第82話 買い出し
リンネとレイネは様々な店をまわった。雑貨屋、靴屋、衣料品店、アクセサリーショップ、お菓子屋やケーキ屋などなど、その中でリンネを困惑させたのはランジェリーショップだろうか。
そもそもあまり自身の下着にむとんちゃくなリンネは自分のサイズに合うものを通販で買っている。特に誰かに見せる必要がないという考えのもと下着の色は白のものしか持っていない。それを知っているレイネが無理やり連れ込んだわけである。
一歩店に入っただけで動きを止めてしまったリンネを引っ張り、店に入っていく。レイネには必要ないだろうなどと言ってはいけない、ないならないで必要なものはあるわけで、なにが必要かは察していただきたい。そんなこんなで、一度集まり情報交換をしつつ昼食を食べた面々はそれぞれ別れて買い物に繰り出した。
15時を迎えた辺りで再び集合したリンネたちは、それぞれが手に荷物を持っている。食料品売場で、オードブルやジュースなどの飲み物を買い、注文していたケーキを受け取り帰路につく。
「みんな忘れ物はないね、買い忘れとかあったら今のうちに」
リンネの確認に大丈夫だと返事を返し揃ってショッピングモールから外へ出る。
「うわっ、さむい」
吐く息も白く、冷たい風が吹いている。
「急いで帰ろうか、流石に走るわけにもいけないけど」
買ったばかりのケーキなどがあるために走って帰るわけにも行かず、少し急ぎ気味に歩き出す。タクシーなどを使えば良いのだが、乗り場には長蛇の列が出来ていた。バスに関しては、リンネたちの家の近くまでは走っていないので、結局徒歩が一番早い事になる。
「帰ったら早速お風呂行きだな、お風呂の栓はしてるよな?」
「大丈夫だよ、ちゃんと出てくる時確認したから」
「それじゃあ今のうちにお湯出ししておくか」
リンネはμαの通信機能でお風呂のお湯出しを開始した。お風呂の栓がされてなければエラーが返ってくるのだが今回はレイネが言う通りに大丈夫なようだった。
「それじゃあ、帰ったらナルミとヒビキとキラリの三人からはいるように」
「えっ、僕たちは最後でいいですよ」
「自分も最後で良いですが」
流石に客である自分たちが最初に入るのはと遠慮する中等部の三人だが、そこはリンネは譲るつもりが無いようで、むしろお客様だからと説得された。
「三人が上がったら、次はライチとアズサね」
「遠慮なくいただくよ」
「はい、です」
ライチとアズサは既に何度かリンネたちの家へ泊まりに来ているので、いつもの順番どおりと納得している。
「流石に四人は狭いからな」
リンネが何かを言う前にアカリとミレイの視線を感じて苦笑を浮かべている。
「わかりましたわ、いつもどおりにわたくしとアカリとレイネで入りますわ」
普段四人だけしかいない時は、手の空いているものから順番に一人ずつ入っているのだが、ライチたちが泊まりに来たときなどは時間短縮のため複数で入ることにしている。その場合、大体二人か三人で入ることになり、リンネが最後に一人で入る事が多い。と言っても毎回そうということもなく、タイミングが合えばその限りでもなかったりする。
徒歩で1時間ほどかかる道のりを、40分ほどかけてもう少しで家につくところまでたどり着いたリンネたちは、歩みを緩め立ち止まる。
「あっ、雪だ」
「ほんとだ、寒いわけだね」
「ホワイトクリスマスですわね」
「うわー、これ積もったりするかな」
一度立ち止まったが、リンネは皆を促し先程よりも少し速いペースで家へと向かう。家に到着すると家の中は暖房が効いていて皆一様にホッとしている。家の暖房がついていたのは暖房をつけて出かけたわけではなく、家に帰り着く少し前にリンネがμαを介して暖房を入れておいたからである。
「それじゃあ、荷物を置いたらナルミたちはお風呂に入っておいで」
「わかりました、最初に入らせていただきます」
ナルミがそう答え、荷物を置くと着替えなどを手にヒビキとキラリを連れてお風呂へ向かった。
「さてと、それじゃあ俺たちは食事の用意とか始めようか」
「「「はーい」」」
買ってきたプレートやジュースを用意して、取り皿やナイフ、フォークにお箸などを並べる。そうしているうちにナルミたちがお風呂から上がってきたので、順番にお風呂へ向かう。最後のリンネが戻ってきた頃には食事を始める準備は整っていた。
「お待たせ、遅くなった」
「大丈夫だよ、それよりお腹すいたし食べようよ」
「そうだな、それじゃあみんな好きな飲み物をグラスについで」
皆が思い思いにジュースをグラスに入れて手に持つ。
「準備はいいかな、それじゃあメリークリスマス」
「「「メリークリスマス」」」
皆で軽くグラスを打ち付け合い食事を始める。リンネがお風呂に入っているうちに温めておいたオードブルプレートは、ほぼ揚げ物ばかりだが、ちゃんとサラダなども買って来ている。流石にチキンまでは用意していないが、リンネたちは大いに食事を楽しんだ。
そんな中でリンネは今年、自らの身に起きたことを思い出していた。あの日、覚醒の水晶を使ったがために覚醒と同時に女性になったことや、女学園に入ることになったこと、そしてアカリやレイネにミレイとの関係など、数年前どころか一年前には想像すらできなかった現在を思うと自然と笑みが浮かんだ。
「リン、なんだか嬉しそうだけどどうしたの?」
レイネがそんなリンネを見て小声で尋ねた。
「一年前の俺に今日のようなクリスマスの事を教えても絶対に信じなかっただろうなと思ってな」
「あー、そうかも知れないね。あの頃のお兄ちゃんを誘ったとしてもきっと参加はしなかったかもね」
「俺もそう思う、それを考えると今のこの事は夢のようだなって面白くてな」
「夢じゃなくて現実だよ」
「わかってるって」
リンネはレイネに軽く微笑む。それを見たレイネは頬を染めている。
「リン食べてるー?」
「リンこれも美味しいですわよ」
アカリがリンネにのしかかり、ミレイがお皿に盛ったポテトをリンネの前に置くと勧めてくる。アカリもミレイもリンネとレイネの内緒話が気になったようだ。食事をたらふく食べた皆はこの後ケーキを食べるのだが、リンネはケーキは別腹といいながらぺろりと平らげるレイネ達を見て、別腹って存在するんだなどと考えていた。





