第86話 進級
リンネたちは進級して高等部二年生になった。それと同じく中等部三年生だったナルミ、ヒビキ、キラリの三人は高等部へと進学した。今のところリンネたちのメンバーに変更はない。
そしてダンジョン攻略は特にトラブルもなく順調に進んでいる。特にピンチを迎えることもないので、ワルキューレもブリュンヒルドも出番がなく、今のところナルミたち新一年生にリンネたちの秘密がバレてはいない。
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リンネたちは新しいダンジョンへと潜ろうとしていた。ダンジョン入口にはリンネたち以外にも生徒がグループを作っていて装備の点検や持ち込む荷物のチェックをしている。そんな中でリンネたちはおそろいのブレスレットをしており、装備以外には小さめのチュックを背負っているだけだ。
「それじゃあ行こうか、忘れ物などはないよな」
「「「はーい」」」
リンネに返事を返すレイネたちは相変わらずの軽さである。リンネは一度全員を見回してから一度うなずき、ゲートへ向かって歩き出す。レイネやナルミたちはその後を追う。
第一階層に降り立ったリンネたちは素早く戦闘態勢を整えあたりを見回す。普段潜っているダンジョンの一階層は出てくる敵はウィードのみなのだが、今回始めて潜るこのダンジョンはそうではなかった。今回潜っているダンジョンは一階層から迷宮型になっていて出現場所もランダムという仕様になっている。
「ふぅ、敵は見当たらないか」
「そうみたいだね」
リンネのつぶやきに答えたレイネだが警戒をまだ解いていない。
「それじゃあアズサは先導よろしく」
「了解、です」
アズサが先頭にたちダンジョンを進んでいく。アズサはたまに立ち止まり罠がないか調べたり、敵の気配がないか探ったりしながら進んでいく。迷宮型ダンジョンといってもいろいろな種類がある。今回リンネたちが入っているダンジョンは、板張りの廊下と扉がふすまになっているいわゆる和風ダンジョンと呼ばれるものだ。
出てくる敵はカラクリ仕立ての敵が多い。一階層はカラクリ人形のような魔物が出てくる。雛人形サイズの人形が二足歩行で刀を刀を振り上げ襲いかかってくるのはトラウマになる者もいるようだ。
「この先に曲がった所に人形が五体、です」
「みんな戦闘態勢、初手はキラリとライチで魔法攻撃を、続いて残った敵を右から俺とレイネ左からアカリとナルミで残りはアズサが牽制、ヒビキとミレイは後衛の守りを、行くぞ」
リンネが早口で指示を出し、それを聞いた皆が静かに頷いて行動に移る。まずはライチとキラリが魔法で全体攻撃をして敵にダメージを与えた。そのうち一体は泥になり消えていく。
「「「ダッシュ」」」
リンネたちがダッシュを使い魔法を受けて動きを止めている人形へとダッシュで駆け寄り一撃で斬り伏せ倒した。体勢を立て直そうとした人形はアズサが牽制代わりに放った矢が額に命中してその姿を泥へと変えた。
「思ったよりも楽勝だったな」
「そうだね、なんだか弱いかな」
リンネに賛同するレイネだが、手を出す前に全滅したため手持ち無沙汰であった。
「リン、次は私が先行するからね」
「そうだな、次は俺がサポートに回る、それにこの感じだと二チームに分かれても良かったかも知れないな」
「そうですわね、わたくしも守られているだけではストレスが溜まりますわ」
ミレイは相変わらずえげつない棘付きメイスを手に持っている。そんなミレイを見て本当に聖職者なのだろうかと思ってしまうのは仕方ないのかも知れない。
「今回はボクが倒したから、次はナルミにお願いしようかな」
「わかりました、次は僕に任せてくださいアカリ先輩」
ちびっこ二人組は相変わらず仲が良さそうである。
「「……」」
そして無言でうなずき合うアズサとキラリ、それを眺めるヒビキとライチはうんうんと頷いている。この組み合わせはなにかシンパシーのようなものを感じているのかよく一緒に行動している。
「それじゃあ進もうか」
リンネがそういうと再びアズサが先頭になり進んでいく。この後も数度戦闘をする事になったが、特に危ないこともなく二階層へと続くゲートと脱出用のゲートがある部屋へと辿り着いた。
部屋には次の階層へと向かう前の休憩をしている他のパーティーがいて、リンネたちは軽く挨拶を済ませて休憩を始める。
「結構短刀があつまったね、これを一度鋳潰して新しい武器を作ってもらうんだよね」
「だね、レイネの刀や薙刀を作るのには良いんじゃないかな」
アズサはレイネが腰にさしている刀を見ている。
「この刀もそろそろ限界かなとは思っていたんだよね、雑魚なら良いけどボスクラスになるとどうしてもね」
リンネたちは一時期素材を集めて装備を揃えようとしたが、なかなかうまくいかず武器のバージョンアップが出来ずにいた。今回このダンジョンへ来た目的の一つが刀や薙刀を使うレイネの武器探しでもある。噂でかなりの業物が手に入るというものもあるが、誰もあまり信じていなかった。
「さてと次の階層へ行こうか、次の階層から人と同等の大きさのカラクリ人形が出てくるようだから気をつけて進もうか」
「「「はーい」」」
相変わらずのゆるゆるな返事だ、この中にはナルミたち新一年生も混じっているので、リンネのパーティーでは標準的なものになっていたりする。リンネたちはこうして次々と階層を降りていき、五階層のボス部屋前まで辿り着いた。
二階層、三階層、四階層も危なげなく次々と超えてきたリンネたちは、ボス部屋前に辿り着く前にかなりの数の素材を手に入れている。そういったわけでリンネたちは五階層のボスを倒して帰還することに決めている。
「ボスはカラクリ武者が十体前後ということだから、俺、レイネ、アカリ、ミレイ、ナルミで一体ずつ受け持って、ライチとキラリとアズサが他のを牽制、倒しちゃってもいいからね、ヒビキは申し訳ないけど後衛組を守って欲しい」
「申し訳ないなどと言わないでください、自分が責任を持って守ってみせますので」
ヒビキがハルバートと盾を構えて守るという意思を示す。
「うん、それじゃあみんな行くぞ」
「「「はーい」」」
緊張感のない返事とともに、リンネたちはボス部屋へのゲートをくぐっていった。





