第36話 今はこれで
「えっ、え、えぇぇぇぇぇー、聞いてないよー」
レイネの叫び声を聞きつけたリンネとアカリが2階から玄関に降りてくる。
「叔父さんお疲れ様、ミレイもおかえり」
「なんだか懐かしいですわね、リンネさんただいまですわ」
「おう、リンネもレイネも手伝ってくれ」
玄関にはゲンタが何回か往復して運び込まれたダンボールが積み上がっている。そのダンボールを持って階段へ向かう。
「ミレイの部屋は前のところと一緒にしてるからな」
「ありがとうございますわ」
ダンボールを抱え、並んで階段を昇っていく。それに続くようにレイネとアカリもダンボールを抱えて階段を上りはじめる。何往復かしてダンボールをすべてミレイの部屋に運び込んだ面々は一度リビングに集まった。
「それで聞いてなかったのは私だけってことかな?」
「すまんレイネすっかり忘れてた」
ひたすら謝るリンネにレイネは「わかったからもう良いよ」といって今度はゲンタを問い詰める。
「それで叔父さんの提案なんだって?」
「お、おう、そうだ、ほらアカリちゃんに関してはカリンのことがあるからなるべく一緒にいたほうが何かと良いだろうってことでな」
「もうカリンちゃんのことを言われたら何も言えないよ」
レイネの視線の先にはテーブルの上でぺたん座りをしているカリンの姿があった。そして今現在、レイネにもゲンタにもその姿が見えている。なぜリンネとアカリ以外にもカリンの姿が見えているのかと言うと、数日前にリオンが家にやってきて家の各所にホロ装置を設置したからだ。
リオンが最初につかった大きなホロ装置の小型化に成功した。それをマイクロカメラと組み合わせることにより、台座に乗らなくてもこの家の中でなら誰にでも見ることができるようになっている。ただし相変わらず声だけはリンネとアカリにしか聞こえない。
「それでアカリはわかったよ、でもミレイはどうしてなの?」
「あーそれは」
「わたくしがお願いしたのですわ、それにリンネさんやゲンタさんには了承していただきましたわ」
「どうしてまたそんな事を」
「それは、リンネさん」
ミレイはリンネを見ながら呼びかける。
「どうした?」
「わたくし、リンネさんが好きですわ」
「「「えぇーーーーー」」」
どスレートな告白にリンネやレイネにアカリが驚き声を上げる。
「その銀色に輝く髪、そして雪よりも白い肌、なにより、その、お、男らしい立ち居振る舞い、わたくしの性癖、ごほん、わたくしの好みにどストライクなのですわ」
ミレイの急なカミングアウトにみんなドン引きである。
「そんなの私が許しません、ミレイがここに住むのは却下、ダメダメだから」
「レイネ酷いですわ、こんなに想い合っているわたくしとリンネさんを引き離そうだなんて」
「ミレイごめん、今の俺にはそれに答えることはできない」
急に告白をされて困惑していたリンネはなんとかそれだけ言って返した。
「ほ、ほらお兄ちゃんもこう言ってるし、想い合ってないし」
「うふふ、リンネさん今はそれでよろしいですわよ、今後わたくしを少しずつでも好きになっていただければいいだけですから」
「その想いには答えられないけど、別に一緒に住むのはかまわないと思う。レイネもいいだろ、昔みたいにさ」
「むぅー……、わかった」
リンネに頭をぽんぽんと撫でられ、仕方ないかと了承するレイネだった。いっぽう話に加わらなかったアカリだが、カリンの存在のお陰でこの中の誰よりも一番リンネに近い立ち位置だと余裕ぶっている。
「さて、話も済んだことだしなにか食いに行くか? いまから作るのも大変だろ」
「あー確かに、今からこの人数分作るのはちょっと大変かな」
リンネが冷蔵庫の中身を思い出しながら答える。
「それならなにか出前でも頼んじゃう? ほらアカリもミレイも荷物の整理とかあるでしょ。ついでに歓迎パーティーを開いちゃうのもいいんじゃないかな」
「それも良いかもな、よしレイネ買い出しに行くぞ」
「それじゃあボクもついていこうかな」
「いや、アカリとミレイは荷物の整理でもやっててくれ、寝間着とか着替えとか荷物整理しないと使えないだろ?」
「そうですわね、わかりましたわ。お買い物はおまかせして荷物の整理をさせていただきますわ」
「あー、それもそうだね、ボクも荷物の整理しないとね」
