第47話 お兄ちゃんからの卒業
「レイネー、どいてくれないかな」
μαの仮想空間から現実へと戻ったリンネだが、上にレイネが乗っていて身動きができないでいた。
「あっ、ごめんすぐ降りるよ」
リンネとレイネがベッドから降りると目の前にはスズネが浮かんでる。
「戻ってきたようだな、私には見えないが新たなワルキューレが誕生したという事でいいのかな?」
スピーカーからリオンの声が聞こえてきた。
「はい、俺とレイネのワルキューレが生まれました」
「そうか、それなら着替えを済ませて戻ってきてほしい。それと部屋移動だ、ホログラム装置のある部屋でならワルキューレを視認できるからな」
「わかりました」
部屋を出て着替えを済ませたリンネとレイネはリオンと合流する。
「お待たせしました」
「それでは移動しようか」
部屋を出ると、廊下で待っていたアカリたちが集まってくる。
「この子がリンネさんとレイネのワルキューレなんだね」
「アカリには見えているんだね」
「うん、見えてるよ」
「とりあえず部屋を移動するから付いてきてくれ」
リオンが先行して先へと歩いていく。それにぞろぞろとリンネたちは付いていく。たどり着いた部屋は、以前カリンをホログラムのように表示した装置があった部屋だった。
「リンネくん、前回と同じようにその装置の上に乗るように言ってもらえないかな」
リオンのその言葉を聞いて。リンネが何かを言う前にスズネが装置の上に乗った。それにより、スズネの姿がリンネとレイネとアカリ以外の者にも見えるようになった。
「この子がリンネさんとレイネのワルキューレなのですわね、確かに顔立ちなどはそっくりですわね」
「本当にワルキューレが生まれるのですね。条件が揃えばうちとリンネさんの間にもワルキューレが生まれるということなのかしらね」
「ちっちゃくてかわいい、です」
『わたしの名前はスズネです、みなさんよろしくお願いしますね』
スズネはホログラムと言う形で他の人にも見えているとわかると、自己紹介をした。
「あれ、声が聞こえる、確か以前はその装置に乗ったら声が聞こえなくなってましたよね」
「ふっふっふ、そこは改造を済ませたのだよ、だからリンネくんやレイネくん以外にもその子の声は聞こえてるはずだ」
リンネがミレイに視線をやると、ミレイは頷きながら「わたくしにも聞こえましたわ」と答えた。アズサとライチも同じ反応だ。それを聞いたカリンがスズネの乗っている装置に入り込んだ。装置の大きさ的に二人並べば結構ぎりぎりな広さしか無い。
『あーあー、マイクのテスト中、本日は晴天なりー』
『カリン押さないで、狭いんだから』
『ごめんごめん、本当に聞こえてるみたいだね』
不思議なことにワルキューレ同士は、まるで質量があるように接触できるようだ。それを含めてそんな二人のやり取りを見てリンネたちは驚いている。
「ふむ、成功のようだな。出来た時に一度カリンくんに協力してもらおうと思っていたのだが機会がなくてな、ちゃんと機能していて何よりだ」
リオンが満足げに頷いている。
「それにしても、子供の頃のレイネにそっくりですわね」
「ふんふん、確かにレイネに似ているかな? でも目元なんかは今のリンネさんっぽいですね」
ライチが昔を思い出すようにスズネを見ている。
「かわいい、お持ち帰りしたい、です」
アズサのスズネとカリンを見る目がなんだか怪しい。
「そうだ、改めて自己紹介したほうが良いかな」
『そうだ、リンネお母さんとアカリお母さん、それとレイネさん以外の方と言葉をかわすのは初めてですね。それではボクから行きます。ボクの名前はカリン、リンネママとアカリママから生まれたワルキューレのカリンです』
カリンがペコリと頭を下げる。そしてカリンに続くようにスズネも挨拶をするようだ。
『先程も一度ご挨拶させていただきましたが、スズネです。リンネママとレイネママとの間に生まれたワルキューレです、今後とも宜しくお願い致します』
ペコリと頭を下げるスズネ。この後はリオンから自己紹介をすますことになった。自己紹介も終わったところで思い出したようにレイネがリオンに話しかけた。
「リオンさん、私とお兄ちゃんとスズネでワルキューレ化はしなくて良いのかな?」
「ワルキューレ化は少し待ってほしい、というよりもだ、切り札として残しておいた方がいいだろう」
「そうなのですか?それに切り札というのは?」
「そうだな、カリンくん今はリンネくんとアカリくんの二人でワルキューレ化はできそうかい?」
「残念ながらまだワルキューレ化は出来ません」
「といった感じでだな、一度ワルキューレ化してしまうと次にワルキューレ化をするのにそこそこ時が必要そうでな」
「またあの時のような事が起きるかも知れないと?」
「そうだな、それもある。後はこちらの問題だな、今日取ったデータの解析なども少し時間がかかりそうでな」
リオンの言葉に少し残念そうなレイネだったが、リンネが頭を撫でることで機嫌をなおした。
「わかりました、そうします、確かに何もない今ワルキューレ化しても意味がないですからね」
レイネに代わりリンネが返事をする。
「それと今日はもう帰ってもらって良い。今日の結果は近いうちに連絡することにする。質問などがあれば受け付けるが、それも後ほど結果が出てからのほうが良いかも知れないな」
リンネは何か聞きたいことがないか周りに確認してなさそうなので帰ることにした。
「それでは今日はここで帰らせていただきます、リオンさんありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
「研究の一環だから気にしなくてもいい。それでは気をつけて帰るように。お疲れ様」
「リオンさんもお疲れ様です」
スズネとカリンが装置から飛び立ちリンネの両肩に座る。重さは一切感じないようだがなんだかくすぐったい気がするようだ。
覚醒者協会から外に出たリンネたちは、どこかでご飯を食べて帰ろうかとなり商業施設行きのバスに乗り込んだ。二人ずつに分かれて座席に座るとバスは進み始める。リンネの隣にはレイネが座っていてスズネと話をしている。
「なあレイネ」
「ん? なあにお兄ちゃん」
「それ、そのお兄ちゃんっていうのそろそろやめないか?」
「どうして、お兄ちゃんはお兄ちゃんだと思うけど」
「ほら、俺もこんな姿だしさ、それにもう俺とレイネはその、そういった関係になったわけだし、お兄ちゃんって呼びをやめてリンネって呼んでくれてもいいと思うんだけど」
少し照れ気味にリンネは頬をポリポリと掻いている。それを見たレイネの心境は「やだ何この可愛い生き物」といったものだった。
「そうだね、でもリンネだと学園なんかでややこしいから、リンって呼ぶことにしようと思うけどいいかな?」
「ああ、それでいい」
『リンママですか?』
「スズネはリンネでもリンでもどっちで呼んでも良いけど」
『わかりましたリンネママ、レイネママ』
リンネとレイネとスズネのやり取りを、離れた席に座ってしまったアカリがぐぬぬといった感じで見ていた。そんなアカリはバスから降りたところでリンネに「ボクもリンネさんのこと、学園でリンって呼んでいいよね?」と了承を取ったのは言うまでもないだろう。





