第61話 最奥へ
四階層は三階層以上に暗さが増していた。ただ水着のおかげなのか動きが鈍ることはなく、むしろ今まで以上に軽快に動けるようになっている。
「ふむ、ダンジョン特製というやつだろうな、噂では聞いていたが実際に体験するのは初めてだ」
リオンは水着から衣服、ダンジョン用装備へとコロコロと切り替えながらそう結論付ける。
「ここからは地図が無いので警戒を密に」
そして四階層は三階層より視界が悪いのだが、広さを図った所三階層と変わらない広さのようであった。
リンネたちは隊列を組んで先へと進む。暫く進むと魔物が現れた。出てきた魔物は今までのフライフィッシュとは違う魔物だった。
「うわっ、サメ?」
レイネの声により気がついたリンネたちは立ち止まりそれぞれの武器を構える。警戒しながら進んでいたリンネたちだが、気がつけば人の2倍ほどの大きさのサメの群れに囲まれていた。とっさにシラベを中心にして守るように陣形を変える。
「ライチ、アズサは遠距離から牽制をお願い。私は正面、レイネは右を、アカリは左を、ミレイは私たちが抜かれたらお願い」
「「「はい」」」
サメが突撃してくるのをライチとアズサが牽制代わりに札を飛ばし、矢を放つ事でその動きを鈍らせる。そこへリンネ、レイネ、アカリが近寄り的確に倒していく。流石に人の二倍ほどの大きさのサメを一撃では倒せないが、それでも何度か攻撃を加えることでサメは泥のようになって消えていく。
「強くはないかな、でも耐久力はあるのかな」
「そうだね、鼻っ面に攻撃を当てると動きが鈍るみたいだよ」
「弱点に関しては、海のサメと変わらないようだな。サメは鼻に神経が集中いていて、そこを殴られたりすると怯むようだ」
レイネとアカリにリオンが答えている。リンネはその言葉を聞きながらドロップ品を見つけた。
「リオンさん、これってなんだと思います」
落ちていたサメのヒレのようなものを拾ってリオンに差し出す。
「これはフカヒレというものじゃないだろうか、昔から高級食材と言われていたものだな、私も初めて見るのでわからないがね」
「へーフカヒレっていうんですね、拾っていったら幸子さんかカナさんが料理してくれるかな」
「どうだろうな、カナくんはともかくとして幸子くんなら作れるかもしれないな」
リンネたちは落ちていたヒレを回収してから再び隊列を組み進んでいく。ゲートのある場所がわからないので、μαの自動マッピングを起動させながら進む。行き止まりに着く度にシラベに調べてもらい、何も無いのを確認してから別の道を進んでいく。
途中で何度かサメやフライフィッシュが襲って来たが、難なく撃退してフカヒレを回収する。大体四階層に降りてから一時間ほどが過ぎた辺りで、ゲートのある場所へとたどり着いた。
「普通にゲートが見つかったな」
「そうだね、三階層みたいに隠されてないのは良かったけど結局全部回っちゃったね」
みんなゲート近くに座り、それぞれがμαに表示されているマップを見ながら、行っていない場所がないか確認している。
「水着だと心もとないと思ったけど、ここだと水着のほうが普通の装備より性能がいいってなんか複雑だね」
レイネがしみじみとそう言って自分と周りの水着姿を見ている。レイネが言うようにこのダンジョン内では水着のほうが俊敏さが上がり防御面でも効果が現れている。
噛まれそうになったレイネをかばい、リンネがサメの前に躍り出た時にダメージを食らったのだが、なぜかリンネは無傷だった。その事から水着の場合は謎の力が働きダメージが軽減されるのではないかと言うことになった。
検証をしてみようということになったのだが、流石にサメで試すわけにもいかないので、フライフィッシュを捕まえて試してみた所。普段のダンジョン装備だと動きが鈍くなるだけでなく、剣や鎧が重く感じられてまともに動けなくなる上にダメージも通常より食らうことがわかった。
逆に水着姿だとフライフィッシュの攻撃を受けてもダメージがかなり軽減されていた。そういうわけで検証結果としては、このダンジョンだと水着のほうが色々と便利だということに落ち着いた。
「さて、小型ダンジョンは基本的に全五階層の事が多い、それも五階層はだいたいがボス部屋となっている。このダンジョンは私自身も体験したことのない特殊な作りになっているので次が最後とは限らない。そこでだ次の階層が最後ではなさそうならそのまま脱出するということでどうだろうか」
リオンがレイネたちをぐるりと見回す。それを聞いて顔を見合わせた後に頷く。
「それでいいと思います、流石にここまで来るのに結構時間がかかりましたので疲れも溜まってますから」
「そうですね、ここまで来るまでの道のりは今回でわかりましたからね」
「うんボクもそれでいいと思うよ」
「わたくしもそれで良いと思いますわ」
「うちも賛成かな」
「それでいい、です」
全員がそれでいいと答える。シラベの安全を考えるなら一度戻って出直すのが確実なのだが、それでもここまで戻ってくるのは結構苦労をしそうである。そのために今回はみながこのまま進む事を選んだのだろう。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
リンネたちは武器の点検を終わらせ、ゲートの前に集まる。
「みんな準備はいいよね、それじゃあ行くよ」
リンネが先頭でゲートを潜り抜ける。ゲートを抜けたリンネたちの目の前には大きなゲートが現れた。
「ボス部屋ってことですよね」
「これがこのダンジョンのボス部屋だろう」
リンネに答えるリオン。今まで中等部ダンジョンでしかボス部屋に行っていないリンネだが、これほど大きなゲートは初めて見たことになる。それはリンネよりもダンジョンに潜っているレイネたちも同じで、みなが巨大なゲートを見上げている。
「私の経験上のことになるが、大きなゲートだとそれ相応の大きな敵が出る、この大きさだと何が出るのかわからないな」
「クジラとかでしょうか」
「クジラだとどこを攻撃したら良いのかな」
「ほんとうにクジラだったら無難な所で目とかかな? うちの札とアズサの弓がメインになりそうだね」
「狙い撃ちます、です」
「二人共頼りにしてるよ、それじゃあ行こうか」
ゲートが大きいので念の為全員が横並びになり、ほぼ同時にゲートをくぐった。