アカリもミレイも荷物の整理をすることになり、リンネとレイネはゲンタと共に近くの店に買い出しに行くことに決まった。
◆
近くの24時間営業のスーパーまでゲンタに車で送ってもらったリンネとレイネは色々と買い物をしている。歓迎会の食事と別に明日以降の食事に使う材料などもまとめてカートに乗せている。
普段は配送サービスを利用して購入しているのだが、リンネがアカリとミレイが来ることを忘れていたので、まとめて購入することにしたようだ。
「そういやシャンプーとか一緒ので良いのか?」
「あっ、そうだね、ちょっと聞いてみる」
レイネがアカリとミレイに同時通信を申請する。何回かコールが鳴った後アカリとミレイに繋がったので、シャンプーはじめ歯ブラシなど大丈夫かと確認していく。その結果いくつか買い物を頼まれそれらもカゴに入れていく。
「レイネごめんな、勝手に決めてさ」
「ん~何のこと?」
レイネがお菓子を選びながら返事をする。
「アカリとミレイのことだよ」
「別に気にしてないよ」
とは言うものの心なしか声は沈んでいる。そんなリンネがレイネの頭を撫で始める。
「お兄ちゃん、悪いと思うなら一つお願いを聞いてほしいかな」
リンネは撫でていた手を放してレイネと目を合わせる。
「俺ができることなら何でも聞いてやるよ」
「本当? なんでも良い?」
「ああ、なんでも良いよ」
「それじゃあ……、もう少し考えてからにするね」
「わかった」
言うことを取りやめたレイネだが、本当は「キスして」と言おうとしていた。アカリの宣戦布告とも言える言葉を聞いて焦りのような物を感じた結果だが、それでもギリギリのところで踏みとどまった結果である。
「(はぁ、お兄ちゃんの方から言ってくれたら良いのにな)」
「ん? なにか言ったか?」
「これとこれどっちが良いかなって言ったんだよ」
2種類のポテチの袋を手に持ってごまかす。
「どっちも買えば良いだろ、袋から出さなければ置いておけばいいだけだからな」
「じゃあそうする」
レイネは2種類のポテチをカゴに放り込む。
「こんなものでいいかな」
「これだけあれば十分だろ、それじゃあ会計するか」
カートごと無人スキャンを通過して、電子カードで支払いを済ませる。二人がかりで袋詰めをしてゲンタの車で家に帰り着く。
「それじゃあ俺は戻るわ」
「おじさんも一緒に食べればいいのに」
「お前な、お前らみたいな若い女の子の中に、俺みたいなおっさんが混じってどうする」
「確かに絵面的にやばいね」
リンネが買い物袋を抱えて家の中に入ったのを確認してからゲンタはレイネに話しかける。
「レイネ、アカリちゃんもそうだがミレイも色々事情があってな、すまんが頼む」
「うんわかってる、二人は友達だからね、だけどお兄ちゃんを譲る気はないよ」
「はは、リンネも大変だな、まあお前らのことは別に反対しないから好きにしたら良い」
「言われなくてもそのつもりだよ」
「ワルキューレのことがあるから、俺の立場としては止めたいが、それもレイネが思うようにしたらいい」
「いいの?」
「無理強いだけはしてやるなよ」
「しないよ」
荷物をおいたリンネが戻ってきたので会話を止めて、すべての荷物を車から取り出したのを確認してゲンタの車は去っていく。
「何の話をしてたんだ?」
「アカリとミレイをよろしくだって」
「そうか、今までずっと二人だったからな、にぎやかになりそうだ」
「そうだね」
片手に買い物袋を持ち玄関へ向かいながら、レイネはそっとリンネの空いている手を握る。リンネは自然にその手を優しく握りかえす。今はまだこれだけでいい、でも近いうちに必ず告白をしようと、リンネの手のぬくもりを感じながらレイネは決意するのであった。
ここで第一部完となります。
今後の更新に関しましてはしばらくは毎日18時更新とさせていただきたいと思います。
カクヨムの方で先行公開させていただいておりますので、
続きはよーという場合はそちらで読んでいただいても良いかも知れません。
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正直なところネトコンの一次通過の条件などわからないのですが、ポイントがあったほうが通りやすいのでしょうかね?





