第92話 伝説の武器の使い手
「ここが原初ダンジョンか」
本当にここがダンジョン前なのかと思えるほどの人の群れ、お祭りのように屋台が並びいい匂いが漂っている。更にその場にいる人たちの姿を見て思ってしまう事がある。
「ダンジョン前というよりコスプレ会場だよね」
レイネのその言葉に頷く以外の反応のしようがないほど、そこかしこに様々な装備に身を包んだ人たちが歩いている。かくいうレイネたちも人のことは言えない格好をしているわけだが、それはそれということだろう。
「リン、少しだけ寄りたいところがあるのですが、よろしいかしら?」
「ミレイはここに来たことがるんだったか」
「ええ、今回のように入場するためのものではなく、課題の一環としての外での活動ですわ」
「それで行きたいところって?」
「その時にお世話になった治療所ですわ、わたくしはそこで治療のサポートをさせていただいていたのですわ」
「それじゃあ、俺も挨拶をしておいたほうが良いかな、もしかしたらお世話になるかも知れないわけだし」
「あまり見ていても気分のいい場所ではないですわよ」
そうは言うもののミレイはそれ以上止める事もなく目的の場所へ向かっていく。そこは先ほどまでいた賑やかな区画から少し離れた場所に建てられている大きな縦長タイプのテントだった。
「失礼いたしますわ」
ミレイはそのままテントへと入っていく。リンネたちもその後についてテントへ入った。
「あんた、みれいちゃんじゃないの、久しぶりね。今日は手伝いに来てくれたのかしら?」
そこには怪物がいた。はち切れそうな筋肉をまといその身を包むのはパツンパツンの看護師の服を着ている女性? が体をクネクネさせながらミレイに話しかけてきた。
「(確かに見て気持ちいいものではないな)」
「(そうだね)」
「皆さん失礼ですわよ、この方はこんな見た目ですがアークビショップのクラスをお持ちの方なのですわよ」
「ミレイもなにげに酷い気がするけど」
さり気なくレイネをかばうように前に出たリンネが目の前の怪物に挨拶をする。
「初めまして、ミレイの所属するパーティー及びクランのリーダーをしています、姫咲リンネです」
「あらかわいいお嬢さんね。はじめまして、あたくしは防出ルビィよ、ぜひルビィちゃんと呼んでね」
パチリと片目を閉じてウィンクを飛ばしてくる。さり気なく飛んできた幻視のハートマークをリンネは避ける。
「あ、はい」
差し出された筋肉の塊のような手が差し出され、リンネは握手を交わす。そのガッチリした手触りに悪寒がリンネの背中を駆け巡った。その後は各々が順番に挨拶を済ませ、邪魔にならないようにとテントから逃げるように抜け出した。
テントから十分に離れたリンネたちはダンジョンに潜る前だというのに既に満身創痍の状態になっているように見える。ただミレイだけは慣れているのか感覚が麻痺しているのかわからないが平気そうだ。
「あんな人が闊歩している原初ダンジョンこわい」
一年生三人は目が死んでいるようにハイライトが消えている。
「ま、まあ、この界隈では最後の砦と冗談半分で言われている方ですから」
ミレイのフォローになってない良いわけを聞きながら、全員の心はもう帰りたいと偶然にも一致していたりするが流石に誰も声に出していうことはなかった。
「とりあえず、どこかでジュースでも飲んで落ち着こうか」
「うん……」
リンネたちは最初の大通りに戻り、適当にまとまって座れそうな店でジュースを買って着席する。まだ早朝なこともありリンネたちのように休憩目的で集まっている人は少ないようだ。ちなみに料理や飲物の値段は相応といった感じで、高くもなく安くもないといったところだろう。
「えーっと、とりあえずリオンさんにはここの場所と少し遅れるってメッセージ送っておく」
「了解」
「それにしても、ルビィさんのインパクトが強すぎて疲れたよ」
ライチがジュースの氷をガリガリと食べながらつぶやいている。
「あの見た目でルビィ、です」
アズサも思わずと言った感じでいつもより力ない声が出ている。
「もう、皆さん酷いですわ、あの方はわたくしの恩師なのですわよ」
ミレイの恩師という言葉を聞いて皆の頭には凶悪なメイスを持って敵を殴り倒すミレイの姿が思い浮かんでいる。あの恩師にしてこの弟子なのかもしれない、あの筋肉なら武器すらいらないと思わなくもない。
「ちなみにミレイさん、ルビィさんの武器はご存知ですか?」
刀燐サキナが尋ねると、少し思い出すように視線を上に向ける。
「えーっと確かダグザの棍棒でしたかしら、原初ダンジョンのかなり深い階層で巨漢の大男とタイマンで戦い勝利したら泥として消える前に渡されたと伺った気がしますわ」
「えっ、それって神話クラスの武器じゃ……」
「わかりませんわ、実物を見せていただいたわけではありませんので」
サキナは少しダグザの棍棒を見てみたいと思ったが、ミレイですら見せてもらっていないものは仕方がないかと思った。
「まあ、考えても仕方がないしルビィさんのことは忘れようか」
「そうだね、それがいい」
リンネにレイネが答え皆もそうしようと頷く。ミレイ一人だけは納得がいっていなさそうではあるが仕方がないと思いみなと一緒に立ち上がる。
「気を取り直してリオンさんと合流してダンジョンに潜ろう」
「「「はーい」」」
店の人にごちそうさまと言ってリンネたちはリオンとの待ち合わせ場所である、ダンジョン入口へ向かうのであった。