第89話 刀鍛冶を尋ねて
五階層のダンジョンボスを倒した事で、下の階層へ向かうゲートと帰還用のゲートが現れた。一応ボスからは刀がドロップしたのだが、特に業物でもなまくらでもない微妙なものだった。結局その日はダンジョンから帰還をして解散となった。
ワルキューレやブリュンヒルドに関する詳しい話は、後日クランで割り当てられている部屋で話すこととなった。今回のダンジョン探索で新しい武器を作るための素材が集まったということで、しばらくはダンジョン攻略はお休みをして装備を整えることになっている。
というわけで週末リンネたちはある場所へと来ていた。そこは旧家が集まる場所でゲンタに紹介された場所である。
「こんにちは、どなたかいらっしゃいますか?」
そこは特に看板なども出ていない、古い時代の武家屋敷のような感じの家だった。インターホンを押しても反応は返ってこず、しばらく待ってもう一度インターホンのボタンを押した所で、すぐ隣りにあった立派な門がギギギという音を鳴らしながら開いた。
「えっと、これは入ってこいということでいいのかな?」
「ど、どうなのかな」
今この場にいるリンネとレイネとアカリとミレイの四人は、開いた扉から中を覗き込むだけで入ろうとしない。そうしている所へ突然背後から声を掛けられた。
「あの、家になにか御用ですか?」
「「「うわっ」」」
リンネたちは急に声をかけられて驚いて声を出していた。
「驚かしてしまったみたいですみません」
「こちらこそすみません、えっとこちらの家の方ですか?」
リンネが改めて声をかけてきた人物に謝りながらその姿を見ている。そこには今では珍しい着物姿のリンネたちと同じくらいの年齢に見える黒髪の少女が立っていた。その両手には買い物をしてきた帰りなのか両手にビニール袋が持たれている。
「はい、私は刀燐サキナといいます、もしかしておじいちゃんのお客様でしょうか」
「俺は姫咲リンネです、隣りにいるのが──」
「妹のレイネです」
「ボクは焔坂アカリです」
「わたくしは耀静ミレイですわ」
それぞれが名乗り挨拶を済ます。
「それでこれが紹介状なんだけど」
リンネはゲンタから渡されていた紹介状をサキナに手渡すと、サキナは手荷物を地面に下ろすとおもむろに紹介状を開いて中を確認し始めた。
「皆様の事情はわかりました、ですが祖父は現在入院していまして、皆様のご要望にはお答えできません」
「そうなのですね、入院となると流石にお願いするわけには生きませんね」
リンネはそう言って仕方がないといった感じでレイネ達を見回す。考えとしてはまた別の職人をゲンタに紹介してもらうしかないかといったところだろう。
「そうですね、皆様お急ぎでなければ家に上がっていきませんか? すこしご相談したいこともありますので」
「相談ですか?」
「ええ、初対面で不躾かと思いますが、皆様にとっても悪い話ではないと思いまして」
リンネは一度レイネたちを見てから、誰も特に反対することがなかったので、お招きに預かることにした。
「でわこちらへどうぞ」
「「「おじゃまします」」」
サキナに続きリンネたちは敷地へと入り奥に見えていた屋敷へと向かって歩いていく。背後では自動で開閉する仕組みがないはずなのに、門がひとりでに閉まり始めていくのだが、それには誰も気が付くことはなかった。
客間に通されたリンネたちは、サキナが用意したお茶をいただきながら待っているとサキナが戻ってきた。戻ってきたサキナの手には鞘に収められた二振りの太刀が持たれていた。
「まずはこちらを御覧ください」
まずはといった感じでリンネに対してサキナは刀を差し出す。
「えっと、この中で刀を使っているのはレイネなんだ」
「そうでしたか、失礼しました。てっきりリンネさんも刀を使うものかと思ってしまって、それではレイネさんご確認ください」
サキナは改めてレイネに刀を差しだす。レイネは刀を受け取り、どこから取り出したのかハンカチを口にくわえてから、ゆっくりと鞘から刀を抜き出した。その刀はリンネから見ても業物に見えた。こころなしかレイネの表情もその刀の美しさに見惚れているのかうっとりとした目をしている。はたから見るとただの不審者に見えなくもない。
レイネは刀をゆっくりと鞘になおすとサキナに刀を返してから、くわえていたハンカチを手に取ると、ゆっくりと数回呼吸を繰り返した。
「すごい刀ですね、ついつい見惚れてしまいました」
「こちらの刀はおじいちゃんが打った刀なんですよ、それでは今度はこちらを確認していただけますか」
サキナはレイネから受け取った刀を丁寧に横へ置いてもう一振りの刀をレイネに手渡した。レイネは再びハンカチをくわえてから刀を鞘から取り出した。リンネの目には先程と遜色ないように見えた。ただレイネの表情は先程とは違いどこか困惑するような表情を浮かべた後に鞘へとおさめ、サキナに返した。
「レイネさんにはおわかりになったかも知れませんが、こちらは私が打った刀になります、正直にどう思われましたか?」
「悪くは無いと思う、だけど最初に見たものに比べると何かが足りていないと思うんだよね、その何かはわからないけど。ただ私が使うならサキナさんが打った刀のほうが相応かなと思うかな、サキナさんのおじいさまが打たれた刀だと私は使いこなせないと思う」
「ありがとうございます」
「お礼を言われることじゃないと思うけどね」
「いえ、私にもわかっていた事ですが、はっきりと言っていただいて嬉しく思います」
サキナがニコリとレイネに微笑んだ。
「そこでご相談の件なのですが、私を皆様のクランに入れてもらえないでしょうか?」
サキナがレイネに向かってそういうと頭を下げた。





