネたちよりも割り切っているようだ。キラリは相変わらず無口だが淡々とサポートに回っている。
「原初ダンジョンでは装備品が直接戦利品として手に入るのか、どうやら品質は悪いようだが鋳潰せば材料費が浮くかも知れないね」
「もっと下層に行けば、そこそこの物も手に入る、最前線まで行けば君のお祖父様クラスのものも手に入るかも知れない」
辺りを警戒はしているものの戦闘には参加していないサキナとリオンは戦利品を拾い集める役目をになっている。なんだかんだとリンネたちは原初ダンジョンだとしても特に気負うこと無く進んでいく。
三階層はウルフ系統が出てワーウルフが混ざっていた。四階層はオーク系統でオークジェネラルまで出てきたが、問題なく進んでいく。そして5階層に辿り着いたリンネたちは微妙な気分になっていた。
五階層に出てきた敵が各種ミノタウロスだった、そうあのミノタウロスだ。通常フィールドでミノタウロスが出るということは、ボス部屋はミノタウロス系統になるのではないかと思っている。
「流石にあのミノタウロスは出ないだろ」
「そうだったらいいよね……」
全員が五階層のボス部屋へと続くゲートの前でためらっている。このボス部屋を攻略できれば、次からは六階層から始められる事になるわけで、ためらう理由は無いはずなのだ。
「ふむ、ためらっている理由はわからないが、特殊ルートというのは階層ボスを倒した後すぐに次の階層へのゲートを通らなければ問題ないはずだ」
「あっ、そうなのですね。それじゃあボスを倒して一度戻れば問題ないということですね」
「そのはずだ」
リンネは一度みんなを見まわす。
「ここでまごまごしていても、あとで来る人のじゃまになるし行こうか」
「「「はーい」」」
こうしてリンネたちは五階層のボス部屋へのゲートをくぐった。そしてそこに待っていたのは……。
「ぶもぉぉぉぉ♡」
ヤツであった。ただ見た目が変わっていた。学園のダンジョンで出会ったときは、上半身は裸ではち切れそうな筋肉を纏っていたが、今はボンデージ姿となっている。はっきり言って気持ち悪い。
その服装は変態的だが、カモシカのように細かった足は相応に筋肉質になっており、朝手には一本ずつハルバードが握られている。どこからどう見ても強敵といって間違いないだろう、その姿以外は。
「よし帰ろう」
「出口はないからむりだからね」
「ですよねー」
全員が帰りたそうな顔をしているが帰れないものは仕方がない。
「それじゃあ、遠距離組は本気でやっちゃって、近距離組はヤツを後衛に近づかせないように。えっとミレイは思う存分やちゃっていいけどどうする?」
「それでしたらわたくしも思いっきり殴らせていただきますわ」
「ほどほどに」
なるべく変態ミノタウロスの衣服を意識の外に出し戦いが始まったが、近距離組が出るまでもない結果となった。所詮はまだ五階層というところだろう、キラリが足止めをしているうちにライチとアズサの攻撃で全身ハリネズミ状態となりあっさりと泥となり消えていった。
「弱かった?」
「弱かった、です」
「結局一発も殴れませんでしたわ」
「次があるよ」
「もう二度とあいたくないですね」
出落ちだったからか散々な言われようである。ただおかしな方向に進化したヤツが悪かったのも確かだろう。来世があるならもっとまともなミノタウロスとして出てくることを願うばかりだ。
「さて戦利品を回収して今日は戻ろうか」
リオンとサキナがミノタウロスが泥となった場所に残っていたハルバードを手に持ち具合を確かめている。
「五階層にしては結構ないい品な気がするな」
「そうですね、もしかするとミスリルが混ざっているのかも知れませんね」
そんな会話をしているリオンとサキナの近くを歩いてきたレイネがなにかを発見したようで、泥をかき分け紐のようなものを拾い上げた。
「なにこれ?」
「ん? それってミノタウロスが身につけていたやつじゃないのか」
「あー、サキナさん、ちなみにこれっていいものだったりします?」
「いや、それはただの革製じゃないかな、防具としては多分使い物にならないだろう」
「そうですか」
レイネはそう答え、ハルバートを回収したリオンに続いて、リンネたちが待っている脱出用のゲートへ歩き始める。
「それじゃあ帰ろうか」
「「「はーい」」」
こうして原初ダンジョン初探索は終わるのであった。ただ変態ミノタウロスの着ていたボンデージの行方を気にするものは誰もいなかった。
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