第41話 はちじちょうどのあずさむそうで
リンネたちはアズサ無双のお陰で四階層を、被害を受けることも無く通り抜けることが出来た。まさに狙い撃つぜといった感じで、隠れているはずのダーククロウも高速で突撃してくるソードスワロウもスキルすら使わずに、サクサクっと倒していた。
リンネたちは五階層にたどり着いた。一階層が草原、二階層が草原と森、三階層は岩山、四階層は森林、そしてここ五階層は石造りのダンジョンらしいダンジョンになっている。
この高等部ダンジョンは、中等部ダンジョンと違い最下層が十階層になっている。ただし五階層にはボス部屋があり、そのボス部屋を超えないと次の階層には行くことが出来ないようになっている。
五階層に出てくる敵はシャドウウルフ、ワーラット、ブラッディバット、ゴーストフォッグといった感じで多彩なラインナップで揃えられている。
シャドウウルフは全身が影のように真っ黒なオオカミで、実体を持たない魔物になる。倒すには火か光系統のスキルを使えば簡単に倒せる。ワーラットはやせ細ったネズミが二足歩行しているような見た目で、爪と牙で攻撃してくる。
ブラッディバットは、血吸いコウモリで大きさは普通のコウモリと変わらないのだが、出てくる時は数が多いので注意が必要になる。大きな音を鳴らすと前後不覚に陥って壁に当たって勝手に自滅する残念な魔物だったりする。
最後にゴーストフォッグなのだが、名前から想像できる通りコイツは物理攻撃が全く効かない。ただし魔法系統のスキルを使えばダメージを与えることができるので、それほど倒すのは難しくない。
仮に戦士系のクラスだとしても、アカリのブレイブヒートのように武器に何がしかの付与がついていれば良かったりする。魔法使い系のクラスが仲間にいれば全く苦労することのない魔物ではある。
というわけで、五階層ではもうライチ一人で良いんじゃねといった感じで進んでいた。
「この階層はうちに任せるといい」
ライチが梵字と呪文の書かれた御札を複数枚取り出し、それを空宙に放り投げる。御札は不思議なことに空宙にとどまっていた。
「我請い願う、式神よきたれ、急急如律令」
ライチのその言葉に呼応するように御札が火の気もないのに燃え上がり、御札の消えた場所には鬼火が出現していた。青白く燃える鬼火が出現していた。この式神召喚はスキルではなくライチが元々使えた力である。
ライチの実家はゲンタと同じように古くから陰陽術を継承してきた一族だった。そんなライチが陰陽師のクラスを得たことは必然だったのだろう。スキルと陰陽術、2つが合わさることによって、ライチはその力を十全に発揮できるようになっている。
「シャドーウルフとゴーストフォッグはうちに任せてよ」
「ブラッディバットはわたしが担当する、です」
「それじゃあワーラットは俺がやるかな」
「ワーラットって複数出るからね、私とアカリも一緒に戦うよ、そのほうが早くすむから」
「うんうん、ボクもやるよ」
「役割は決まったという事で行こうか」
「「「おー」」」
気の抜けるような掛け声を聞きながらリンネたちはボス部屋へ向かう。途中に出てくる魔物は先に宣言した通りささっと役割通り倒して進んでいく。哀れなのはシャドーウルフとゴーストフォッグではないだろうか。この二匹は目視ができる前に鬼火が勝手に飛んでいき倒している。
鬼火に触れるだけであっさり倒されてしまうので、結局ボス部屋の前にたどり着くまで、リンネはシャドーウルフとゴーストフォッグの姿を見ることはなかった。ブラッディバットも真っ先に見つけたアズサが処理してしまうので、気がつけば天井からドロとなって落ちてくるのを何度か見かけただけだった。
ワーラットに関しては4,5匹が一緒に出てくるが、リンネとレイネとアカリの敵ではなく、一撃で泥になっている。レイネのパーティーは元々高等部一年でトップクラスの実力揃いだったのだが、それにリンネが加わることにより殲滅力が更に向上したことになる。
そして五階層のボス部屋の前に到着した。中等部のボス部屋と同じように、広い空間にボス部屋へのゲートが一つ、脱出用にゲートが一つある。そして中等部ダンジョンとは違う場所が一箇所だけあった。ボス部屋へのゲートを挟むように脱出用のゲートとは反対側にもう一つ何も映っていないゲートがある。
「それじゃあボス部屋に行く前に少し休憩でいいかな」
「休憩と装備の再点検だね」
それぞれが収納のブレスレットからカバンを取り出し、水とチョコや飴を食べている。
「そこのゲートって中等部のダンジョンにはなかったよな」
「あーそれね、それがボス部屋からの脱出用のゲートだよ」
「そうなのか? でも変遷前の中等部ダンジョンのボス部屋前にはなかったよな?」
「言われてみれば……、きっと最初にボス部屋へ行った時から変遷の兆候があったのかも知れないね」
「ボクも気が付かなかったけど、確かになかった気がするね」
「これがあるということは、ボス部屋に入っても確実に戻ってこれるということですわね」
「中等部のダンジョンのことだよね、うちも誘ってくれたら良かったのに」
「大変だったって聞いた、です。みんな無事で良かった、です」
ライチとアズサは中等部ダンジョンに関しての詳細は聞いていなかった。リンネたちがちょうど大変遷の時期に中等部ダンジョンに入っていたことは知っていたので、その中等部ダンジョンが消滅したことと照らし合わせて中で何かがあったという想像は難しくなかった。
「確かに大変だったね、生きているのが不思議なくらいだったよ」
レイネの言葉に、うんうんといった感じでリンネとアカリとミレイが頷く。
「残念だけど詳細は教えられないけどね」
「むむ、うちも誘ってほしかったかな」
「それも考えたんだけど、ライチもアズサも自主練してたでしょ」
「そうなんだよね、うちもアズサも実家で色々あったからね」
ライチとアズサは幼馴染の関係で、家ぐるみの付き合いもある。そして珍しいことに二人の実家は、この第一ダンジョン都市ができる前から、ダンジョン都市の範囲内に存在している。
霧影ゲンタや祭音リオンと同じように、古来よりアヤカシなどと交流のあるいわゆる旧家に属している。ダンジョンから魔物が溢れた際も協力的なアヤカシたちと協力して守り抜いた結果でもある。
各ダンジョン都市には偶然とは言えない確率で、ダンジョンの近くに旧家があった。一時期は始原ダンジョンが現れた場所には、旧家が影響を与えたのではないかと言われていたりもした。だがダンジョンが世界規模で出現したということがわかりそういった噂も自然と消えたことになる。
「さてと、休憩は終わりにしてボス戦と行こうか」
リンネの呼びかけに、レイネたちも準備万端といった形でゲートへと向かう。
「準備はいい? それじゃあ行くよ」
「「「おぉー」」」
リンネがゲートに入ると、レイネたちはリンネを追うようにボス部屋に続くゲートへと突入していった。





