第64話 新たなる可能性の開花
リンネたちは歩きながらどうしたらいいか話し合っている。
「俺とライチもしくはアズサってワルキューレを生み出せると思う?」
「リンネお母さんにもわかっていると思いますけど、今のお二人とは無理です」
「やっぱりそうか」
特に残念がるわけでもなく、そんな気がしていたとリンネが頷く。
「リンネには申し訳ないけど、うちもそういう気はないかな」
「ごめんなさい、です」
「いや、二人共気にしなくていいって、俺も同じだから」
スズネがふよふよと浮いてリンネの後をついていきながら考える仕草をしている。
「そうなると、ワルキューレで無理やり突破するわけにもいかないか、できれば中にいる状態で倒してしまいたかったんだけどな」
「確かにそうだね、でもうちとアズサじゃ火力不足かな」
「あの札を巻きつける矢でも無理?」
「心臓を直接とかなら行けるかもしれないけど、この肉の壁じゃあね」
「だよな、まあ外のレイネたちも気になるし、さっさと出てからレイネかアカリとワルキューレ化したほうが良さそうだな。外に出たら、できるんだよな」
「はい、レイネお母さんとも、アカリお母さんともワルキューレ化は可能です」
「そういうわけで、中に入ったこと自体はスズネとカリンが復活したから無駄ではなかったと思うしか無いな」
リンネたちがおしゃべりをしながら、胃の真ん中あたりに差し掛かった所でスズネが考える仕草をやめて、飛びながらリンネの正面へ回る。
「リンネママ、ここでこのクジラを倒す事は可能かもしれません」
「そうなの? どうやって? 俺もライチもアズサも傷ひとつ、つけられなかったんだけど」
「それは、ライチさんとアズサさんのお二人がワルキューレを生み出せれば可能だと思います」
「いやいや、ワルキューレってさ俺のユニーククラスの戦乙女が無いと無理なんだろ? ライチとアズサの二人じゃだめだろ」
「それなのですが」
スズネがそこまで言った所で、突然足元が揺れ始める。揺れは激しくリンネたちは立っていることが出来ず座り込む。しばらくして揺れが収まったが、どこからともなく水が流れるような音が聞こえ始めた。
「今のは? それにこの音は──」
「リンネお母さん、急いで逃げて下さい、そこかしこから胃液が湧き始めています」
「うえぇ、ライチ、アズサ走るよ」
「えぇー」
「わかった、です」
駆け出すリンネたちだが、足元を踏みしめる度に、サンダルが焼ける音が聞こえ始める。下からにじみ出てきている胃液によりサンダルが焼けているようである。少しずつ先には進んでいるが、ゴールまではまだまだ掛かりそうだ。そしてリンネもライチもアズサも目的の場所に付く前に胃液で溺れるような気配を感じている。
「くそっ、スズネさっきの続きだけど、ライチとアズサはワルキューレ化出来るんだな」
「試してみないとわかりませんが、高確率で生み出すことが出来ると思います」
「それは今すぐ可能なのか」
「可能です」
「どうしたらいい」
「リンネママはお二人と直接手を繋いで下さい」
「ライチ、アズサ、いいよね」
並走しているライチとアズサに問いかけると二人は頷き、リンネの左右から手を繋ぐ。少し走りにくいなと思いながらも足を止めるわけにはいかないので、三人はそのまま走る。
「その状態で、ライチさんとアズサさんのお二人がお互いの生体情報を、リンネママを経由して取り入れて下さい」
それを聞いて三人は走るのをやめて止まってしまう。足元からはサンダルの焼ける音が増したように感じながらも、三人は手を繋いだまま困惑の表情を浮かべている。
「あー、なんだって?」
「リンネママ、ライチさん、アズサさんそれぞれの生体情報を混ぜ合わせたものを、お互いに取り入れて下さい」
「「「……」」」
三人はどうするといった様子でお互いの顔を見ながら、そろって目的の方向へ顔を向けるが、進む先には未だに出口は見えていない。このまま、ただ走っていても無事にこの胃袋から抜け出せるかはわからない。
「うちは、かまわないかな」
「ライチがいいなら、わたしもいい、です」
「二人とも本当に良いのか?」
ライチとアズサはお互いに見つめ合ったあとに頷く。
「わかった、二人が良いのならやってやるか。とその前に、流石にサンダルがやばいから靴だけ履き替えようか」
三人は収納からそれぞれ戦闘用の靴だけ取り出し履き替える。三人は気がついていないが、魔物の体内にいることでダンジョンから切り離されている現在は、水着でなくてもダンジョン特性の影響を受けることはなかったりする。
靴を履き替えた所で、三人は向かい合う。まず最初にライチとアズサが手を繋ぎ、頬を赤く染めながら、ためらいがちに唇を重ねる。それを目の前で見せられているリンネはなんとも言えない気分になっているが、目をそらさずにお互いの唇を貪り合っている二人を見ている。
唇が塞がれているために「んっ」や「はぁ」といった息遣いが小さく漏れている。リンネからはわからないが、二人はお互いの生体情報を取り込むために舌を絡めてお互いの唾液を貪り合っている。
濃厚な接吻を済ませた二人の間には唾液の糸が一本繋がり切れた。そんな物を見せられて我慢できなかったのかリンネは少しほうけた表情のライチに顔を近づけ唇を重ねる。
リンネとライチの口づけをぼーっと見つめることになったアズサは、理由もわからずチクリと胸の痛みを感じていた。それは嫉妬によるものなのだがアズサは気がつくことはなかった。
手を握り舌を絡めお互いの唾液を混ぜ合わせる。リンネとライチの口からはぴちゃちゅぱという音が聞こえてきそうなほど唇を貪りあっている。しばらくの後「「ふはっ」」と息をつき二人は重ねていた唇を離す。ライチがリンネから離れると、今度はアズサがリンネの手を掴み唇を重ねる。
最初はためらいがちだったアズサも、いつしかリンネとお互いの舌を絡めあっている。お互いの唾液を混ぜ合わせ、最後はコクリと喉を鳴らし飲み込み唇を離す。唇を離したリンネとアズサ、それとそれを見ていたライチは、頬を上気させたままお互いの唇へと知らずしらすに目線を送っていた。
<特殊条件の達成を確認、ユニーククラス戦乙女を経由し新たな可能性を開花いたします>
リンネの視界にそうメッセージがポップアップすると同時に、ライチとアズサが意識を失い倒れそうになる。リンネはそんな二人をとっさに抱きかかえ倒れないようにその場で踏ん張る。
「危な」
先程までの高揚が嘘のように引いて、冷や汗が背中を伝う。あのまま一緒に気を失っていれば、三人とも胃酸で大変なことになるところだった。リンネは二人を両腕に抱きかかえながら歩みを進める。
「リンネママ、私はお二人のサポートへ行ってきます」
「二人を頼む」
「はい」
「カリンはいいのか?」
「ボクはリンネお母さんをサポートします、進む方向はこのまま真っ直ぐです」
「カリンありがとう」
リンネは靴の焼ける音を聞きながら、二人を抱きかかえゆっくりと歩みを進める。
誤字報告ありがとうございます。





