第58話 も、漏れる
リンネが目を覚ますと、レイネとアカリに左右から挟まれており身動きが取れないでいた。室内は座敷童である幸子の能力によって適温に保たれているが、それでもこうくっつかれていると相応の暑さをリンネは感じていた。
ガッチリと腕をホールドされており、足まで絡まれていては動こうにも動けない。なんとか抜けだそうとあがいていたが無理そうなので、声をかけてみるが起きそうにない。
「うぬぬぬぬ、おいレイネ、アカリ、起きてくれ」
声をかけ抜け出そうと足掻くが、逆に締め付けが増したような気がする。そうしているうちに催してきたリンネは、本気で抜け出そうとするが抜け出せそうにない。
「レイネ、すまん」
そう言ってリンネは頭を振って勢いをつけてレイネに頭突きをする。リンネの頭の中でゴンという音が鳴り響き頭がくらくらしている。
「いったーーーい」
頭突きによって目を覚ましたレイネと、レイネの声で目を覚ましたアカリが起き上がり、リンネから離れた。
「ごめんレイネ!」
それだけ言ってリンネは部屋を出ていき厠へと駆け出した。しばらくすると戻ってきたリンネはどこかスッキリとした表情を浮かべていたのは言うまでもないだろう。
「リンなにするのよ、すごく痛かったんだからね」
「ごめんって、だけどさレイネもアカリも俺に抱きついてたんだ?」
「えっと、それは、きっと寝ぼけて抱き枕と間違えたんだよ」
「ボクもその抱き枕と思ったのかな」
「レイネもアカリも普段から抱き枕なんて使ってたか?」
リンネはジト目で二人を見るが、二人はリンネから顔をそむけて「あはは」と笑ってごまかそうとするが、ごまかせなかったようだ。
「まあ良いけどさ、なんかもう一度寝る気もしないし散歩でも行くか」
「いいね」
「ボクも行く」
そうと決まれば、まだ寝ているライチとアズサとミレイを起こさないように着替えを済ませて玄関へと向かう。
「ふむ、まだ日も出てないが散歩かい」
「あっ、おはようございます幸子さん、ちょっと目が覚めてしまって散歩にでも行こうかと」
「おはようさん、まあなにもないと思うが気をつけて行っておいで」
「はい、行ってきます」
「帰ってくるころには朝食を用意しておくから」
幸子に見送られリンネたちはとりあえず海岸へと向かう。家から出てμαをオンにしてスズネとカリンの反応を確かめたが、相変わらずリンネのμα内にいるのか全く反応が帰ってこなかった。
まだ日が出ていないので少し空気が冷たいようで、レイネとアカリが左右から腕に抱きつくがリンネはされるがままにしている。三人とも半袖半ズボン姿なのだが、レイネとアカリにとっては抱きつく口実ができて良かったのかもしれない。
「くっついてるとちょっとは温かいでしょ」
「まあ、そうかもな」
海に着くと堤防の上に上がり三人は座って海を眺める。しばらくすると地平線から太陽が昇ってくるのが見え始める。海は朝日の光を受けてキラキラと輝いている。リンネたちは一言も喋ることなく日が昇りきるまでその光景を眺めていた。
「さてと帰るか」
「そうだね、陽が上がると暑くなってくるね」
「さっきまで肌寒かったのにね」
家に帰り着いた三人は、散歩で汗をかいたので起きていたカナと幸子にお風呂を使っていいかを確認してから朝風呂を済ませる。三人がお風呂を済ませて戻るとすでにライチたちも目を覚ましており、朝食の準備もすんでいた。
朝は焼き魚とご飯とお味噌汁に生卵と海苔と、リンネたちにとっては珍しい献立だった。
「リンもレイネもアカリも、わたくしも起こしてほしかったですわ」
「うちも誘ってほしかったな」
ミレイとライチもどうやら海から登る朝日を見たかったようだ。アズサは特に興味はなかったようできれいな所作と箸使いで焼き魚を食べている。
「なら明日はみんなで行こうか」
「それでしたら、まあよろしいですわ」
「約束だからね」
思いがけず明日も朝は海岸で朝日を見ることになった。リンネはあの光景なら何度見ても飽きることはないかなと思いながら、うなずき食事をすすめた。
◆
食事の後は證空市の後、持ってきている宿題を開始する。と言ってもリンネはすでに終わらせていて、まだ終わらせていない面々の質問に答えていた。夏休みの宿題に関しては性格が出るものなのだろう。
リンネは夏休みに入ってから3日ですべて終わらせており、レイネは毎日決まった量だけこなすタイプのようだ。アカリは後半に一気に済ませるタイプで、ミレイは集中力が続くだけ毎日済ませている。
ライチは普段は最後の最後に自分を追い込んで一気にやってしまうタイプで、アズサはミレイと同じ感じで集中力の続く限りなのだが、その集中力がかなり長時間維持できるタイプのようでリンネ同様に宿題は終わらせていた。
「リン、ここ教えて」
「あっ、ボクもその部分わからなかったんだ」
「あーそこな、そこはほれここの公式にあてはめるとだな」
「そうなんだ」
「ホントだ出来た、リンありがとう」
このような感じで、午前いっぱいは宿題にあてて過ごした。昼食を済ませた後は、また少し町を見て回ったりして過ごした。そして日が沈み始める夕方にリオンともう一人女性が到着した。
「はじめましてになりますね、私は八井シラベです」
そう言って頭を下げているのは、腰ほどまであるロングの茶色の髪をしており、メガネを掛けた20代くらいの女性だった。
「はじめまして、姫咲リンネです」
リンネたちが順番に自己紹介を済ませた所で、リオンたちにはお風呂を先に使ってもらい、リオンたちがあがった所で、交代するようにリンネたちもお風呂を済ませた。
全員揃った所で晩御飯を済ませ、少しの食休みの後に全員が集まり、明日からの予定を相談することになった。ダンジョンの位置は散歩のときに確認済みなのである。
「資料にはすでに目を通してもらってると思うが今回潜る小型ダンジョンは三階層と思われている。出てくる敵に関しては珍しく全階層同じでスカイフィッシュと呼ばれる、空を泳ぐタイプの魚型の魔物になる」
レイネたちは手元の資料を見ながら頷く。
「全三階層と思われているが、最下層ではボス部屋が見つかっていない。この事から三階層よりも下の階層へ続くゲートがどこかにあるものと思われる。そこでレイネくんたちの仕事は探知に優れたシラベの護衛をして最下層の探索ということになる、ちゃんと私もついていくので心配しなくてもいい」
「私のクラスは地図師、えっと地図を作成するクラスなので、戦闘能力は最低限と思ってください」
「そういうわけだから、護衛の方はよろしく頼むよ」
「「「はい」」」
「明日はとりあえず三層まで到着し、その後にシラベが地図作成スキルを使い、おかしなところが無いかを調べることになる。期間は3日だが、その3日間はダンジョンへ潜ったままと思ってほしい。テントなどの用意はこちらでしているので問題ない。そういうことで明日は朝早くからダンジョンへ向かうので、今日は早く寝ておくように」
そうリオンが話しをしめて解散となった。この夜は流石にレイネとアカリはリンネに抱き着くこともなくぐっすりと眠りについた。





