第59話 ダンジョンへ
「さて、ここが問題のダンジョンになる、準備はいいかい」
リンネたちは問題のダンジョンへと来ていた。普段はダンジョンに入ってから着替えをするのだが、今回はすでに着替えを済ませている。相変わらずカリンとスズネは姿を見せていないが、それに関しては前日の夜にリオンに相談を済ませている。
リオンが言うには、ここでは機材がないので詳しくは調べられないがと前置きがあった後に調べて貰った。その結果は、リンネのμαにノイズが発生しているらしいということだけがわかった。
結局は何もわからなかったという事だった。今のところカリンとスズネが出てこられないという事以外問題なく機能はしているので、解決は戻ってから考えるという結論になった。問題があるとすれば、いざという時にリンネとアカリ、もしくはリンネとレイネがワルキューレ化できないかもしれないということだろうか。
そういった不安な事を抱えつつリンネたちはダンジョンへ潜り込んだ。ダンジョンの中に入ったリンネたちは一瞬だけ息苦しさを感じたが、それもすぐに収まった。少しの動きにくさを感じたリンネたちだが、その理由は水中の中にいるように体の動きが鈍くなっているためだ。
動きが阻害される以外は、呼吸もちゃんと出来るし仮に火を付けても消えるだけではない。ただ水中を動くように抵抗を感じるわけである。リンネたちは資料でこの辺りを聞いていたので、驚きはなかったがそれでも動きを調整するのに若干の時間を要した。
「そろそろいいかな」
「はい、大丈夫そうです」
「それじゃあ、予定通り三階層まで向かう、途中の戦闘はリンネくんたちにお願いする」
「わかりました。それじゃあ先頭は俺とアカリとレイネで」
「わかった」
「わかったよ」
「続いてミレイ、その後ろにリオンさんとシラベさんで」
「わかりましたわ」
「最後にライチとアズサでお願い」
「わかったよ」
「はい、です」
リンネの指示の元、それぞれが移動をして隊列を組んで進み始める。地図データは既にダンジョンを探索した前任者から提供されたものを使用している。途中で出てくる敵は、事前に聞いていた通りにフライフィッシュだけだったが、前後左右に加え頭上からも襲ってくるので気が抜けない。
と言ってもフライフィッシュ自体は弱いので、攻撃さえ当たれば一撃で倒せてしまう。たまに落ちるドロップは魚の切り身だったりするが、この辺りは拾わずに放置して進んでいく。一時間ほどかけてリンネたちは二階層へのゲートにたどり着き、一度休憩をすることになった。
「結構時間掛かったね」
「だな、全方位警戒しないといけないし、フライフィッシュは弱いとはいえ数も多いしこっちも動きが鈍くなってるからな」
「ボクは結構なれてきたかも」
アカリが立ち上がり、ワンツーといった感じでパンチを放って見せる。見る感じだと外と同じように動けているように見える。
「少しいつもより強めにしているだけなんだけどね」
それを聞いて、それぞれが普段よりも強めに力を込めて動いてみると、確かに先程よりは上手く動けているかもしれない。ただしやはりというべきか、その分疲労も増しているようだ。
「んー確かにスムーズに動けますが、つかれますわね」
「まあミレイやライチは何かあったときのために警戒だけしておいてくれればいいかな、アズサは今までと一緒で遠方にいるのを見つけたら狙撃してくればいいよ」
「わかった、です」
ミレイとライチとアズサが頷く。
「それでリオンさんにシラベさんはなにか見つかりましたか?」
「今のところ何も見つからないな、やはり三階層まで降りて見ないと駄目だろうな」
「私も何も見つけられなかったですね」
「わかりました、よしそれじゃあみんな休憩は終わりにして二階層に行くよ」
「「「はーい」」」
リンネたちは順番にゲートを潜り二階層へと降り立った。二階層は一階層と変わるところもなかったが、一階層よりも少しだけ動きが鈍くなった気がしている。どうやら階層を降りる度に水圧らしき物が増しているように感じられる。
「じゃあさっきと同じ隊列で」
レイネたちは頷くことで答え、隊列を組み歩き出す。フライフィッシュの襲ってくる頻度と数が一階層より増して三階層のゲートへたどり着くまでには二時間ほどかかることになった。
「はー、結構疲れるな」
リンネを始めリオンとシラベ以外のみんなが肩で息をしている。普段よりも力を込めることで普段より動くことが出来るが、その分疲労は普段の倍以上かかるようになっている。それぞれが水筒を取り出してちびちびと口を濡らすように飲んでいる。
「三階層はもっとフライフィッシュの数が増えるのかな」
「ふむ、受けた報告ではそういった事実はなかったはずなんだがな」
「それっていつもと違うってことになるのかな」
「どうだろうな、まあ時間はまだあるゆっくり休み給え」
「そうさせてもらいます」
リンネたちは装備を一度普段着に着替えて、順番に汗を拭いていく。リンネはレイネに背中部分を拭いてもらい、交代でレイネの背中を拭いている。汗を拭い終わると再び装備を整えて休憩をする。
「なんだろ、ここの負荷を利用したら結構鍛えられたりするのかな」
「ここは壊しちゃう予定だから、ダンジョン都市内に同じようなところって無いのかな」
「聞いたことはないね、第一以外の都市にならあるかもしれないが、第一ダンジョン都市では聞いたことがないな」
「そっか、残念だね」
残念そうにしているアカリを見てリオンが少し思案するようにしてから話し出す。
「そういった部屋を作ることは出来るぞ。流石に魔物までは用意できないが、動きを制限して負荷をかけることは出来る、なんなら帰ってからつくろうか」
「いいんですかリオンさん」
「ああ、構わないよ、そんなに難しいことでもないからな」
「お願いします」
アカリがリオンに頭を下げた。それを見てリンネたちも頭を下げる。
「ははは、わかった、それじゃあ帰ったら作ってあげるよ」
この後も少し休憩をすませた後リンネたちは三階層へ向かうゲートを潜っていった。降り立った三階層は青く透きとおっていた一階層や二階層とは違い、薄暗く夜のような、もしくは深海のような不気味さを醸し出していた。





