第76話 新学期
「みんな忘れ物はないな」
「うん大丈夫だよ」
「ボクも問題ないよ」
「わたくしも大丈夫ですわ」
小型ダンジョンを攻略して第一ダンジョン都市に戻ってきてから数日たった。夏季休暇が終わり今日から新学期が始まる。
「それじゃあ行くか」
「「「はーい」」」
4人は揃って家を出て歩き出す。向かう先は、国立第一ダンジョン都市大学付属白桜女子学園となる。徒歩で向かうとだいたい一時間ほどかかる距離だが、リンネたちは特にそれを苦とすることもない。
一応通学のためのバスはあるのだが、残念なことにリンネたちが暮らす家はそのルートから外れており、バスに乗ろうと思えば一度駅前まで行かないといけない。そう言った事情もあり、リンネたちは徒歩で学園へ通っている。
「今日は始業式だけで終わりなんだっけ?」
「何もなければそのはずだよ」
「ボクはダンジョンに行きたいな、最近家で課題ばかりしていたから体が鈍ってる感じなんだよね」
「そうですわね、わたくしもこうフルスイングしたいですわね」
ミレイはバットでも降るように手を動かして見せる。そんな彼女たちの近くには、身の丈50cmほどの少女が浮かんでいる。スズネ、カリン、リィンの3人のワルキューレである。三人は特に会話を交わすわけでもなくリンネたちについていく。
リンネたちが丁度校門へたどり着いたタイミングで、道の反対側からライチとアズサがやってきた。
「ライチ、アズサ、おはよう」
「みんなおはよう」
「おはようございます、です」
「おはよー」
「おはよう」
「おはようございますですわ」
リンネたちはライチとアズサと合流して校門をくぐる。リンネたちが特に早いというわけでもないが、登校してきている生徒はまだそれほどいないようだ。シューズボックスで靴を履き替え、そこでそれぞれのクラスへと分かれていく。
リンネたちが教室に入ると、既に着ている生徒もいるようで、挨拶を交わして席に着く。それから次々と生徒が登校してきている。夏季休暇が終わった直前だというのにどの生徒も日焼けをしておらず、その肌の色は各休暇前と変わらないように見えた。
一方のリンネはというと、こちらも海へ行ったにもかかわらず相変わらず死人のような真っ白な素肌をしている。不思議なことだがどうやらリンネは日焼けるということは無いようで、これは一種の自己再生に当たるのかもしれない。
そしてレイネやアカリたちもそれは同様で、日焼けをすることはないようであった。つまりは覚醒を済ませた人間は少なからず自己再生能力が高いようで、日焼けをしないということになるのであろう。
しばらくするとチャイムが鳴り、教師が入ってくる。普段はμαを通してのやりとりなのだが今日は始業式があるということで引率も兼ねてやってきたようだ。教師の指示に従い、ぞろぞろと体育館へと移動する。
リンネは一度も利用したことのない体育館なのだが、一応はクラブ活動というものはある、ただしどれもクラブといって良いのかわからない規模の部活だ。昔のように大会があるわけでもなく、ほとんどが趣味の延長といった感じのクラブである。
そんなわけで、部活動というものに興味がないリンネたちは体育館に来る機会など殆どないというところである。どうやら体育館へ集められたのは高等部一年生だけだったようで、そのことに疑問を覚えながらも整列して始業式が始まるのを待っていた。始業式自体は学園長がながながと話して終わり、このまま解散か一度教室に戻るのかと言った所で、一人の教師が壇上へと上がった。
「わざわざここに着てもらった済まないが、少し話を聞いて欲しい」
そう言って始まったのは、中等部に関することだった。リンネたちが中等部ダンジョンを攻略し破壊されたことにより、今現在中等部の生徒はダンジョンへ潜れないでいるようだ。
元々中等部ではダンジョンに入る回数が少ないのだが、その少ない回数をダンジョンに入ることが出来ずに課題をこなすことができなくなっているということだった。そこで後頭部のパーティーに中等部の生徒を参加させてはどうかといった意見が出たようである。
引き受ける引受けないに関してはパーティーで話し合って欲しいという事で、わざわざ高等部一年を体育館へと連れてきた意味を理解した。
「で、どうする?」
「私は別にいと思うけど……」
「ボクも構わないけど……」
「リンが心配ですわね」
ミレイの言葉にレイネとアカリが頷いている。
「なんで俺が心配なんだよ」
「だって「「ねー」」」
レイネとアカリとミレイが声を揃えて頷きあう。ライチとアズサはこのやり取りに参加することはなくサラとともに見守っている。
「何がねー、なのかはわからんが、仮に受け入れるとして何人くらい来るんだろうな」
「一人ってことはないよね」
「だろうな、今回は中等部の三年生だけみたいだが、それでも人数的に厳しいんじゃないか」
「それに関しては、リンネくんのパーティーは三人受け入れてもらいたい」
「あっ、リオンさん」
リンネたちが話している所へ、先程までいなかったリオンがやってきていた。
「どうして三人なんですか? 各パーティーに三人だと参加できない生徒もいるのではないですか、それに受け入れないパーティーもあるだろうし」
「それに関しては大丈夫だ、中等部生の中でも一定のレベルのものだけが参加する事ができるという条件だからな」
「参加できない生徒は?」
「そちらは教師引率のもと、別のダンジョンに潜ることになる」
「そういう事ならまあいいですよ、みんなもいいよな」
リンネがレイネたちに確認するように視線を巡らす。レイネとアカリにミレイはそれぞれが視線だけで会話をしたようで揃って頷く。ライチとアズサも反対はしないようであった。
「そういうことですから受け入れます」
「そうか、あーちなみにだリンネくんの事情は極力広めないように頼むよ」
「それは、まあ、そうですね、そもそもなんて説明したら良いかわからないですし」
「ははは、まあいざとなれば仲間に引き入れてしまえばいいだろう」
「リン、これ以上はあまり増やしてほしくないかな」
「ボクもあまり賛成はできないかな」
「わたくしもあまりいい気はしませんわ」
「いや、大丈夫だって、ちょっとは俺を信じてほしいものだな」
リンネはこう言っているが、レイネたちはある意味確信めいた物を感じていた。それはあやふやなものだったが、パズルのピースがまだ揃っていないという感覚的なものだった。つまりはワルキューレもしくはブリュンヒルドがまだ増えるのだろうなといった確信めいた思いを抱いていたわけである。





