第60話 水着こそ正義?
リンネたちは三階層に降り立ったが、その場から動けずにいた。三階層は、一階層や二階層よりも圧を感じたために、体を慣らす必要があったためだ。先ほど二階層で休憩をしたばかりなのだが、座ったり立ったりを繰り返している者もいる。
「ふぬぬぬ、なんでこんなに重いのかな」
レイネがまいったという感じで立ち上がり、思いっきり伸びをしている。そんなレイネだが何を思ったのか、唐突にブレスレットを触り水着に衣替えを実行した。
「レイネ急に何やってるんだよ」
水着に着替えたのは良いが、胸元がなんだか心細そうに見える。流石にパッドまでは水着に完備されていなかったようだ。ちなみに足元はサンダルを履いている。
「いやー、なんか水の中みたいだから水着ならどうかなと思ったんだけど……、うんなんだかさっきまで感じていた重さを感じなくなったよ」
えい、やあ、といった感じでパンチやキックをした後、刀を振ってみせた。その動きはリンネからみても、なにかに阻害されているように見えなかった。
「マジかー」
「うん、マジだよ」
まずはリンネがためらいつつもブレスレットに触れて試しに水着に着替えてみせる。リンネの姿は真っ白なビキニ姿に変わる。手を握っては開いてを数回繰り返し、直剣を手に取ると数回振るう。
「確かにさっきまでの重さはないな。だけどなんでだ?」
「ほう、これは興味深いな、ダンジョンの性質が海から近いために変異したのかもしれないな」
いつの間にかリオンの姿が、布面積はそこそこ多い感じの真っ赤でおしゃれなビキニ姿になっている。引き締まった肢体に、お腹は割れてはいないがたるみなども無く、そして普段は着痩せをするタイプなのか、胸はそこそこの大きさを誇っている。
なにげにリオンも、このダンジョンの破壊が終わった後にバカンスをする気満々だったようだ。
「あのー、私は水着とか持ってきてないんですけど」
次々と水着姿になっていく面々をみて、シラベが申し訳無さそうに手を上げる。シラベはリオンと違って真面目さんなようである。
「水着が駄目なら下着姿になってみてはどうかね、ここには女性しかいないから大丈夫だろう」
「下着ですか? それはちょっとどうなのかな」
「ものは試しだ」
「わ、わかりました」
シラベはリンネたちに背中を向けて、ブレスレットを触り普段着へと変わる。水色のワンピース姿となったシラベが「えい」と気合を入れるように一気にワンピースを脱ぐ。シラベの下着はワンポイントなどもない無地の薄いピンク色の下着だった。
「どうだね」
リオンの質問に答える代わりに、軽くジャンプをしてみせたシラベだが、大きな胸がポヨンポヨンと跳ねて、レイネの目がその動きに合わせて上へと下へと移動している。
「大丈夫そうです」
「水着でなくてもいいというわけか、もしかすると肌の露出具合で圧が増すといったところかもしれないな」
「なにはともあれ、これで進めますわね」
「ちょっと防御面が心もとないけどね、アズサはパーカーを着てるけど大丈夫そう?」
ライチがアズサの布面積の多さを見て問いかける。
「大丈夫、です」
普段はコートで隠れているがパーカーのために隠れていないナイフを手にとり振って見せる。動きに違和感がないのを確認して鞘になおすが、邪魔だと思ったのかブレスレットに入れてしまう。
「それでは隊列は一緒で、とりあえず隅から隅まで回る感じで行きましょう、シラベさんはなにか気になることがあれば言ってくださいね」
「ええ、そうするわね」
「何かあるとするなら、脱出用のゲートのある部屋だと思うが、先にそこへ行くのはどうだね」
リオンの提案にそれもそうだと思ったリンネは頷く。
「リオンさんの言う通り一番可能性がありそうなので先にそこを目指すことにします」
武器を持ち水着姿で隊列を組み進んでいく、なんとも言えない雰囲気を醸し出している集団が出来上がっていた。μαに表示されているルートに従い、出口へのゲートに向かっていく。
途中フライフィッシュが襲いかかってくるが、水着になることにより動きが阻害されることのなくなったリンネたちの敵ではなかった。特に何事もなく脱出ゲートのある部屋まで来たリンネたちだが、シラベが調べても何も見つけることが出来なかった。
「駄目ですね、何も見つかりません」
「仕方がない、それでは虱潰しに回っていくしか無いな」
「そうなりますね、それじゃあまずはこのどん詰まりを調べましょうか」
一度通路まで戻り別の道を進んでいく。目的地のどん詰まりが見える位置にまでたどり着いたリンネたちだが、シラベが何かを発見したようだ。
「少し待って下さい、あの行き止まりの壁の向こうになにかあるように見えます」
「わかりました、それでは慎重に向かってみましょう」
リンネたちは罠などがないか警戒しながら奥の壁の前まで移動する。手分けしてスイッチのようなものがないか探すが、特にそれらしいものは見つけられなかった。
「何も無いですね」
「なにもないね」
「何も無いですわね」
レイネとアカリにミレイは何も見つけられなかったようだ。ライチとアズサも同様のようでシラベが壁をペタペタ触っているのを眺めている。
「何も無いですね、この奥に道がありそうなのですが」
シラベがそう言ってこんこんと壁をノックすると突然壁の一部がガコンと音を鳴らし奥へ滑っていった。
「あっ」
シラベのその声に皆の視線がシラベへと向けられる。奥に入っていった壁の一部がカチリとなにかにはまるような音がしたと思えば、壁がしたに下がっていき壁のあった場所には新たな通路ができていた。
「あはは、見つかりましたね」
「なんで急に動いたんだろうね、シラベさんが触っていた辺りは何も感じられなかった」
「なにはともあれ新しい道ができたようだな」
「それじゃあ、この奥に進むよ」
リンネの声に従い隊列を組み直して歩いていく。少し歩くとそこには脱出用のゲートと四階層に移動できるゲートを見つけることが出来た。
「リオンさんどうします? このまま進みますか、それとも一度戻りますか?」
リンネはシラベの下着姿に思うところがあると言ったところだろうか、一度地上へ戻って体勢を立て直すか聞いている。
「いや、このまま進んでしまおう」
「わかりました、それじゃあ少し休憩したら出発するよ」
リンネたちはしばらく休憩した後に、四階層へと降りるゲートを潜っていった。





